「スクラムハーフは体格に関係なく、総合能力(コンプリヘンシヴ)において最も優れた選手を置くべきである。なぜなら、最初にボールにタッチして、戦局を見て、チームの戦法を選択して遂行する存在だからだ」
茗渓学園を全校高校大会優勝に導き、のちにワールドラグビー理事やアジアラグビー協会会長を務めた徳増浩司さんが若き日、ウェールズへコーチング留学――実態は20代若者の冒険旅行だった――した際に、ウェールズの図書館で読んだコーチングガイドに書かれていた文章である。徳増さんは、世界ラグビー史上最高の選手と呼ばれたウェールズ代表SHガレス・エドワーズに憧れてウェールズを目指した。そして徳増さんは、史上最高の選手であるガレスがなぜSHだったのか、その文章を読んで理解したという。(『奇跡のラグビーマン村田亙』(大友信彦著)参照)
その伝説が、21世紀の日本に再臨するかもしれない――大げさに言うと、そんな予感がした。
山田響、SHへコンバート。
栗原徹監督が山田にSH転向を提案したのは、昨季のシーズンが終了した大学選手権2回戦、早大戦の翌日だった。慶大は、チームの公式戦が終了してもシーズンを終了にせず、練習を続けた。