「フィールドの中でも外でも、一番響いてくる存在は、トシさんですね」
そう言ったのは、稲垣啓太だった。
サモア戦翌日の囲み取材。稲垣は、チームの雰囲気について話をしていて、自らトシさん――廣瀬俊朗の名前を出した。
「トシさんが、チームのオンフィールドも、オフフィールドも引っ張ってくれているんです。試合のあとの切り替えとか、オンフィールドでもゴミを拾おう、ロッカールームもキレイにして帰ろうと」
練習グラウンドから引き上げるとき、スパイクについていた芝の切れ端が、コンクリートの通路に散らばることがある。スパイクを叩きながら歩けば、芝の葉とともに、土も落ちる。何気なく見逃してしまいそうなことだけれど、それは美観を損ねる。
「ホントに細かいことですけど、そういうことが一番大事だと思うんです。それを、トシさんみたいなキャリアのある人が言うと、より重みを増すと思うんです。」
同じBKの立川理道はこんな言い方をした。
「本人は、試合に出られないのは辛い状況のはずなのに、そんな素振りを一切見せず、練習では常に100%でやっている。私生活でも、見本になってくれる。ノンメンバーを含めて、チームをしっかりまとめてくれる。ロッカールームを先頭に立って掃除してくれるし、サモア戦の前には、率先して相手を分析して、練習ではピシの動きをやってくれる。何か相談しても、的確にアドバイスしてくれるんです。僕が考えていなかったポジショニングのことでも、外で見てて気づいたことを言ってくれた。すごく助かっています」
「試合のメンバーが発表されるまでは、絶対に入ってやろうと思って努力する」
廣瀬俊朗。2012年、エディージャパンが旗揚げしたときから2シーズンに渡ってキャプテンを務めた男は、ワールドカップが始まって3試合、一度も試合のメンバーに入っていない。それでも、そんな不満はおくびにも出さず、練習では先頭を切ってグラウンドに出て、先頭を切って走る。フィットネスメニューでも、コンタクトメニューでも、常に全力を出し切る。