「スター」山田章仁の新しいアクションに思い出す、代表デビュー戦のポジティブオーラ | ラグビージャパン365

「スター」山田章仁の新しいアクションに思い出す、代表デビュー戦のポジティブオーラ

2020/05/17

文●大友信彦


これがスターなんだな、と思ったことを覚えている。
山田章仁のことだ。

時は2013年11月。英国北ウェールズのコルウィンベイ。小さな町の、陸上トラックがあって、スタンドの屋根も小さい、質素なスタジアム。

山田はこの試合にリザーブで登録され、背番号23をつけ、後半28分からピッチに入った。28歳での初キャップ。10代で世に出る選手も珍しくないWTBのポジションでは遅咲きだ。この試合に背番号11で先発し、山田と交代でベンチに下がった藤田慶和は山田より8歳下だが、その前年、18歳9カ月で初キャップを獲得していた。

山田章仁、万感の初キャップ(2013年公開)

「スターだなあ」と思ったのは、試合が終わったあとの光景だ。
ピッチからロッカールームに引き上げる日本の選手の列にあって、最も多くのファンに囲まれサインや写真をねだられたのが山田だったのだ。

山田はこの試合でいいプレーをした。短い出場時間ながら、相手キックを捕ればカウンターを仕掛け、ボールを持ってゴールラインに迫った。だが、惜しくもデビュー戦でのトライはあげられなかった。ピッチに入ったときの40-13というスコアはそのまま動くことなくフルタイムの笛を聞いた。

とはいえ、誰の目にもわかりやすい活躍をしたとまではいえなかった。何しろこちらは、初めて彼のプレーを見た慶大1年の慶明戦から、誰をも引きつける山田のスーパープレーを何度も見てきている。自陣からの90m独走も、タックルを次々と浴びながら身をかがめて擦り抜け、ディフェンダーの林立する中をかいくぐってのトライも、何度も見てきた。セブンズでは2006年アジア競技会で金メダルを決める逆転サヨナラトライも決めた。だが、多くのファンタジスタ系トライゲッターが評されてきたように、ディフェンスを含めたコンタクトプレーへの積極性が足りないという評価はつきまとっていた。

アメリカンフットボールと二刀流にチャレンジするなど個性的な言動、奇抜なヘアスタイルをみせたこともあった。ファンも多いがアンチもいた。いろいろな回り道を経て迎えた初キャップの試合で見せたのは、地味で痛いプレーもいとわない、泥臭く身体を張るパフォーマンスだった。

それは、初キャップまでの長い道のりを知っている身としてはとても感動的なパフォーマンスだったのだが、ここはコルウィンベイ。「ブリテン島で最もラグビー熱の高い」ウェールズでは例外的にサッカーの方が人気があると言われる北ウェールズの小さな町だ。金曜のナイターに駆けつけた観客には、サッカーチームのレプリカウェアを着たファンも多かった。だけど、そんなファンが列をなして取り囲んだのは、ほんの10分ちょっとプレーしただけの山田だったのだ。

そして、そういうファンに対して山田はナチュラルに、堂々と、フレンドリーに接した。
「オレでいいの?」「間違えてない?」なんて照れる素振りは一切ない。そんな発想はカケラもない。自分に向けられた視線のすべてをポジティブなエネルギーに変換して、それを送り主に贈り返す。そのオーラが見えるから、初めて見たファンも引きつけられるのだ。おそらくは、日本代表に対する予備知識もほとんどなかっただろうコルウィンベイの人たちがマンオブザマッチとして遇したのが山田だったことは、記者にとっては新鮮な、ちょっとした衝撃であり、同時に「やっぱりスターなんだな」と感じる瞬間でもあった。

6年半も前のこんな場面を思い出したのは、山田章仁がこの春に取り組み始めた活動に触れたからだ。
山田は5月11日から、WEB上で「オンライン就活」という活動を始めた。就職・転職などを経験し、ビジネスの最前線でキャリアを積んでいる講師を招き、実際に就活に臨んでいる学生を生徒として招き、ホストとしてその2人に質問を振りながら「就職・ビジネス・転職・キャリアアップ」などを考えるWEBセミナー。山田は「僕自身セカンドキャリアを考えなきゃいけないし、自分の勉強のためでもあります」と言いながら、生来のサービス精神はそこかしこに発揮される。話題の合間にはラグビーの話題も入れるし、正統派の就活ネタに、ときには笑いの要素も入れる(「そうだ思い出した、1社だけ就活してみたんだ」と披露したのが、某テレビ局の面接にチノパン&Yシャツ姿で出かけたエピソード「オレ一人。浮いてた。でも1次は通った」という笑い話だった)。どの方向から興味を抱いて入って来た人にも、満遍なく楽しんでもらいたい――それを自然にやってしまう、生まれつきのエンターテイナーなのだ。

さらに、15日(金)からはオンライントークと銘打ったトークショーを、第1回のゲストに武井壮さんを招いて開催。16~17日の土日は、プロのトレーナーと一緒にオンライントレーニングも企画した。18日(月)にはオンライン就活の第2弾、今度は広告会社の博報堂から転職支援会社ビズリーチへ自ら転職し、さまざまな新規事業を立ち上げた経験者を講師に招いて実施する。

「題して『日本を暇にさせない作戦』です。いろんなことを企画して、このステイホームの時間を充実した時間にできるようにコンテンツを提供したい。最初から全部がうまくいくかどうかは分からないけど、そこで四苦八苦する山田の姿も楽しんでもらえれば」と笑う。何も恐れていない、スターでありながら選民感や威圧感はまったくない。周りの人を楽しませたい、幸せにしたいという、決意というほど大げさではない、あくまでナチュラルなアクションだ。

リラックスできる、ポジティブなエネルギー。
あの夜、スタジアムで山田のテストデビューを目撃したコルウィンベイの若者たちは、おそらく先入観や事前の情報を持たないまま、山田のこんなキャラクターを感じ取って、笑顔で集まったのだろうな。彼ら彼女らにも見て聞いてもらえたらいいな、とふと思う。もしかしたら、あの夜山田に触れて、2年後のワールドカップ・イングランド大会での日本代表と山田の活躍を見て「あの人だ!」と思い出して、日本語の勉強を始めた子もいるかもしれないし。
実際、11日の第1回オンライン就活のQ&Aタイムには、留学先の英国で試聴していた学生から質問が飛び込む場面もあった。オンラインで世界が結ばれた時代、新しいアクションは瞬時に国境を飛び越えて人間関係を広げていくのだ。

それぞれのオンラインアクションの詳しい情報および申し込みは山田章仁ブログからどうぞ。参加費はいずれも1100円(税込み)。

https://lineblog.me/akihitoyamada/



▼山田章仁選手の過去記事一覧はこちら!

大友信彦
(おおとものぶひこ)

1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。

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