ラグビーにおける前面投影面積=大野均の「低さ」 | ラグビージャパン365

ラグビーにおける前面投影面積=大野均の「低さ」

2012/06/08

文●大友信彦


「私たちはこれから強くなっていくのです。それまではガマンし続けることが大切。メディアのみなさんにもお願いします」

就任後、初めて敗れたフィジー戦のあとで、エディ・ジョーンズHCはそう言った。

アジアのライバルたちには5次、6次、7次攻撃とボールを継続して、トライの山を築いたアタックも、ガマンしきれず、フィジーのパワフルなタックルを浴びてはボールを失った。

印象に残ったのは、日本のボールキャリアの高い姿勢だった。

誰も、高い姿勢のヒットなど意図してはいない。しかし、プレッシャーを受けたままで密集から供給されたボールを捕ろうとすると、ほとんど同時にフィジーのタックラーが飛んでくる。上体が立った姿勢で、フィジーのパワフルなタックルを浴びたらひとたまりもない。

日本は、もう一度ボールが出れば、もう一本パスが通ればトライ、という場面で、何度もノックオンを冒し、敗れた。

そんなジャパンにあって、光を放ったのは、34歳のロック大野均だった。

ボールを持つ瞬間、192センチの長身は折りたたみ傘のようにコンパクトに畳まれる。
スネは深く前掲し、背中はほとんど地面と平行になる。

自転車やオートバイや自動車には「前面投影面積」という言葉がある。それが小さければ小さいほど空気抵抗は小さくなり、スピードがあがり、燃費が良くなる。そのために自動車デザイナーは何度も図面を引き直し、ロードレーサーは風洞実験室に入って理想の姿勢を探す。

ラグビーの場合も、「前面投影面積」が小さいことは大事だ。もちろん、スピードがあがって(足が速くなって)燃費が良く(スタミナが減らなく)なれば言うことなしだが、(残念だが)そこまで劇的な効果は望めない。

そのかわりに、劇的な効果は別のところにある。

フィジーやサモアやトンガ、南太平洋3カ国のアイランダーたちは、総じてタックルが高い。それは必ずしも反則ということではなく、相手のチェスト(胸)のあたりに強くヒットすることが、彼らにとっては最高のタックルなのだ。肩の線よりも高いタックルは反則だが、そうでなければ問題はない。

その点、大野均のとる低い姿勢は、高いタックルの標的を失わせる効果がある。より分かりやすく言えば、それは「高いタックルを食わない」つまり、自分の身を守り、ボールを守る姿勢なのだ。

「確かに、みんな、アジアでは通用した高さで行ってた部分があったかもしれないですね。でもそれは、後半修正できたと思う。ハーフタイムの修正ポイントにも上がっていたし、実際に後半は修正できたと思う。(後半23分に)ゼネラルプレーからモールを組んで、そのままペナルティートライに持ち込めたのも成果だと思う」


試合後、着替えた大野はそう言った。


「姿勢が高いのは選手の身体に、長年かけて染みついた習慣です。我々はそれを取り除かなければならない」


エディはそう言った。


身体に染みついた習慣、ボディポジションは、簡単に直るものではないかもしれない。だが幸運なことに、我らが日本代表は、最高のお手本を持っている。


大野均の低い姿勢のアタック。低い姿勢のタックル。それは、何度もアイランダーたちと身体をぶつけあう中で、意識せずとも身体にしみついてしまったスタイルなのだ。そして、それがチーム全員に伝染し、浸透していったとき…。


日本代表は、違う次元に足を踏み入れるはずだ。

大友信彦
(おおとものぶひこ)

1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。

プロフィールページへ


 

記事検索

バックナンバー

メールアドレス
パスワード
ページのトップへ