
ラグビー日本代表が、各地の試合会場で直接募金箱を持ち、ファンの皆さんに募金を呼びかけている。
これは、日本代表チームが目指す社会貢献活動の一環として、東日本大震災で避難生活を強いられている、あるいは外で思い切り遊ぶ機会を奪われている、福島県の小中学生をラグビーに招待しようというプロジェクトで、「SAKURA基金」と名付けられた。
今回、福島県の子どもたちを招待するのは、6月24日に東京・秩父宮ラグビー場で行われるジャパンXV対フレンチバーバリアンズの一戦。当日は試合を観戦してもらい、アフターマッチファンクションにも出席してもらうことを考えているという。
このプロジェクト立ち上げに込めた思いを、プロジェクトリーダーである日本代表バイスキャプテン、佐々木隆道選手に聞いた(インタビュー:6月1日)
スポーツが、コミュニケーションツールとして、もっと社会の中に入っていけるんじゃないか
――このプロジェクトを立ち上げた経緯を教えてください。「話が出たのは、28歳以上のシニアメンバーでミーティングをしたときです。選手の間から、『自分たちも何か社会貢献活動をしたいよね』『日本代表の責任として、何かしなきゃね』という声があがって、キャプテンの廣瀬(俊朗)さんから、僕がリーダーとして任されたのが始まりです。
僕自身、社会貢献活動には興味があったし、日本の中で、スポーツのあり方を考えて行かなきゃいけないと思っていたので、廣瀬さんに指名してもらえたのは嬉しかった。
野球、サッカーという人気スポーツがある中で、ラグビーというスポーツの魅力を多くの人に知ってもらうことも、僕たち日本代表の責任だと思いますから。
僕は、ラグビーが、もっというとスポーツが、コミュニケーションツールとして、もっと社会の中に入っていけるんじゃないか、と考えているんです。
日本には、遊ぶ対象がたくさんある。モノも溢れている。子どもたちにたくさんの選択肢が与えられている中で、子どもたちが選ぶ選択肢の中に、スポーツがあってほしい、ジャンルとして確立したら良いなと思っているんです。
こういう言い方はちょっとおこがましいかもしれないけれど、自分たちが積んできた経験は、かなり貴重というか、これから大人になっていく子どもたちや若い世代に対して、ひとつの道しるべになれるんじゃないかと思うんです。
たとえば、努力することの大切さ。努力することはとても大切だし、それは必ず自分の力になる。
けれど、それが思うような結果に、必ず結びつくとは限らない。失敗するときもあるし、仲間に迷惑をかけてしまうこともある。じゃあそのときに、どう振る舞うのか。ラグビーの試合の中には、そういう場面がたくさんあると思うんです。
すべてが報われるわけじゃないけれど、努力することは大事だ。
僕自身、5年前に初めてジャパンに選ばれて、次の年から選ばれなくなったたときは、とてもこんなことは考えられなかった(笑)。想像もできなかったです。そこから苦しい思いもしたし、悩んだし、実力主義の世界で戦ってきて、今はこういう気持ちになっている。
そういうことをすべて言葉で伝えることはできなくても、試合を見てもらうことで、何かほんの少しでもいいからメッセージを感じとってもらえたら嬉しいなと思うんです。」

夢を持って生きていってほしいから、何かできることはないかと考えた
――佐々木選手は、東日本大震災の被災地には何度か行ったのですか。「去年の6月、サントリーサンゴリアスとアディダスが共同で、岩手県でラグビークリニックを開いて、岩手県や宮城県のラグビースクールの子どもたちに集まってもらいました。ただ、そのとき子どもたちとふれあえた時間はごく僅かでした。
たとえば『どこから来たの?』と聞けば、『どこどこから』と答えてくれる。でも、それが彼らが以前から住んでいるところなのか、避難して暮らしているところなのか、僕には分からない。
中には『ホントはどこどこに住んでいたけど、家が流されて今はここに住んでいる』と笑顔で話してくれる子もいたけれど、その子がどういう気持ちでそう話してくれているのか、僕には分からない。
分からないけれど、そのとき思ったのは『この子たちも夢を持って、希望を持って生きていってほしい』ということだったんです。
そう思ってもらうために、僕たちに何かできることはないかと考えました」
――そこで、日本代表の試合に招待するというアイデアが出てきたのですね。
「彼らは、これからの日本を、世界を作っていく世代ですから。日本という枠を飛び出して、世界で活躍してほしい。それを伝えることができるんじゃないかと思うんです。
日本代表には、日本で生まれ育った選手も、外国出身の選手もいるし、外国に留学して技術や能力を身につけた選手もたくさんいます。フレンチ・バーバリアンズにも、フランスやヨーロッパだけでなく、いろんな国から選手が集まっている。そういう選手が、身体をぶつけて戦うところを見てもらって、何かを感じてもらえたら嬉しいと思う。試合の後のファンクションにも入ってもらって、選手を間近で見れば、何か感じてもらえると思うんです。『デカいな』でもいいし、逆に、日和佐(篤=SH)や晃征(小野=SO)みたいな、自分よりもずっと身体の大きな選手に立ち向かっていく選手を見て何か感じてもらえると思う。そんな選手たちと、試合後に話をしたり、ふれあう機会を作れたら、素晴らしいと思うんです」
世界のトップ10に入ること、こうした活動、両方とも達成できたら素晴らしい
――プランの実現は順調でしたか。「ホントに、思っていた以上に、みなさんに協力していただいて、僕自身、ラグビーの力を感じました。福島県協会の方や教育委員会の方々、日本ラグビー協会の方々もすぐ動いてくださったし、セブンズフェスティバルの日(5月27日)に秩父宮で最初の募金活動をしたときも、たくさんのファンの方々に『頑張ってください』と声をかけてもらえた。
だから、僕たちが一番やらなきゃいけないのは、試合で結果を出すことだと思っています。自分たちが結果を出さないと、こういう、自分たちでは有意義だと思う活動に取り組んでいても、何か異論を唱える人も出てきますから(笑)、今回のPNCは本当に勝ちたい。僕らの目標は、2015年ワールドカップで世界のトップテンに入ること。それがおろそかになるようだったら、こんな活動もできません。
だけど、それがうまくいって、両方とも達成できたら素晴らしいですよね」
――いまお話しいただいたことは、どの程度、選手のみなさんで共有しているイメージなのでしょう?
「半分くらいは僕の妄想です(笑)。それを想像すると、なんか、にやけてきちゃう(笑)
考えてみたら、僕らはすごく守られた、恵まれた環境でラグビーをやらせてもらっていると思うんです。企業チームと日本協会に守られた立場で、リスクのないところで活動している。自分自身で借金をして起業したり、まだ人の始めていない分野にチャレンジしたり、リスクを背負って生活して、働いている人たちは、僕らとは全然違う苦労を重ねて、厳しい現実と向き合っていると思う。だからこそ、今の僕らが、こういう立ち位置にいる者がやらなきゃいけないこともある。
僕らはラグビー選手ですから、練習をして、試合で結果を出すことが最大の仕事ですが、その姿を通じて、何かを感じてもらって、それでお互いにハッピーになれたら素晴らしいと思うんです」
SAKURA基金はこの後、6月10日と17日、秩父宮ラグビー場で行われるパシフィックネーションズカップの会場でも行われる。

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私たちは、今回のSAKURA基金の趣旨に賛同し、金30000円を寄付させていただきます。 RUGBYJapan365は、これからも、被災地のラグビー復興、若い世代のサポートに力を入れてまいります。今後ともご愛読をよろしくお願いいたします。
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