アーロン・スミス特別インタビュー「ラグビーは体の大きさではない。スキルが全て。僕はそう信じて努力してオールブラックスになれた」 | ラグビージャパン365

アーロン・スミス特別インタビュー「ラグビーは体の大きさではない。スキルが全て。僕はそう信じて努力してオールブラックスになれた」

2018/11/02

文●大友信彦


ワールドカップ3連覇を目指すオールブラックスで、特別な存在感を放っているのがSHアーロン・スミスだ。前回ワールドカップでは決勝トーナメントの3試合を含め7試合中6試合に先発。正確なパスさばきと熱いリードでオールブラックスの連覇に貢献したハーフバックは、日本代表の田中史朗とハイランダーズでレギュラーを争ったライバルとして日本のファンにも知られる。

10月31日、オールブラックスの新ジャージーお披露目イベントで、そのアーロンへのRJ365の特別インタビューが実現した。身長171㎝。オールブラックスの歴史でも最も小柄な選手の一人であるアーロン・スミスの言葉は、小柄な選手の多い日本の選手にも勇気を与えてくれる!
(インタビュー・文=大友信彦)

「フミのプレーを見ていると、本当に一生懸命プレーしていることが伝わってくる。情熱的、熱いハートを感じる」

――よろしくお願いします。


「コンニチワ!ドーゾ」


――日本語、いっぱい覚えましたね。


「ワタシハ、アーロンスミス。アリガトー、ドーモ、サイコー、トテモイイ!」


――Very Good!


(手をあげて)「ミギ、ヒダリ、OK?」


――惜しい、逆です(笑)


「ヒダリ、ミギ、OK?」


――日本語を教えてくれたのはフミ(田中史朗)ですか?


(以下は英語で)「そうだね。フミが教えてくれた言葉はいっぱいある。ここで言えない悪い言葉もある(笑)」


ブレディスローカップでは後半からの出場。

――日本のファンは、フミのチームメートとしてアーロンさんのことをよく知っています。


「それは嬉しい。フミアキはとてもいいチームメートで、良い友だちだ。ハイランダーズでは僕にすごくプレッシャーをかけてきて、私のことも高めてくれた。彼はとてもクリエイティブで、僕らになかった革新的なプレーをたくさん持ち込んでくれたんだ。僕も彼からたくさんのことを学んだし、彼の意見を参考にさせてもらうことも多かったよ」

恵まれた体格ではないがラグビーを心底理解し、高いスキルでトップチームの9番を務めてきた。


――フミは体も大きくないし、体が強いわけでも、足が速いわけでもないし、パスのうまい選手は日本にもたくさんいるけれど、NZの人はみなフミを称賛します。なぜでしょう?


「彼は『ラグビーとは、体が大きくなくてもスキルがあれば勝てるスポーツなんだ』と言うことを証明しています。フミのプレーを見ていると、本当に一生懸命プレーしていることが伝わってくる。情熱的、熱いハートを感じるし、絶対に諦めないという強い気持ちがある。日本チームを見てもそう思います。日本チームを見て、フミを見ると、僕ももっと強くならなきゃと思います。インスパイアしてくれる」


――僕らはアーロンさんのプレーにもそれを感じます。アーロンさん自身も、歴代のオールブラックスの中でも体の小さい選手だと思います。それはハンディキャップと感じたり、あるいは逆にモチベーションになったりしているのでしょうか?


「これが私の体なんです。そりゃあ、ソニー・ビル(・ウィリアムズ)やリーコ(・イオアネ)のように背が高かったら嬉しいなと思うことはあるけれど、これが神様に与えられた体だし、その体でできることをやるしかない。でもオールブラックスになりたかったから努力したし、たくさんのサポートがあった。

もちろんサイズ面で不利な部分はあったと思うけれど、それは克服できる範囲のことで、オールブラックスとしてワールドカップに出て優勝することもできた。これはフミアキタナカも同じだけれど、体が小さくても機敏に素早く動ければ勝負できる。フィジカル的な強さではなく、スキルこそが自分なんです。体が小さくても、小さいからこその俊敏性を活かしたプレーをしたいと思っています」

――アーロンさんが「オールブラックスになりたい」という大きな夢を持ったのは何歳のころからですか?


「NZのこどもは誰でも、生まれたときからオールブラックスになりたいって夢を持ってるんだよ(笑)。でも現実的には14歳のころだったかな。父に『お前は体が大きくならないから、ハーフバック(SH)にポジションチェンジした方がいい』と言われて転向したんです。

『そのためには両手でパスをしろ、パスのスキルを磨きあげれば、スーパーラグビーに行けるぞ。まずはスーパーラグビーを目指せ』と言われてね。それを突き詰めていったら本当にスーパーラグビーでプレーできて、オールブラックスにもなれた。本当に夢がかなったよ。こうしてオールブラックスの一員として日本に来て、新しいブラックジャージーの発表会に出席しているなんて、本当に夢みたいだ。今まで経験した中でも本当に特別な経験だし、頑張ってきて良かったよ」


――アーロンさんは、もともとはどのポジションでプレーしていたのですか?


「ウィンガー。そこにいるリーコみたいに足の速い選手だったんだよ(笑)。でも身長の伸びが止まって、パワーが足りなくなってしまった。そこでハーフバックに変わったんだけれど、それが良かった。僕にはハーフバックが合ってたんだね。しゃべるのも好きだし、相手の予想を裏切るトリックも好きだし、指示を出して周りの選手を動かすのも好きだ。ラグビーのそういうところも魅力だと思ってプレーしているんだ」


――オールブラックスの試合を見ていると、選手たちがプレー中に本当にたくさん言葉を交わしているのが分かります。あんなにたくさん、何を喋っているのですか?


「そうだね、話すのが多いのはディフェンスのプランについてかな。どっちのサイドに相手は何人いる、こっちは何人だとか、こっちに何人動いた方がいいとか。あとは、声でマネジメントする、周りを勇気づけるということもあるね。僕はハーフバックだから、フォワードに向かって後ろから『GO FORWARD(いけ)!』とか『あっちへ動け』とか、声を使って盛りあげて、闘志をかきたてる面もある。

フォワードに対しては、チームがどう動こうとしているのかを後ろから伝えることも大切。それと、『オレが後ろから見ているぞ』と伝えて、フォワードに自信をつけさせてあげることも大事です。
あとは、誰かがミスをしてしまったときに『大丈夫だ、気にするな』『オレたちが一緒にいるぞ』ということを言葉で伝えて、気持ちをポジティブに保たせることも意識している。それは大きな声で言うってことじゃなくね。そういうことをするのも僕は好きなんだ」


――言葉を使ってチームをマネジメントするのですね。


「僕自身もミスをすることはあるからね。間違えてボールアウトしてしまったり、パスミスしてしまったり。だけどわざとミスする選手なんていない。オールブラックスは、お互いがお互いをサポートしあうことを大切にしているチームなんです。NZでは、ラグビー選手は常にハンブル(謙虚)であることを大切にしています。誰かが良いプレーをしたときは、小さいことでも喜ぶ、祝福してあげるけれど、それはチームの中で自分の役割を果たしたから。

その喜びで、自分たちがよりポジティブでいられる。ネガティブな言葉は仲間を傷つけてしまうし、ネガティブな言葉を発したことで自分自身もマイナスのフィーリングを持ってしまう。それは誰のためにもならない」



――オールブラックスのチームカルチャーはその『ハンブルネス(謙虚さ)』だと理解していますが、ワールドカップで2連覇して世界最強の座にいるチームが謙虚さを持ち続けるのは大変ではないのですか?


「それは難しいことではないよ。それは、次のワールドカップでも勝ちたいと考えているからだ。ワールドカップで2連覇したのは過去のことであって、2015年の代表だった選手もいるけれど、今はまた違うチームです。今一度、このチームで仲間の信頼、リスペクトを勝ち取るのは簡単なことではない。


それに、オールブラックスにはたくさんの素晴らしいコーチやチームメートがいて、ハンブルネスを持ち続けるように導いてくれる。誰かがもしも逸脱したりしたら、周りがすぐに引き戻してくれるよ(笑)。大切なのは過去に何をしてきたかではなく、次のワールドカップで勝つことなんだ。まったく新しいチームで戦うんだからね!」

大友信彦
(おおとものぶひこ)

1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。

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