東日本大震災から15周年という節目の年に、釜石SWが歴史的な勝利をあげた。
3月7日、リーグワンD2第7節「釜石SW―花園L」が行われた釜石鵜住居復興スタジアムには4325名の観客が集結した。
釜石SWでは2年前からこの時期、3月上旬に鵜住居復興スタジアムで行うホストゲームを「東日本大震災復興祈念試合」と位置づけ、震災の教訓を語り継ぎ、復興を目指す被災地の人々へ勇気を届けるメッセージを発信してきた。

スタジアムには開門前から長い行列ができた
2024年は3月10日に九州KVを招き、28-11で勝利(観衆3947人)。
2025年は3月8日にRH大阪を招き、35-24で勝利(観衆4426人)。
シーウェイブスはそれぞれ6チーム中6位、8チーム中8位と成績自体は振るわなかったが、この特別な日に行われる復興祈念試合では上位チームを撃破。それも、相手に勝ち点1さえ与えない完勝をおさめてきた。

釜石鵜住居復興スタジアムは試合前から強い風が吹きつけた
今季、特別な日の対戦相手に選ばれたのは花園ライナーズ。かつての全国社会人大会では前身の近鉄が8度、新日鉄釜石が9度の優勝を数えた名門同士の対決だ。
花園Lはここまで開幕から6戦全勝。開幕戦では昨季D2優勝のS愛知に40-14で完勝するなどD2では頭一つ抜け出た成績を重ねてきた。一方の釜石SWは、開幕戦は江東BSに17-28で敗れたものの第2節の日野RDに36-14で初勝利。第3節は九州KVに17-22で敗れたが第4節は昨季覇者のS愛知に両チーム計16トライ&カード4枚が飛び交う乱戦の末ラストプレーで54-52と劇的逆転勝ち。前節のRH大阪にも敵地で1点差の戦い。ここまで2勝3敗ながら、負け試合でも2試合はBP1を獲得するしぶとい戦いを見せてきた。
そして迎えた復興祈念試合。スタジアムは特別な空気に包まれていた。
2023年からチームのメインスポンサーとしてチーム名に名前を入れた日本製鉄の提供により、無料招待された観客は、昨年に匹敵する4325名が集まった。カラフルな釜石ラグビー応援Tシャツ、分厚いダウンの防寒着の上にも羽織れるSWホッケーシャツなどを着こんだ人にまぎれ、ライナーズの応援ジャージーを着こんだ人たちも多く見かけられた。スタジアムの周囲には70店ものキッチンカーが軒を並べ、海鮮丼や海鮮BBQ、ホタテやカキの浜焼きなど釜石・三陸ならではのメニューからラーメン、焼き鳥、から揚げ、アイスクリームなどバラエティ豊かなメニューを提供。楽しそうに食べ歩く観戦客、家族連れの姿に
「釜石でこんなにたくさんの人を見ることってないよね」
「子供がたくさんいてうれしいね」
という声が聞かれた。

「夢団」の高校生の語り部に花園ファンも聞き入り、涙ぐむ人も。

スタジアムの横にある「あなたも逃げて」の慰霊碑前では、震災を語り継ぐ活動を続ける釜石高校の生徒「夢団」による東日本大震災の語り部が行われ、震災を経験した当事者や、家族・親戚・友人を失った経験を持つ若者たちの話に、花園のサポーターも目を潤ませながら聞き入っていた。
「私は阪神大震災を経験していますから」という声も聞いた。スタジアム横に聳えるフラッグポールを見上げ「阪神では津波がなかったけど、このあたりは全部波にのまれたんですね」と、当時の様子を想像しようとする人もいた。どちらのファンかを問わず、この日にスタジアムを訪れた人たちは、この日に試合が行われる意味と向き合っていた。

釜石・河野、花園・ウマガジェンセン、両主将を先頭に入場
13時、震災犠牲者への黙とうを経て、試合は始まった。

試合前、スタジアム全体で黙とうを捧げた

マッチオフィシャル・19歳の延原梨輝翔レフリーが試合をさばいた
先制したのは花園だった。6分、相手陣スクラムからの6次攻撃でボールを持ったLOワクァが相手タックルを次々と突き抜けてゴールポスト真下へトライ。南アフリカ代表SOリボックがコンバージョンを蹴り込み、花園が7点を先制する。大阪から駆け付けたファンが太鼓を連打して気勢を上げる。

6分、花園LOワクァが先制トライ

遠路駆け付けた花園サポーターの太鼓が鳴り響いた

バックスタンドには釜石応援団の冨来旗が翻った
だがSWは、試合直前から強さを増した風を背に受けて反撃。10分、FL河野良太主将のジャッカルから相手陣に攻め込み、12分にSOミッチェル・ハントがPGを成功。26分にはCTBヘルダス・ファンデルヴァルトのキックをWTB高居海晴が猛追してキープし、ゴール前のラックからサイドを突いたHO西林勇登がトライ。32分にはSOハントのインゴールへのキックを追ったCTBトンガ モセセがダイブ。延原レフリーはいったんトライをコールしたが、TMOで確認したところ花園SOリボックがわずかに早く押さえていたことが確認され、トライは取り消しに。

花園SOリボック

釜石WTB小野航大

前半26分、釜石HO西林がトライ

前半32分、釜石トンガと花園リボックが競り合う
しかし直後の36分、釜石はFB落和史のカウンターアタックからNo8ヘンウッドがゴール前に持ち込み、CTBトンガ モセセが今度こそトライ。このコンバージョンをSOハントが決め、前半のラストプレーでもうひとつPGを成功。前半は強い風上に立ったSWが20-7とリードして折り返した。

釜石FB落のカウンターアタック

釜石CTBトンガがトライ

花園SH藤原
サイドが入れ替わる後半、この風はどう影響するのか…と思われたが、その風が後半はぴたりと止んでしまう。ゲームが再開して3分、風が止んだ隙に相手ゴール前に攻め込んだSWはラインアウトモールを押し込むとWTB高居、No8ヘンウッド、PR山田裕介が連続で突進し、リズムよくピックしたFL高橋泰地がトライ。25-7までリードを広げる。

後半3分、FL高橋のトライに喜ぶ釜石フィフティーン
思わぬ展開となった花園もすぐ反撃に出た。7分、釜石SH南のキックを自陣に戻って拾ったWTB11中川湧真が自陣22m線付近で拾うとすぐに反転、カウンターアタックで相手DFを切り裂き約75mを独走してトライを決める。直後の10分にも釜石のプレゼントキックからSOリボックがカウンターアタックをかけCTB13ピーター・ウマガジェンセン主将がブレイクしてキック。これを左隅ゴール前で拾ったFL宮下大輝がトライ。花園Lが電光石火の2トライを決め。あっという間に25-17の8点差に追い上げた。

花園⑪中川は豪快なカウンターアタックを見せた

釜石⑩ハントはキックに加えランプレーでもチームを牽引

花園SOリボックに襲い掛かる釜石DF
しっかりやればトライは取れる――その手ごたえが、もしかしたら花園の危機感を鈍らせたかもしれない。後半16分、自陣に押し込まれたピンチにLOワクァが故意の反則でイエローカードを受けてしまい、反撃ムードが中断。その隙に釜石はラインアウトモールを一気に押し込みFL河野良太主将がトライを決める。ハントのコンバージョンは外れ、30-17。

得点のたびにたくさんの冨来旗が翻った

スピードをアピールした釜石WTB高居

プレッシャーを浴びながらボールを活かす花園ウマガジェンセン主将

花園WTB木村のキックにチャージをかける釜石FL河野主将
残り20分、2チャンスで逆転できる13点差。花園から見れば、落ち着いて攻めれば必ず逆転できる、焦る必要はない――そう思っていたはず。だがそんな思いに、釜石の渾身のディフェンスが立ちはだかる。21分には前主将のSH村上陽平、201cmのLOセヴェ、WTB阿部竜二のフレッシュレッグズ3人を投入。27分には花園から移籍したCTBリキエナ・カウフシ、FW兼BKの万能No8石垣航平ら残るリザーブ4人をまとめて投入。ケフHCの負傷リスクを恐れない積極采配が選手の粘りを引き出した。31分に花園はモールからLO牧野内がトライを返すが、リボックのコンバージョンは外れ、ワンチャンスでは追いつけない8点差が残る。
思うようにいかない展開に焦りの色が見え始めた花園に対し、釜石は渾身のタックルを反復して花園の反撃を断ち切り、スコア30-22のまま逃げきった。バックスタンドに、釜石ラグビーのシンボル冨来旗(ふらいき)が翻る。このカード「釜石」の勝利は、釜石V7から間もない1986年度の全国社会人大会1回戦で釜石が20-4で勝って以来39季ぶりだった。

勝利に抱き合って喜ぶ釜石フィフティーン

健闘を称えあう両フィフティーン

釜石ファンから花園フィフティーンへも温かい拍手が送られた

釜石SWへの拍手はさらに大きかった
敗れた花園の太田春樹HCは「残念な結果になりましたが、この試合は釜石さんの気迫の前に後手を踏んでしまった。釜石さんに本当のリスペクトを送りたい」と勝者を称賛。「我々のチームの外国人選手にもこの試合の意味を伝えて、みんなが日本ラグビーへのリスペクトをもって試合に臨んでくれた。きょうは釜石の素晴らしいラグビーにやられたという印象です」

花園の太田HC
ウマガジェンセン主将も「釜石はエリアマネジメント、キックの使い方が良かった。我々はキックを上手くいかせなかった」と敗因を分析しながら「このような記念の試合の一員になることができたのは光栄です。私自身は過去の出来事についての知識はなかったけれど、この数日間、この町でどんなことが起きたかを教えてもらい、この町が災害から復活したことを知りました。SWの勝利はこの町の方々に希望を与える勝利になったと思う」と勝者と地元のファンを祝福した。

花園のウマガジェンセン主将
勝った釜石のケフHCは「ハッピーな結果に満足しています。今週取り組んできたことがうまくできて嬉しい。一貫性を持って良いラグビーができた」と会心の表情。

釜石のケフHC
河野良太主将は「震災から15年という節目の年の復興祈念試合というプライドを持って、最後まで体を張り続けることを、グラウンドの中で体現できたことが勝利につながった」とキッパリ。「このスタジアムで試合ができることは僕たちにとって大きなアドバンテージ。きょうこのスタジアムを埋め尽くすくらいの多くの方がきてくれて、試合中も何度も釜石コールを叫んでくれたことで、体を張り続けることができた」と胸を張った。

POMにも輝いた釜石の河野主将、50キャップのお祝いに、じっとしていない息子と
東日本大震災から15年。津波で全壊した小中学校の跡地にスタジアムが立てられて7年。過去、特別な試合に臨んだ際のシーウェイブスは、思いの強さが空回りしてか、噛み合わない試合をしてしまうことも多かったが、この日は迷いなく気負いなくミッションを遂行しきった。

釜石の河野主将
「練習でしっかり準備をしたので、しっかりやれば結果はついてくると信じて冷静に戦えました。試合前も、先のこと、結果を考えないで、目の前のプレーに集中しようと話していました」と河野主将。特別な思いを特別なプレーで表現するのではなく、練習通りにプレーすればよいのだと、自分とチームを信じて戦い抜いたことが、全勝のチームを止める快勝に繋がった。
坂下功正総監督は「1人1人のタックルが良かった。近鉄と言う強い相手に、全員が体を張って低いタックルを繰り返して、ハードワークしてくれた」
桜庭吉彦GMも「15年前、この町が大きな被害を受けたときは、復興できるかどうか僕自身も不安があった」とかつての思いを明かしながら「ワールドカップ招致に名乗りをあげて、地域が結束してこのスタジアムを作って、ワールドカップで1試合は中止になったけれど1試合を行って世界の人たちを迎えることができた。そのスタジアムで震災15周年の復興祈念試合をできたことを光栄に思うし、素晴らしいプレーをしてくれた選手を誇りに思う」と話した。

坂下総監督と松尾雄治さん、往年の無敵HBペア
釜石SWは6試合を終えて3勝3敗、勝ち点15で5位に浮上。リーグワン発足後の4シーズン、2勝、2勝、1勝、2勝(不戦勝含まず)と来ており、シーズン3勝をあげたのは初めて。次節は15日、ホスト2連戦となる釜石鵜住居でのRH大阪戦に、リーグワンになって初めての連勝を目指す。

スタンドのファンと一緒に勝利の記念写真
花園Lは全勝が止まったが、2位のS愛知とは勝ち点1差で首位をキープ。次節は、花園Lは3月14日に博多の森陸上競技場で九州KVとのビジター戦に臨む。

釜石前主将のSH村上陽平

釜石前々主将の小野航大

ゲームをサポートした花巻東の女子ラグビー部員たち
大友信彦(おおとものぶひこ) 1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。1987年から東京中日スポーツのラグビー記事を担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。 プロフィールページへ |

大友信彦