旧トップリーグのNTTコミュニケーションズシャイニングアークス(浦安D-Rocksの前身)などでSOとして活躍し、日本ラグビー界で初めてのキック専門コーチとして活動中の君島良夫さんが、2021年に発刊した電子書籍『勝つためのゴールキック』の英語版製作に取り組んでいる。
君島さんは茨城・清真学園時代に花園大会に出場、U19日本代表に選ばれ、2002年の世界ジュニア選手権に出場。同志社大に進み、卒業後は当時トップリーグの下部、トップイーストだったNTTコムに加わり、2010年のトップリーグ昇格に貢献。2013年度で退団するとオーストラリアのランドウィック、アメリカのOMBACでプレーし、オーストラリア協会のコーチングライセンスも取得。帰国後は2015-2016年度の2シーズン、日野レッドドルフィンズでプレーを続け、2017年のトップリーグ昇格に貢献。複数チームをトップリーグに昇格させた選手もなかなかいない。
2015年1月21日公開:オーストラリアからアメリカへ挑戦する君島さんにフォーカスした記事
中学時代までサッカーに打ち込み、プロ選手を目指してブラジル留学も経験したというキャリアからわかるように正確なキックで知られ、トップリーグ初昇格を果たした2010年度は得点ランク7位、チームのコンバージョン成功率1位、2012年度には得点ランキングで五郎丸歩、田邉淳に次ぐ3位。大西将太郎、田村優を押さえて上位に食い込んだ。実働わずか4年ながら通算得点394点はトップリーグ/リーグワンの通算得点ランキングで20位に食い込んでいる。

そんな君島さんは現役引退後、日本で初めて、キック専門のプロコーチとして独立。「Japan Elite Kicking」を設立。社会人や大学のトップチームから高校、中学、ラグビースクール、さらには幼稚園でのキック教室やパーソナルトレーニングまで、これまでおよそ500のチーム・団体、10000人を超える選手や指導者を指導。その足跡は日本にとどまらず、台湾や韓国、シンガポールなどアジア各国からアメリカ、オーストラリアにも及んだ。
2020年にはコロナによるパンデミックでコーチ活動が休業状態に追い込まれたが、君島さんはオンラインコーチングの分野に進出。そして2021年、実地指導に加えてリモートコーチングで得た知見を惜しみなく投入したキック指導書『勝つためのゴールキック』を電子書籍で出版した。

日本ではもうひとつ、普及が進まない印象をもたれがちな電子書籍だが、君島さんの感覚は違う。
「電子書籍だと動画を埋め込むことができるので、紙の本よりも自由度が高い。キックの技術書としては電子書籍の方が拡張性が高くて、より実践的な理解が進むと思います」
実践指導も進化を続けた。全国各地から寄せられる依頼に対応するため、コーチングチームを結成した。同学年のトップランナーで同志社大の同期だった正面健司さん(トヨタ自動車-神戸製鋼-花園近鉄ライナーズ)、7人制日本代表で五輪を経験した合谷和弘さん(クボタスピアーズ、仏ポー)&坂井克行さん(豊田自動織機)はじめ、山下祐史さん(三洋電機-NEC)、田代宙士さん(宗像サニックスールリーロ福岡)、曽我部佳憲さん(サントリー-ヤマハ発動機)、小西大樹さん(三洋電機-豊田自動織機-パナソニック)、三原亮太さん(近鉄)、徳永亮さん(リコー)という同時代のトップリーグでプレーした好敵手たち、さらに女子日 本代表で活躍した福島わさなさん(追手門学院大-東京山九フェニックス)と、幅広い人材と契約。全国各地をカバーし、進境著しい女子のニーズにも対応し、それぞれのスペシャリストたちが磨いてきたメソッドを採り入れ、ブラッシュアップを続けながら活動の幅を広げている。
探究心旺盛な君島さんは、海外のレジェンドキッカーの著書も取り寄せては読みあさった。それらの本を読み進むうちに、君島さんの中にひとつの思いがわき上がってきたという。それは…英語でもラグビーのキックに特化した指導書は見当たらないということだ。
「ダン・カーターの著書もジョニー・ウィルキンソンの著書も、基本的に伝記とか自伝で、面白いんですがキックの技術的なことってほとんど書かれていないんです。それを読んでいるうちに『これは、英語版の需要もあるんじゃね?』という思いが湧いてきたんです」
サッカーではキック専門の技術書がたくさんある。だがラグビーではボールの形も重さも違うし、ドロップキックのようなサッカーでは求められない技術も、ラグビーならではの戦術もある。キックが活かせる未開拓分野もまだまだある。求めている人は海外にも多くいるに違いない。実際、2024年にはスーパーラグビーのワラターズ、レッズの選手たちにもコーチングセッションを持った。
まして、ラグビーがまだ盛んでない国には、身近にコーチがいなくて、技術情報を求めている人もきっといるだろう……。飛行機を何本も乗り継がないといけない国やバスも通わない村へも、電子書籍ならタイムラグなしで届けることができる…。
そう思ったら行動は早い。伝手を辿り、最新の自動翻訳も駆使しつつ、翻訳の作業に着手。難しいところは過去のチームでのチームメートやお世話になった通訳さんにも助言をあおぎ、翻訳作業に着手した。
キックの技術論も進化している。君島さんの指導も、幅広い世代やレベルの受講者に接する中で深化し、ラグビーのルールも変化し続けている。とりわけ「50:22」ルールの誕生は、キックの有効性を大きく広げた。キックの習得は、ラグビーにおいて従来以上に有効性を増している。
数年先には、NZやオーストラリアからも、あるいはラグビーが盛んではないと思われていたアジアの国から『ヨシオ・キミシマのテキストを読んでキックを練習したんだ』と話す選手が来日する、世界で活躍するかもしれない!
クラウドファンディング実施中!
「勝つためのゴールキック」英語版作成に向け、君島さんは翻訳や校正、デザインなどの活動費を作るためクラウドファンディングを立ち上げた。
英語版のタイトルは
『Sharp shooter - The Ultimate Guide to Goal-Kicking in Rugby』
リターンについては英語版の書籍のほか、オリジナルソックスや直接のコーチングなど多くのコースが用意されている。
「本プロジェクトに共感・賛同いただき、応援していただければ嬉しいです。
応援のほど、どうぞよろしくお願いいたします」(君島さんより)
以下のURLからどうぞ!
【世界進出!】英語版「勝つためのゴールキック」を世界中の人々に届けたい
https://www.makuake.com/project/jek-goalkick2/
![]() (おおとものぶひこ) 1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。 プロフィールページへ |