意外な自己認識とは…等身大のラガーメン・石山次郎 | ラグビージャパン365

意外な自己認識とは…等身大のラガーメン・石山次郎

2014/10/08

文●永田洋光


時空を飛び越えて日本ラグビーの歴史を旅する企画・楕円球タイムトラベル。
今回は、日本選手権に7連覇という不滅の金字塔を築いた新日鉄釜石を最前列で支えた鉄人・石山次郎さんが現役生活にピリオドを打った1989年へ。
超人的な筋力とスタミナで釜石とJAPANを支え続けた鉄人の、意外な自己認識とは――

永田洋光氏の記憶によれば、取材日は2月9日。永田氏が漫画雑誌編集者時代にリスペクトした巨匠・手塚治虫氏の訃報が流れたその日、ラグビー界の鉄人が現役生活にピリオドを打った理由を尋ねた25年前の釜石の夜へ、タイムトラベル!」

 

「13年間かあ……一体どれだけこのグラウンドを走ったんだろう……」

――闇に包まれたフィールドに目をやりながら、石山は溜め息ともつかぬ声で語った。13年間。釜石V7を、日本代表を、支え続けた鉄(くろがね)のプロップは、いまその重圧を、静かに肩から降ろす――。

 

日本のスクラムを支えた男は自らを臆病と呼ぶ

 臆病――石山次郎は何度もその単語を繰り返した。人並み外れた筋力と走力を誇った、日本を代表するプロップだった石山が、だ。 臆病――この寡黙な男はその言葉で何を表現しているのだろうか?

 「そもそも自分に自信がないんです。本来、代表に選ばれるのにギリギリの技量しか持ってないんじゃないかと。だから自分の場合は、もう本当に一生懸命やった状態で、ギリギリ日本代表のレベルに到達している……少しでも手抜きしたり、怠慢なことがあればたちまち落とされる……」

そんな心理状態を臆病と彼は呼ぶ。

 彼は臆病に駆り立てられるように自らを鍛え、そして節制し、練習を繰り返す。多少のケガも押し隠してグラウンドに立つ。照準となる試合が決まると、それに合わせてかなり前から練習して、体調を整える。「やっぱり(代表に)選ばれたいですからねえ、そういう状態に自分を保っておきたいから、普段の生活の大部分をラグビーに向けておかないと」――こうして彼はキャップを重ねて20キャップまであと一つとなった。 

 しかしその愚直なまでの誠実さが、彼の肉体にハネ返る。1987年の第1回ワールドカップを前にして、彼は代表チームからも、釜石のチームからも姿を消す。怠慢さからではなくケガのために。

 

プレミアムコラム

この記事の続きを読む。

購読手続をすると全ての内容をお楽しみいただけます。
メールアドレス
パスワード

記事検索

バックナンバー

メールアドレス
パスワード
ページのトップへ