レフェリーズストーリー―太陽生命ウィメンズセブンズシリーズで笛を吹いたレフェリーの物語 | ラグビージャパン365

レフェリーズストーリー―太陽生命ウィメンズセブンズシリーズで笛を吹いたレフェリーの物語

2024/06/08

文●大友信彦


太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ2024ではレフリーの顔ぶれもバラエティ豊かだった。

第2戦の熊谷大会では海外出身のレフリーが2人登場した

ディウム・デシアナさん(スリランカ出身)



ディウム・デシアナさんはスリランカのキャンディ出身の26歳。
母国スリランカでは学校とクラブでラグビーをプレーし、キャップこそないがナショナルチームのスコッドも経験。その後、レフリーとしてアジアパネルレフリーを5年間にわたって務めたという。


2022年に電気工事の専門学校に通うために来日。現在も高崎にある専門学校に通って学んでいるが、アジアのパネルレフリーを務めていたつながりから声がかかり、今回日本で初めてのレフリーを務めた。

「この大会に向けて1ヵ月、トレーニングしました。日本のラグビーはテンポが速い。スピードがある。スリランカでも日本のラグビーはYoutubeで見ていました。2019年のワールドカップもオンラインで見ていました」

ディウム・デシアナさん「できれば日本で就職して働きたいです。ラグビーのレフリーも続けていきたいです」

ディウム・デシアナさん「できれば日本で就職して働きたいです。ラグビーのレフリーも続けていきたいです」




今回の女子の大会の印象は?と問うと「スリランカでも女子のトーナメントは盛んですよ」とニッコリ。今後のライフプランについても聞くと「できれば日本で就職して働きたいです。ラグビーのレフリーも続けていきたいです」とのこと。ちなみに、スリランカ人のディウムさんにとって、日本の食生活は問題ないのでしょうか?

「日本のカレーは甘いですね、スリランカのカレーはもっと辛い。でも甘いのも良い、日本のカレーは大好きです。天ぷらも焼きそばも好きです!」





ペダール・バロールさん(インド出身)



もうひとりはインドのコルカタ(旧カルカッタ)出身のペダール・バロールさん、28歳の女性レフリーだ。昨年8月、日本協会が菅平で開いたレフリー講習会にアジアからも参加を呼びかけた際に初めて来日。コベルコカップの男子高校生の試合(15人制)を数試合吹いたという。


「ラグビーは19歳のときに始めました。それまでは陸上競技とバドミントンをしていました。ラグビーのポジションはSHやWTB、BKはどこでもやります。国の代表にはなれなかったけど州代表でプレーしました。国内の大会でブロンズメダルを取ったことがあります」


「(インドには女性レフリーが)5-6人います。みんなで成長していきたいと思っているので、帰国したらみんなと今回の経験をシェアしたい」

「(インドには女性レフリーが)5-6人います。みんなで成長していきたいと思っているので、帰国したらみんなと今回の経験をシェアしたい」




レフリーは「2017年か2018年か、そのくらいに始めた」という。今回の大会は「個々のスキルレベルがすごく高いことに感銘を受けました。スタジアムも素晴らしいです。私もこうして新しい国、新しい人と一緒にラグビーをして成長したいです」

なおインドでは女性レフリーは「5-6人います。みんなで成長していきたいとおもっているので、帰国したらみんなと今回の経験をシェアしたい」



サラ・ポーターさん(オーストラリア出身)

サラ・ポーターさん

サラ・ポーターさん



鈴鹿大会ではオーストラリアから招いたサラ・ポーターさんが準決勝の東京山九フェニックスvs日体大などを吹いた。現在23歳。来日は初めてだが、福岡のサニックス・ワールドユースを吹いて鈴鹿へと転戦した(熊谷で吹いたペダールさんもサニックスへと転戦した)。


「レフリーを始めたのは2018年、17歳のときでした。去年はスーパーWのフィジアナ対ウエスタン・フォース・ウーメンのフィジーでの試合を吹きました。オーストラリアでは男子の試合も吹いています」





太陽生命シリーズの印象を聞くと「日本の女子選手はフィットネスレベルが高い。それとみんなディシプリンが高い。レフリーしやすいですね。すごく楽しめました。日本のレフリーチームもすごくオーガナイズされていて素晴らしい。日本が大好きになりました!」


延原梨輝翔(のぶはら・りきと)

現役高校生のレフェリーは大会史上初

現役高校生のレフェリーは大会史上初



海外のレフリーを育てるだけではない。4大会すべてでレフリーを務めたのが現役高校生の延原梨輝翔(のぶはら・りきと)だ。花園の全国大会でも上位の常連である京都成章高の3年生。当然ラグビー部員だ。兄は帝京大で大学選手権3連覇にNO8として貢献し、今春埼玉ワイルドナイツに入団した延原秀飛(しゅうと)。弟の梨輝翔も選手で兄と同じくバックローでプレーしていたが、高1のときレフリーへの転身を決意した。

「2019年のワールドカップでアシスタントレフリーになった久保修平さんの姿を見て、レフリーで世界を目指したいと思ったんです。夢は2035年のワールドカップ、またはその次、2039年のワールドカップで吹くことです」


延原梨輝翔さん「夢は2035年のワールドカップ、またはその次、2039年のワールドカップで吹くことです」

延原梨輝翔さん「夢は2035年のワールドカップ、またはその次、2039年のワールドカップで吹くことです」



「2019年のワールドカップでアシスタントレフリーになった久保修平さんの姿を見て、レフリーで世界を目指したいと思ったんです。夢は2035年のワールドカップ、またはその次、2039年のワールドカップで吹くことです」

目指す舞台は15人制だが、この春はセブンズにも注力した。太陽生命シリーズは4大会すべてでレフリーチーム入り。

「普段はセブンズを吹く機会が多くないので、レベルの高いセブンズを吹くのは光栄です。初めてセブンズを吹かせてもらったのは去年の全国高校セブンズ。スピードがめちゃ速いのでびっくりしちゃいました。でもその経験は自分の引き出しが増えることになると思っています」

日本では高校生がレフリーを務めるというとそれだけでトピックになるが、本人の感覚は少し違う。それは自身の経験があるからだ。




「昨年、シンガポールのクリケットセブンズに行かせてもらって吹かせていただいたんですが、僕のひとつ下のレフリーがいました。シンガポールの人です。日本では僕が一番若かったけど、海外では違うんだなと知りました」

それを実感できたのも派遣されたからこそ。今年の太陽生命シリーズでも熊谷大会では決勝を任された。レフリーチームには経験豊富な年長のレフリーもいるが、あえて大舞台を最年少の延原に経験させ、成長させようという日本協会レフリー部門の狙いがあるからだ。「高校生レフリー」でいられるのもあと9ヵ月余り。その間に延原はどこまでキャリアを積むだろう。


桑井亜乃さん―パリ五輪のレフリーチーム入りを果たした!

選手として、レフリーとして五輪に参加するのは世界初の快挙

選手として、レフリーとして五輪に参加するのは世界初の快挙



そして、今季最終戦となる花園大会のファイナルを吹いたのは、パリ五輪のレフリーチーム入りを果たした桑井亜乃さんだ。2016年のリオ五輪に選手として出場、サクラセブンズの五輪初トライも決めた。2021年は延期された東京五輪を最後まで目指したが代表には届かず。そしてその直後からレフリーとしてパリを目指した。


「心が折れかけたことは何度もありました。でも、自分で自分に《レフリーでオリンピックへ行くんだ》とプレッシャーをかけてきたんですから」




レフリー転向から僅か3年でオリンピックの舞台を目指す――冷静に考えたら難しいチャレンジだ。無謀と言う人もいただろう。「批判の声も届きました」と桑井さんは振り返る。「でも、それも受け入れて、やってやろうと思いました」。選手時代のような闘志が湧き上がってきたのだ。

闘志とも呼ぶべき、目標達成への強い思いは派遣された大会のレフリーマネージャーに向けても発揮された。



ワールドシリーズデビューとなった昨年の香港セブンズに続いて派遣されたのが、南アフリカで2週連続で開かれたチャレンジャーシリーズ。ここでファイナルを吹いて評価を勝ち取れれば、1年後の五輪レフリーへの道が開けると言われていた。だが1週目の決勝では桑井さんに声はかからなかった。翌週の大会を前に、桑井さんはレフリーマネージャーに直談判したという。

「私はファイナルを吹くために来た。吹く必要があるんだと、単語を並べて必死に訴えました」

その熱意が実って決勝のレフリー指名を勝ち取り、そこでのパフォーマンスが評価されたことで、パリでのレフリーチーム入りへと続く道が開けたのだ。

パリで最高のパフォーマンスを見せるために準備するのは選手だけではない。レフリーもまた、最高の舞台に最高の自分で臨むためにできる限りの準備を重ねる。太陽生命最終花園大会を終えた桑井さんはヨーロッパへ渡り、アムステルダムの国際大会を、翌週はクロアチアで開かれるヨーロッパ選手権を吹く。いったん帰国し、7月15日には秩父宮で開かれるジャパンセブンズを吹き、その夜の便で五輪に向けたレフリーチームの事前合宿のために渡欧する。





パリ五輪で、桑井さんは選手とレフリーの両方でのオリンピック出場を果たすという、世界で初めての偉業を達成する。「美しい形で、グラウンドに立ちたい」と桑井さんは言う。そのパフォーマンスは、次に続くレフリーたち――その多くは太陽生命シリーズの芝の上を駆けていた――の目標になるはずだ。

お知らせ! パリ五輪セブンズ応援企画 「高田馬場でセブンズに浸ろう!」開催

※RUGBYJAPAN365では、パリ五輪に挑む男女セブンズ日本代表の応援アクションを東京・高田馬場にあるラグビーバー「ノーサイドクラブ」と共同で企画しました。


パリ五輪セブンズ応援企画 「高田馬場でセブンズに浸ろう!」


いよいよ迫ったパリ五輪。悔しさを味わった東京五輪から3年、男女セブンズ日本代表の活躍を祈って、五輪の舞台で活躍した男女セブンズのレジェンドをノーサイドクラブにお招きし、セブンズの魅力、五輪の魅力、さらにフランス帰りのお2人にはフランスの魅力を伺いつつ、パリを目指す男女セブンズに応援パワーを届けましょう!





■サクラセブンズ応援ナイト(女子):6月16日(日)19時開場、19時30分開演
ゲスト:鈴木彩香さん(2016年リオ五輪、2009、2013年RWC7s、2017年RWC出場)
冨田真紀子さん(2016年リオ五輪、2013年RWC7s、2017年RWC出場、2023年フランスでプレー)


■サイモンジャパン応援ナイト(男子):6月28日(金)19時開場、19時30分から
ゲスト:坂井克行さん(2016年リオ五輪、2013、2018年RWC7s出場)
合谷和弘さん(2016年リオ&2021年東京五輪出場、2023年フランスでプレー)
■MC:ともに大友信彦(スポーツライター、RUGBYJAPAN365スーパーバイザー)
※採録を後日、ラグビー専門WEBマガジン『RUGBYJAPAN365』(会員専用ページ)にて掲載予定。


■会費:¥5,000- (1Drink付) ※お食事/追加のお飲み物/は各自ご注文でお願いします!
■会場:ノーサイドクラブ(東京都豊島区高田3-10-22 キャッスル安斎ビル2F)
■定員:40人
■ご参加申し込み方法:お名前と人数を明記の上、「nosideclub@gmail.com」までご連絡下さい。 お申込はお一人様3名様までのお申込とさせて頂きます。 複数名さまでのお申し込みの際は全ての方のお名前をお知らせ下さい。 お申込みが定員に達し次第、受付終了とさせて頂きます。 尚、両日とも前日の正午12時以降のキャンセルにつきましては 大変恐縮ですが、キャンセル料と致しまして 全額(5,000円)を頂戴する形とさせて頂きますので 予めご了承の程何卒、宜しくお願い申し上げます。


大友信彦
(おおとものぶひこ)

1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。

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