「Pretty Happy」。
トンガ代表「イカレ・タヒ」(海鷲)のトータイ・ケフHCは、日本に敗れた試合後の場内インタビューで「十分満足してるよ」と嬉しそうに答えた。
「トンガはいいラグビーをした。我々はまだこれからのチームだ。日本代表はとても良いチームだし、これからもっと良くなるはず。我々もワールドカップに向けてもっと努力していきたい」
敗戦にも機嫌は上々だった。ケフHCはパワフルな突破力で、1999年ワールドカップでオーストラリア代表ワラビーズを世界王座に導いた伝説のNo8であり、トップリーグ時代のクボタスピアーズでもプレー、HCも務めた親日家でもある。
ケフHCの上機嫌は、試合後に行われた会見でも続いた。
「今日の試合はとてもエンターテインメント性の高いゲームだったと思うし、ファンの方にとってもそうだったと願う。このチームが持っているいろいろな要素が出たと思う。特に後半は持ち味を出せたと思う。試合を重ねるごとによくなっているし、この調子でワールドカップも迎えたいと思っています」
上機嫌の理由は、4年前の対戦との比較について聞かれたときの答えで明らかになった。
「これはあくまで私の個人的な感想ですが」と前置きして、ケフHCは言った。
「日本代表は3~4年前の方が強かったと思う。4年前は40点くらい取られて負けたと記憶しています(実際のスコアは41-7)。ただ、今のジャパンはハードトレーニングをしてきて疲労もあるだろうしケガ人もたくさん出ている。これからどんどん強くなっていくと思う。私はジェイミー・ジョセフのこともトニー・ブラウンのこともよく知っているし、彼らが率いた日本代表が2019年に世界に与えたインパクトも素晴らしかった。今日はジャパンが買って良かったと思う。日本にとっては自信になる勝利だと思うし、我々にとっても自信になる試合だった」
今回のトンガ代表には、NZ代表で11キャップを持つFLヴァエア・フィフィタ、17キャップのFBチャールズ・ピウタウ、オーストラリア代表12キャップのNo8ロペティ。ティマニら、世界ラグビーのトップ国でキャリアを積んだ選手が加わっていた。
2022年にワールドラグビーが導入した、前代表国での最後の出場から3年以上が経過すれば、本人の母国または両親・祖父母の出生国の代表になれるという新規定でトンガ代表の資格を得た選手たちだ。この試合には出場しなかったが、来日メンバーにはオーストラリア代表で73キャップを持つFBイズラエル(イシレリ)・フォラウ(浦安Dロックス)、NZ代表2キャップのSHオーガスティン・プル(日野レッドドルフィンズ)らも含まれている。
このルール変更について聞かれたケフHCは答えた。
「我々にとって非常にポジティブな変更だと思います。プロフェッショナルなキャリアを積んだ選手がチームに加わることで、選手のマインドセット、練習や試合に取り組む姿勢が劇的に変わりました。これはトンガとサモア、フィジーにとってとてもポジティブな変化です。この3カ国は世界で最も恩恵を受ける国でしょう。私たちとしては、彼らともっと多くの時間を過ごせば、もっと良いチームになっていくと思います」
それは、この日の試合にも表れていた。トンガをはじめアイランダー諸国はフィジカルの強さと身体能力の高さを誇る半面、ディシプリンの面が課題と言われてきた。個人技のレベルが高い半面、我慢しきれず思いつきの個人プレーに走る、イライラすると反則、危険なプレーが顔を出してペナルティーやカードを受ける、ゲームの中で集中力が続かず、レイジー(怠惰)な態度が顔を出す――それはアイランダー3カ国だけでなく、日本を含む他国のリーグや代表でプレーする選手にも指摘されてきたことだが――。
しかしこの夜のトンガ代表にそんな隙はなかった。最終的に日本から一度もリードを奪えなかったが、最後まで試合を諦めず、ディフェンスの集中力も失わず、最後にはあわや逆転という場面まで作って見せた――かつてのトンガ代表にはなかった姿だ。この変化はなぜ生まれたのか?その問いに、ケフHCは答えた。
「答えはシンプルです。今のトンガ代表ではベストな選手がプレーしている。プロフェッショナルなキャリアを積んだ選手たちがプレーして、若い選手も彼らから学び続けている。欲を言えば、このメンバーでもっともっと多くの試合をしたいし、練習する時間もほしい」
この試合で50キャップを達成したSHソナタネ・タクルア主将も前日の会見で同じことを言っていた。