2月15日、秩父宮ラグビー場では第52回日本選手権2回戦の2試合が行われた。第一試合はサントリーサンゴリアスが神戸製鋼コベルコスティーラーズに22−10で快勝した。第二試合は先週、NECグリーンロケッツに勝利した学生王者の帝京大学がトップリーグトップ4の東芝ブレイブルーパスと対戦した。
東芝ブレイブルーパスは主将であるSO森田佳寿(帝京大卒)が今シーズン初めてスターティングメンバーに名を連ねた。
一方帝京は、負傷で欠場の東恩納寛太、森谷圭介に代わり、第1列に深村亮太(3年・佐賀工)、CTBに前原巧(4年・コザ)が先発した。
スタジアム全体が帝京に対する大きな期待を感じさせるような雰囲気が漂っていたがトップリーグ3位の東芝はそうした雰囲気をものともしない高い集中力で試合を優位に運んだ。2分、自陣のマイボールラインアウトからモールでセンター付近まで前進するとSH小川高廣が帝京DFのスペースを見つけると自らボールをキャリーしビックゲインし敵陣22mの内側へ攻めこむ。
ゴール前10m付近の帝京ボールラインアウト。東芝のプレッシャーで帝京はボールを確保できず、東芝にアドバンテージが出されたままプレーが続行。CTBリチャード・カフィがひとつポイントをつくると小川がさらにBKへ展開。WTB大島脩平へパスが出され、大島が内に返したところボールが溢れるがノックバック。アンストラクチャの状態になり、小川がボールを抑えるとそのままスペースを見つけて先制のトライ。
7分、帝京はゴール前5mでマイボールラインアウトのチャンス。HO坂手淳史はLO小瀧尚弘をターゲットにボールをスロー。しっかりとボールをキープしモールとするが東芝の強烈なディフェンスに押すことができずラックに。SH流大はPR深村亮太を使ってポイントをずらし、すぐさま走りこんできたCTB前原巧へパス。しかしLO梶川喬介のタックルを真正面から受けてボールをターンオーバーされてしまう。
14分、東芝は敵陣22m手前でマイボールスクラム。帝京がアングルのペナルティをとられゴール前のラインアウトとなる。ゴール右のラックからSO森田にボールが出ると、森田がインゴールへタップキック。WTB尾崎晟也と流がグラウディングに入るがTMOの判定となる。判定の結果、帝京のドロップアウトでゲームが再開される。
17分、東芝は敵陣22m手前ラックからCTBカフィが相手ディフェンスのミスマッチを突いて1番と3番の間をブレイク。そのままトライを決め14−0とリードを広げた。
しかし帝京も24分、細かくフェーズを重ね22m内側に攻め込むとFB重一生が粘り強い突進でゴール前にポイントを作る。流からLO金嶺志へのパスは通らずノックオンに思われたがその前に東芝にオフサイドのペナルティ。流がクイックスタートでBKに展開。SO松田力也が残り2mまでボールをキャリー。HO坂手がデコイランとなりその裏に走りこんできた重へパス。しかしそのプレーを完全に読んでいたのは、森田だった。森田は重に対し真正面からタックルをするとカフィが完全に乗り越えてターンオーバー。森田が敵陣深くへ蹴り返してエリアを挽回した。
WTB磯田泰成がボールをおさえリターン。22m外までボールをキャリー。一度PR森川由起乙を使ってポイントをずらし、松田がタッチへキック。しかし強風にあおられノータッチとなって東芝が再びチャンスを迎える。WTB伊藤真、FL山本紘史がボールキャリーとなって22m内側へ切れ込むと大島が帝京DFのスペースを突いてそのままインゴールへトライ。21−0と大きくリードを広げた。
前半何とかスコアをあげたい帝京は36分、松田のPGがゴールポストにあたりルーズボールとなったところ帝京FL杉永亮太がボールを抑えると流は冷静に右サイドへ展開。途中出場のCTB濱野大輔がトライを決め21−5として前半を折り返した。
後半、最初にスコアしたのは東芝。3分、ゴール前のマイボールラインアウトからモールを押し込み大島がトライ。26−5とリードを広げた。ここで東芝はSOを森田から廣瀬俊朗に交代。11分、帝京陣内5mライン付近での帝京ボールスクラム。帝京としてはしっかりと組んでボールを出してエリアを挽回したいところ。一方の東芝はプッシュして何とかマイボールにしたい局面となった。ここで東芝はプッシュし、帝京のコラプシングを誘い今度はマイボールのスクラムを選択する。
ここでも東芝がプッシュし、帝京はアングルのペナルティとられ東芝にアドバンテージがだされた状態でゲームが続行。スクラムからボールがこぼれ廣瀬の元へ。廣瀬がボールを抑え大外にいる伊藤へむけてキックパス。伊藤がボールをキャッチし、さらに磯田のタックルをスピンでかわしインゴールへ。31−5と大きくリードを広げた。来週の準決勝に向けて東芝はLO大野均とFB豊島翔平を下げてLO松田圭祐、FB松延泰樹を投入した。
一方帝京は15分、直後のキックオフボールをマイボールとし22m内側ラックから流が速いテンポでBKへ展開。松田がゴール中央でポイントを作り、順目にパスを通すと大外にいた尾崎へ。尾崎は廣瀬と小川のタックルを交わしインゴールへ切り返しトライ。31−10とした。
しかし20分、東芝は敵陣22m内側のマイボールスクラムから小川がゴール前までボールをキャリーすると後ろからサポートに入ってきたカフィがピックアンドゴーでボールをインゴールへグラウディングしトライを決め38−12と大きくリードを広げた。
これで勝負が決まったかに思われたが帝京が驚異の追い上げを見せる。27分、敵陣ゴール前のマイボールラインアウトからFWで連続攻撃をし、東芝が内側に寄って外のディフェンスが薄くなったところ大外の磯田へボールを展開しトライ。
さらに36分にも同じような状況で松田が磯田へロングパス。これが見事に通り磯田がゴール中央までボールを持ちこみトライ。38−24とするがここまで。東芝ブレイブルーパスが帝京大学に勝利し準決勝進出を決めた。
東芝ブレイブルーパス 冨岡鉄平監督
最後少し追い上げられて嫌な感じになりましたが、前半から森田が帰ってきて東芝らしい厳しいプレーが随所に出て非常に満足しています。ただ、後半、3本取られて試合終了後に帝京の選手たちが涙しているのを見ると、彼らに可能性を感じさせてしまったのかなという部分がトップリーグのトップ4としましては責任を果たせなかったと思います。
帝京さんは先週大きな試合を勝利した後にまた大きな試合をやらなければならない中で、スイッチを切ることなく良い準備をしてきているということを選手も感じ取ったと思いますし、私自身も上から見ていて感じました。
実は前半はもっともつれると思っていました。ただ前半とった3本のトライが本当に満足できるものでした。この日本選手権を優勝しようと思うと、これからタフな試合が続いていくと思いますので後半力強いトライを1本決めてからは、通常より早いですが選手を交代させるゲームマネジメントをしました。
(帝京大の)選手一人ひとりはトップリーグでもすぐにレギュラーとなれる選手が12〜3人くらいいますので彼らが勢いづけば後半すごくいいトライを取られましたけど、ああいう風になることはわかっていました。
NECさんは非常に強い(チーム)です。ですから決して普通にやれば勝てるといえるチームではなかったと思います。いろんな条件が今回の試合では重なりました。NECにとってはアンラッキーな部分もあると思いますが、NECは負けました。あそこまでは(岩出先生が)選手たちにストーリーを見せることができました。しかし、この一週間で東芝に対してこれをやれば勝てるという明確なものを提示できるとは思っていませんので、『先週までやって来たことを信じてやるしかないんだ』という落とし方しかできなかったのではと思います。ここにうちのアドバンテージが一つあったと思います。
ただ、岩出先生の(日本選手権で日本一になるという)高い志というものに対して、自分たちはトップリーグのトップ4の一員として来年は今年のダブルスコア以上のインパクトを与えて、シャットアウトしてやっぱり凄かったなといわれるトップリーグにしていかなければと感じています。
(次のヤマハ戦について)ヤマハとはリーグ戦で2回戦いましたが、メンタリティの部分でイーブンではなかった。1stStageに関してはイーブンでしたが2ndStageに関しては、向こうは後がない状況だったので(違っていた)。今度の試合は言い訳ができない試合だと思っています。同じ条件で、決勝を目指したものどうしの戦いですから。トップリーグのセミファイナルで大敗しまして、あそこから多くを学んでいろんなものをもう一回整えてきましたので、しっかりチャレンジして勝ちたいと思います。
東芝ブレイブルーパス 森田佳寿キャプテン
本日の試合、帝京さんがNECに勝って、大きなエナジーをもってまた見ているお客さんも帝京大学に大きな期待を寄せて、様々な期待を背負って戦っていました。そういう相手に対して我々がどう戦うか、東芝を応援している方に対して何を見せるかそこにフォーカスをして試合に臨みました。ですので学生、社会人関係なくゲームのスタートに全てをかけました。
前半については随所に我々の目指しているところ、東芝のアイデンティティを少し示すことができました。後半、あまりいい内容ではなかったので、しっかりと修正して次のヤマハ戦にむけて準備をしていきたいと思います。
(母校との対戦について)先週、素直に母校が『打倒、トップリーグ』を掲げてやってきた1年の末にNECを倒した事はOBとしてすごく嬉しいと思いました。後輩や、大学時代から応援していただいた方々に下手なプレーは見せれないという想いは少しありました。しかし、どのチームが相手の試合でも東芝を応援していただいているファンの方や働いている事業所の同じ職場の方も見に来てくださるので、そういった方にきちんとした責任あるプレーを見せたいという思いの方が強かったです。今シーズン初めての試合でしたので、東芝ブレイブルーパスの一員として10番として試合に出ることの責任、私が何をするか、その気持ちの方が大きかったのでそこまで帝京に対する思いは少なかったです。
帝京大学 岩出雅之監督
学生には『自分たちのやってきた事を信じて、少し余裕をもってやれば必ず勝てる』といって送り出しましたが、先週に比べると少し迷いがありました。戦術的なこともありますが力足りませんでした。とてもいい試合でしたけれども、残念でした。でも学生はよく頑張ってくれました。ここのレベルで勝つ準備、勝つイメージを学生たちに1年間かけてやってきていれば先週の試合同様に落ち着いてできたのではと思います。そういう部分では監督の力量が足りなかったと感じています。
見えてきたものが大きくあります。この見えてきたものをしっかりと活かして次のチームは先輩たちが作ってくれたいい財産を活かせて大きな挑戦をしてくれることを期待します。来年は新キャプテンに坂手淳史(HO/京都成章)、副キャプテンに金田瑛司(SO/伏見工)となります。来年もよろしくお願いします。
帝京大学 流大キャプテン
もう一度この選手権で試合できた事を誇りに思います。また、東芝さんが自分たちに対して最後までファイトしてきてくれたことに感謝申し上げます。結果は負けとなりましたが今の想いは悔しい気持ちでいっぱいです。しかし、ここにくるまでのプロセスや今日の試合で得たものは大きな財産となって4年生は社会人になって、そして3年生以下は来年度に活かしてくれるものと思います
先週とは違う圧力がありました。しかし、そこに全く怯むことなく最後までファイトし続けることができたのも自分たちの成果だと思います。最後取り切る部分、精度のところや細かいところを突き詰めていければ違う結果になったのではないかと思います。反省点はいろいろとありますが僕自身キャプテンとしてこの1年間、チームの先頭に立ってここまできたことはとても誇りに思いますし、何より一緒になって苦しい場面を積み上げてきた仲間を誇りに思います。それを支えてくださったスタッフの方々にも感謝しています。
これで今年の帝京大学ラグビー部のシーズンは終わりとなりますが、また3年生以下がもっともっと進化を遂げた帝京大学を作り上げそして日本選手権でまた違った結果をだせるように進化していってくれると思います。