サクラセブンズの現在地・2024年2月―鈴木貴士HC・平野優芽キャプテン・中村知春・松田凛日 | ラグビージャパン365

サクラセブンズの現在地・2024年2月―鈴木貴士HC・平野優芽キャプテン・中村知春・松田凛日

2024/02/13

文●大友信彦


2月9日、熊谷ラグビー場で行われた女子SDS(セブンズ・デベロップメントスコッド)の練習が公開された。

サクラセブンズは11月のパリ五輪アジア予選に優勝、パリキップを獲得した後、コアチーム復帰2年目となるワールドシリーズに参戦。初戦のドバイ大会(12/2-3)では9位、メンバーを大幅に入れ替えて臨んだ翌週のケープタウン大会(12/9-10)では10位、年が明けて1月26-28日のパース大会では11位。昨年、3度にわたって達成した「8強入り」はまだ果たせていない。

三枝千晃

三枝千晃



鈴木貴士HCは「3大会を回って、自分たちが思うような結果が出ていない。選手たちも勝てないことで悔しい思いを持っています。今回の合宿では、これまでやってきたことをもう一度やり直す、スキル、コンタクトなど基本プレーの質を大事にして取り組んでいます」と合宿の狙いを話した。

須田倫代

須田倫代



水谷咲良

水谷咲良




この日公開された練習では、7-7の実戦形式の練習に多くの時間を割いていたが、その中でも突然笛が鳴り、すぐに大きく離れた位置でプレーが再開するなど、実戦で起こりうる負荷を想定したメニューが組まれていた。

堤ほの花

堤ほの花



「ワールドシリーズではチャンスが少ないので、いかにしてスコアまで持って行くかということを選手たちに意識付けようとしています」

合宿には、前回からスポットコーチとして参加しているクボタOBの荻原要さんが参加。トップリーグ時代のスピアーズでフッカーとして活躍した荻原さんは、この日の練習でもお手本のラインアウトスローイングを投げただけで選手から感嘆の声があがったほどだった。

荻原スポットコーチ

荻原スポットコーチ




「セットプレーは課題というよりもチャンスだと考えています。そこから良いアタックをできればスコアに繋がる。スクラムもラインアウトも専門的なところなので、スペシャリストの荻原さんに前回の合宿から来ていただいています」

ライチェル海遥

ライチェル海遥




パリ五輪まで半年。東京五輪を半年後に控えた2021年のこの時期(1-2月)は、22人の固定スコッドと5-7人のトレーニングメンバーで合宿を繰り返していた(東京五輪で主力となる大谷芽生、梶木真凜、小出深冬、山中美緒はトレーニングメンバーだった)。

山中美緒

山中美緒


梶木真凜

梶木真凜




当時はまだコロナ禍が収束していない時期。大会もほとんど行われず、そもそも半年前にHCが交替するという非常事態も起きていた。戦術も含め、チーム作りが遅れていたのは明らかだった。

今回は、東京五輪後の9月から鈴木貴士HCが継続して指導。11月のアジアセブンズに優勝して翌年のRWCセブンズ出場権を獲得すると、2022年8月のワールドラグビーチャレンジャーシリーズ(チリ)で優勝してワールドシリーズコアチーム昇格を決め、9月のRWCセブンズでは9位。

鈴木貴士HC

鈴木貴士HC



2022年12月から始まったワールドシリーズでは最初のドバイ、ケープタウンでは10位、11位だったが、年が明けた2023年1月のハミルトン大会で6位、シドニー大会で8位と連続で8強入り。




その後バンクーバーでは9位、香港では10位に終わったが、5月の最終戦フランス大会で過去最高の5位。目標のメダルを視界に捉えるところまでやってきた。メンバーも、昨年のワールドシリーズを戦った17人をベースに、復帰したライチェル海遥、堤ほの花、新鋭の西亜利沙、高橋夏未らが加わり約20人のコアメンバーで合宿を繰り返し、強化に励んでいる。

辻崎由希乃

辻崎由希乃



吉野舞祐

吉野舞祐



「今はまだ、五輪に向けて絞り込むことよりも、ワールドシリーズを戦い抜くこと、そこで勝っていくことを目指しています。ここまでワールドシリーズを3大会戦って、結果は出せていないけれど、完全にやられたというのではなく、ほんの少しのミスで負けてしまったのがほとんど。その小さな差で勝つか負けるかで結果は大きく変わってくる。そこの精度をあげて、スコアを取り切る、勝ちきれるチームにしたい」

田中笑伊

田中笑伊



内海春菜子

内海春菜子



サクラセブンズは16日にカナダに向けて出発。23-25日にワールドシリーズ第4戦となるバンクーバー大会、続く3月1-3日に第5戦のロサンゼルス大会に出場。この2大会で、「パリでのメダル獲得」という目標に向けて手応えを掴める結果を出したいところだ。



平野優芽キャプテン

平野優芽キャプテン

平野優芽キャプテン



「12月からの3大会では結果が出ていない状態ですが、パース大会での学びを活かして、新しい取り組みを始めているところです。アタックもディフェンスも、この3年間やってきたベースは変わらないのですが、より賢くラグビーをするための横とのコミュニケーション、意図的にどのエリアでラグビーをするのかというマネジメント力を高めようとしているところです。

やはり、コミュニケーションが取れているときはグラウンドの中で連携が取れているし、うまくいかないときは良い結果が出ていない。1人1人が人任せにしないで、主体的にコミュニケーションを図っていくようにしています。オリンピックが近づいてくると、チーム内の競争も激しくなると思うけれど、それよりもまずワールドシリーズ。ワールドシリーズで結果を残して、チームとして自信をもつことが、パリで結果を残すために重要だと考えています。

オリンピックでメダルを取ろうとするなら、ワールドシリーズでベスト8に入るのではなく、少なくとも5位や4位の景色を見ておかないと、オリンピックだけ3位までに入るというのは難しいと思う。まずは次の大会で必ず8強に入って、そこから少しでも順位を上げていきたい。

今回の合宿では雪でグラウンドが使えない日もあって、その分インドアでコンタクトのメニューがたくさん組まれて、キツかったです(笑)。1人1人のタックルスキルを確認しながら、30分くらいミッチリ身体を当て続けました」


――男子がワールドカップ前の浦安合宿で行ったタックルセッション並に?


「それほどではないと思います、水も飲みましたし(笑)」


中村知春

中村知春

中村知春



「ワールドシリーズ3大会が終わったところで、順位も下がっているし、今はみんなで基本的なところから振り返って、プレーの質を高めることにこだわって、特にトライを取りきるための質にこだわっていこうという意識で練習に取り組んでいます。



昨年はワールドシリーズ復帰1年目で、総合8位になりましたが、それも奇跡みたいな、運も含めての成績、実力は全然伴っていなかったと思います。ここからどのように舵を切るか。パース大会ではキックオフのチェイスが改善できて、再獲得できるようになってきたのですが、まだムラがある。全体的にみるとちょっと後退してしまった部分もあります」

――初採用だったリオ、最後に代表を逃した東京に続き、3度目の五輪チャレンジです。


「過去2回は自分の中に焦りがあったと思います。オリンピックは一発勝負だから、そこで特別なことをやって結果を出そうと考えていた。今回は、ワールドシリーズの順位がそのままオリンピックの順位になるだろうから、まずここで結果を出すことだと考えています。



チームとしてできることはワールドシリーズで結果を出すこと。オリンピックはその延長線にあるものだと。オリンピックはいろいろなことが起きるし(笑)、そこに誰が立っているかは運もあります。
私自身、東京五輪のあとはボーナスというか、いつこのチームから離れることになってもいいという気持ちでやってきています。そうですね、パリのオリンピックの舞台にもし立てたら、支えて下さった方々への感謝を伝えたいです」


松田凜日

松田凛日

松田凛日


――昨年10月上旬のSDS合宿以来久々の合宿参加です。


「10月末に日体大のトレーニングで左膝を痛めてしまいました。東京五輪の前にも傷めた部位です。下肢の筋力が足りないことがケガの要因だったので、それ以来左の膝から太腿の筋力を上げることを重視してトレーニングを重ねてきました。

グラウンドでの練習に復帰したのは1月8日からです。パリ五輪まで半年ですが、自分の中では焦りは感じていません。いつの大会までに復帰しようと考えると身体が無理をしてしまう。今は『いつの大会に出る』ことは考えず、ケガをしないで身体をワールドレベルに持って行くことと考えています」

松田凛日のチョークタックル

松田凛日のチョークタックル


――この合宿ではFWで練習していますね。


「前はBKでしたが、どんどん身体がデカくなって(笑)、サイズアップした分、FWの方がチームに貢献できるかなと。貴士さん(鈴木HC)と話しながら、FWをやってみようとなりました。
大きくなったのは大学2、3年で、15人制に言っていた間ですね。筋肉量も増えて、会う人会う人から『大きくなったね』と言われました。自分の強みはランとボールキャリーで、これは世界のレベルでも通用すると思うので、アタックの引き出しをもっと増やしたい。15人制のワールドカップを経験したことで、前よりも緊張しなくなりました。その意味でもワールドカップに出たのはプラスになっていますね」



――五輪への思いは。


「オリンピックは中学生くらいの頃からの目標、夢でした。特別な舞台なので、ラグビー選手としてぜひ達成したい、出場したいです」


――この3月で日体大を卒業します。進路は決まりましたか。


「東京山九フェニックスに入ります。人とラグビーの両面で選びました。簡単に試合に出られるチームじゃない、レベルの高い競争ができるチームで、セブンズも15人制もできる。就職は凸版印刷に入社が決まりました。先輩には谷口令子さん(アルカス熊谷)やラベマイまことさん(横河武蔵野アルテミ・スターズ)がいます」


――お父さんからブレイブルーヴへの勧誘はなかったのですか?


「ありませんでした(笑)」


――セブンズと15人制については、今後は?


「オリンピックが終わったら、また15人制に戻れたらいいなと思っています。海外にも興味があります。15人制だったらイングランドに行ってみたいです」


――15人制でもFWを?


「いいえ、15人制ではBKでやりたいです(笑)」




大友信彦
(おおとものぶひこ)

1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。

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