このほど、『ラグビーマガジン』を発行しているベースボール・マガジン社から、日本ラグビーのレジェンドの自伝が3冊、まとめて発刊されました。
小野澤宏時 著 「倒れるな」
大野均 著 「ラグビーに生きる」
坂田好弘 著 「心で見る 日本ラグビーが生んだ世界的ウイングの指導哲学」
小野澤選手は、全国的には無名の静岡県・聖光学園出身、花園にも無縁ながら中大を経てサントリー入り。日本代表最多の「81」キャップ、通算トライ歴代2位の「55」など、数々の伝説を築きながら走り続ける35歳。本書では、「うなぎ」と形容される柔らかく強靱なステップのルーツ、小野澤選手の肉体強化についてのエピソードがふんだんに語られています。「クリーン」を繰り返すことで、自分の身体のバランス、筋肉の状態と会話しているという解説からは、自伝ならではの迫力、細部へのこだわりが伝わってくる。自分のことを「フワフワしているのが好き」という小野澤選手ですが、過度な気負いや使命感を背負わず、ナチュラルでフラットな精神状態で試合に臨む姿勢の裏側には、細部までマニアックにこだわりぬいた自分の身体へのメンテナンスがあるのだと改めて知らされます。
大野選手は大学からラグビーを始め、素人同然で東芝に入りながら、日本代表歴代3位、FWでは最多のキャップ「72」を持つ35歳。あの質実剛健なプレースタイルはどのように培われたのか、少年時代のエピソードを読むと、垣間見えてくる気がします。中学・高校までは野球部に所属していた大野選手ですが、身体は大きかったものの補欠でした。それでも生真面目に努力を積み重ねていたことが、大学で出会った新しいスポーツで実を結んだわけです。巻末には、宿敵サントリーの大久保直弥監督との対談も収録されています。大久保さんも大学からラグビーを始め「不器用だけど、できることを全力でやりきる」ことを自らに科し、武骨で頑健で勤勉なタックルを繰り返す、大野選手と似たスタイルの選手でした。互いを深くリスペクトしつつ、ラグビーの魅力を語り合う2人の会話には、まるでそこに一緒にいるような、心地よい感覚を覚えます。
そして坂田さんは、1968年の日本代表NZ遠征で大活躍。オールブラックスジュニアを破った伝説的な試合で1試合4トライの離れ業を演じ、世界に打電された大金星の原動力に。翌年、勤務していた近鉄から「無給休暇」をとり、今度は単身NZへ留学。「世界でもっとも活躍した5人の選手」に選出されるなど大活躍をみせた、世界で活躍した日本人選手のパイオニアです。昨年はIRBの「ラグビー殿堂」入りも果たしました。本書ではラグビーとの出会いから、競技生活で出会った数々の指導者から学んだこと、チームメートから学んだもの、何度も訪れたラグビー王国NZで学んだものなどが詳述されています。自分でとことん考え抜き、実践→検証→修正のサイクルを繰り返して身につけたクロスステップなどのスキル、NZで実際に行われている普及・育成のプログラムなど、具体的な記述は、迫力と説得力にあふれています。