ラグビーの日本一を決める第51回ラグビー日本選手権は3月1日、東京・駒沢公園陸上競技場と大阪・近鉄花園ラグビー場の2会場で準決勝が行われた。駒沢公園陸上競技場ではトップリーグ2013−14シーズンの覇者であるパナソニックワイルドナイツとリーグ3位の神戸製鋼コベルコスティーラーズが対戦した。
パナソニックはリーグ戦ファイナルからほぼ3週間ぶりの試合。「試合勘に不安がありました」(中嶋則文監督・パナソニック)。さらにスーパーラグビー出場のためチームを離れているSH田中史朗、HO堀江翔太に代わり、SHにはイーリ・ニコラス、HOには設楽哲也が先発メンバーとして出場した。一方の神戸製鋼は前週のヤマハ発動機ジュビロとの接戦に勝利し、13季ぶりの制覇を目指しリーグチャンピオンチームに挑んだ。
前半4分、SOベリック・バーンスのPGでパナソニックが先制。さらに9分、敵陣10mライン先のブレイクダウンでパナソニックNo8.ホラニ龍コリニアシがボールに絡み神戸のペネルティを誘発。ショットを選択しバーンズがPGを決め6−0と点差を広げた。
その後、パナソニックは分厚いディフェンスで神戸の攻撃を食い止めてはボールを奪い、キックで敵陣に入って試合を進めるが、神戸のディフェンスもパナソニックの攻撃を食い止める。互いに防御が攻撃を上回り、なかなかトライが生まれない時間帯が続いた。
膠着状態の中、バーンズのキックからパナソニックにチャンスが生まれる。21分、バーンズのハイパントに対しWTB北川智規が高く跳び上がって確保しマイボールにすると、素早くオープンサイドに展開。このボールが見事に繋がり、最後は大外にいたCTB霜村誠一がディフェンスに入ったCTBジャック・フーリーとFB濱島悠輔をかわしそのままトライ。13−0とリードを広げた。「キックに対しての戻りが遅かった」(伊藤鐘史ゲームキャプテン・神戸製鋼)
30分、パナソニックは自陣ゴール前で神戸のアタックを止め続け、CTBクレイグ・ウィングがファンブルしたボールをSOバーンズがダイレクトでキッククリア。ここにWTB山田が反応し、ロングチェイスとドリブルで約70mを走りきりインゴールでボールをグラウンディングしたかに思われたが、TMO(テレビマッチオフィシャル)の結果、ボールを抑え切れていない=ノックオンという判定でノートライとなったが、パナソニックのディフェンス力と切り返す攻撃力の高さを印象づけた。
35分、敵陣10m付近のマイボールラインアウトから神戸SO正面がチップキック。そのボールを自らがキャッチし鮮やかなボールさばきでボールをキープしそのまま左隅にトライ。正面の個人技で神戸がようやく初得点をあげ13ー5とする。「大きくディフェンスを崩されたトライではなかったので怖くはなかった」(WTB山田・パナソニック)
前半は13−5でパナソニックがリードして折り返した。
後半開始早々の3分、FWとBKが一体となった連続攻撃からNO8ホラニがトライをきめ20−5とすると、その直後の7分、相手のハイボールをNo8ホラニがキャッチしたところFLマパカイトロがタックル、ボールを後ろにそらしたところサポートに入ってきたWTB北川が神戸ディフェンスのスペースを見逃さず、自陣10m線手前からインゴールまで約70mを独走してトライ。バーンズのコンバージョンも決まり27−5。パナソニックが後半10分経たないうちに試合の流れを一気に引き寄せた。直後にパナソニックは、CTB林泰基からJPピーターセンを投入しさらに攻撃的な布陣へ切り替えた。
一方神戸製鋼は、SH猿渡知、SO正面健司のハーフ団からWTBジャック・フーリーやNo8マパカイトロ・パスカといった強いランナーにボールをまわすという攻撃のポションを持ちながら、パナソニックのプレッシャーからスペースをつぶされ、なかなか攻撃の局面を作る事ができない。「神戸の攻撃はSOを中心にアタックしてくるので局面でノミネートされた人間がプレッシャーにいくことを徹底していました」(NO8ホラニ・パナソニック)。
15分、グラウンドを広く使ってボールをまわし始めた神戸製鋼がようやくパナソニック陣内でラインアウトを獲得するが接点の攻防で自らミスを犯しボールを失ってしまう。「最後までボールキープすることができなかった。」(LO伊藤鐘史・神戸製鋼)「自分たちのミスからターンオーバーをされてしまった」(CTBフーリー)
19分、神戸陣内22mの攻防でFL西原のパスがCTBフーリーにインターセプトされ、No8マパカイトロが前進しラックをつくり、バックスに展開したところCTBクレイグ・ウィングのパスをWTB山田が跳び上がりざま足でカット。
「(パスが)上に来たら手でインターセプトするつもりでしたが、低かったからキックしました。一応、どちらにも備えてました」(山田)インゴールにむかってころがったボールを山田自らがおさえ34−5と大きく神戸を突き放した。
さらに31分、敵陣5m手前のマイボールラインアウトからモールを形成するとそのままインゴールまでFWが押し切り途中出場のFL若松大志がグラウディングし39−5とすると、37分には相手陣10m付近のブレイクダウンからボールを奪ったパナソニックが一気にバックスに展開。No8ホラニからボールを受けたJPピーターセンがWTB北川にラストパス。まさにパナソニックの真骨頂をみるような攻撃で46-5とし、そのままーサイドを迎える。後半神戸製鋼の攻撃を完全に封じたパナソニックが神戸製鋼を46−5で下し4季ぶりの決勝進出を決めた。
勝利した中嶋則文監督は「決勝から3週間あいた試合で、試合勘に不安がありましたがパナソニックがやりたいラグビーをやり続けることができ、いいゲームができました。」と振り返ると、北川智規ゲームキャプテンも「今日の試合は、前半我慢の時間帯があり、我慢できず、無理にこじ開けようとして相手ボールになってしまったりした。後半、修正ができて結果がだせてよかったです。」と勝利の歓びを語った。
一方、13年ぶりの日本選手権制覇を目指した神戸製鋼・苑田右二ヘッドコーチは「こういうカタチでシーズンを終えることは非常に残念。」と肩を落とし、「前半から2人目のサポートが遅れボールをキープするためにラックに人数にかけざるを得なかった。攻めてもターンオーバーされてしまい当たり前のことができなかった」とリズムを変えることができなかった点を挙げた。また伊藤鐘史ゲームキャプテンは「(パナソニックは)チャンピオンチームらしく、すばらしいディフェンスでした。攻撃のオプションが減ってしまい相手に的をしぼりやすくさせてしまった。ラックサイドではピックアンドゴーでもっと攻めたかった。来季は巻き返せるようにしたい。」とコメントを残した。
久々の先発を果たしたSHイーリ・ニコラスは「フミさん(田中史朗)からは『自信もって、全然できるから』と言ってもらえました。」と神戸戦を前に田中からアドバイスをもらったことを明かした。また中嶋監督も「(ニコラスだけでなく、堀江翔太の代わりに出場した設楽哲也も含め)腐らずにやってきたことが今日のパフォーマンスにつながった」と評価した。
今季のパナソニックの強さは前半の課題を後半に修正しできるという点が上げられる。その点についてNo8ホラニは、「三連覇した時(2007年〜2009年度、三洋電機ワイルドナイツとして)と同じくらいコミュニケーションがとれている。試合中に常に細かなことを話しています。毎回話すことで自分のやる事が明確になってくる」と試合の中で冷静にやるべきことを選手全員が共有し実行していることが背景にあると明かした。
同日近鉄花園ラグビー場でおこなわれた準決勝のもう一試合、サントリーサンゴリアス対東芝ブレイブルーパスは25-24で東芝が勝利し決勝進出を決めた。決勝戦の相手となった東芝について中嶋監督は、「勢いのついた東芝さんはやりづらい。自分たちのスタイルがどれだけやれるかというのが重要」と語り、北川は「(入団して)8年目ですけど、大事な試合で東芝に負けるというイメージがあるがそれを払拭したい。絶対負けないです」と強い想いを語った。また山田は「東芝、サントリーどちらと対戦してもあまり気にしていませんでした。自分たちの戦術を信じてやるだけです」とコメントするも、ホラニは「勢いのある東芝は怖いですね。前半の入りが勝負ですね」と、4連覇を目指すサントリーを僅差で下した東芝の勢いを警戒していた。
4季ぶりの優勝、さらにトップリーグとあわせて2冠を狙うパナソニックワイルドナイツと、7季ぶりの優勝を目指す東芝ブレイブルーパスによる決勝戦は3月9日(日)14時5分、国立競技場でキックオフされる。