紫紺のジャージーはPKを得ても3点は狙わず、遮二無二トライを求める。赤黒のジャージーが執念のタックルでそれを阻む。ボールの所有権は目まぐるしく入れ替わり、スタジアムには悲鳴と歓声が交錯する。
12月1日の国立競技場。興奮と感動の歴史を重ねてきた伝統の早明戦は、現在の国立では最後の開催だった。15対3で早大が勝利した後も4万6961人の観衆は席を立たず、特別ゲストの松任谷由実さんが名曲「ノーサイド」を歌い終えるまで、国立競技場での最後の時間を噛み締めた。
スタンドにこだまする歌声を背に、早大・垣永真之介主将の、大粒の涙を流す姿が電光板に映し出される。
「集客活動のリーダーで一番頑張ったヤツの姿を思い出したら感極まってしまって。オフ返上で、大学のゼミや、近くの小中学校を回ったりしてくれたんですが、そいつはこの試合に出られなくて」
1980年代から90年代にかけては満員が続いた早明戦だが、全勝同士の対決は94年が最後。観客の実数発表が始まった2004年に4万3899人だった観衆も、早大が1敗、明大が4敗で迎えた08年には2万5710人まで減少した。帝京大、筑波大の躍進もあり、早明戦の人気と存在感は徐々に薄れていった。