打倒・世界2強へ―キーワードは『分身の術』。シンガポール、バースに挑むサクラセブンズの現在地 | ラグビージャパン365

打倒・世界2強へ―キーワードは『分身の術』。シンガポール、バースに挑むサクラセブンズの現在地

2026/01/27

文●大友信彦


サクラセブンズのネクストステージへのチャレンジが始まる。

7人制女子日本代表「サクラセブンズ」が27日、HSBC SVNS(ワールドシリーズ)第3戦・シンガポール大会(31日~2月1日)に向けて出発した。

ツアーメンバーは以下の15人

秋田若菜 自衛隊体育学校PTS
庵奥里愛 Pearls
内海春菜子 YOKOHAMA TKM
大内田夏月 Pearls
大内田葉月 日体大ラグビー部女子
大谷芽生 ながとブルーエンジェルス
梶木真凜 自衛隊体育学校PTS
小西春菜 追手門学院大VENUS
三枝千晃 北海道バーバリアンズディアナ
須田倫代 Pearls
谷山三菜子 日体大ラグビー部女子
永田花菜 ナナイロプリズム福岡
平野優芽 ながとブルーエンジェルス
松田向日葵 追手門学院大学VENUS
吉野舞祐 ナナイロプリズム福岡

「それぞれの合宿はコンディションの万全でない選手は招集しない」

兼松由香HC

兼松由香HC


昨季は最高順位4位、年間ポイントランキング5位(グランドファイナルの最終順位は7位)に躍進したサクラセブンズは、今季の第1戦ドバイ大会で3位となり史上最高順位を更新。第2戦のケープタウン大会は惜しくも連続4強入りはならなかったが5位以下戦に連勝して5位。第2戦を終えてポイントランキングではオーストラリア、ニュージーランドに次ぐ3位につけている。シンガポール大会からのチャレンジについて、遠征出発前の兼松由香HCに聞いた。

――ドバイとケープタウンの2大会を終えて、今回のシンガポール大会までに熊谷、徳島、別府で合宿を重ねてきました。狙いと収穫を教えてください。

「12月の熊谷は、ドバイとケープタウンの2大会連続で参加した選手はお休みにして、それ以外の第2期スコッドとシニアアカデミーの選手、コンディション等の都合で第1期・第2期に参加できなかった選手を招集して、トレーニングとセレクションマッチを行って、1~3月の4大会を戦う第3期スコッド(SDS)を選出しました」

「それぞれの合宿は、コンディションの万全でない選手は招集しないという方針で行っています。第3期スコッドを編成したあと、徳島合宿に向けてはフルコンタクト、フルスピードですべてのメニューに参加できる状態かどうかを事前にヒアリングして、欠員のところはトレーニングメンバーから招集して、合計20人で合宿して、そのパフォーマンスを見た上で、別府合宿にはシンガポール・パースに向けた16人を招集しました。ここからバックアップ2人を含めた15人でシンガポールへ出発します。ドバイとケープタウンのときはギリギリの人数で行ったところ、負傷者が出て追加招集が必要になったので、今回は多めの人数で向かうことにしました。2大会でメンバーを入れ替えて15人全員に出てもらいます」

サバナ・ボッドマン

サバナ・ボッドマン


――個別の選手になりますが、サバナ・ボッドマン選手は徳島・別府とも不参加、堤ほの花選手は別府に不参加。これらの選手はスコッドを外れたわけでは…。

「外れてはいません。第3期のスコッドには入っていますが、この合宿にはベストのコンディションで参加できないということで呼ばなかった。時間が必要な選手は合宿に参加せず、自分でコンディションを上げてもらおうという方針です。メンバー選考には難しい面がありますが、セレクションにあたっては選手と選手を比較して『どっちを選ぶか?』と考えるのではなく『その選手が100%の力を出せる状態か?』という視点で選ぶようにしています。大会出場が続けばケガも出る。治療も必要だし回復には時間がかかる。そういうとき、回復途上の選手に無理してもらうより、100%でチャレンジできる選手を連れて行こうという考え方です」

谷山三菜子

谷山三菜子


――たとえば谷山三菜子選手は9月はトレーニングメンバーという位置づけで、12月のツアースコッドからも漏れましたが、今回は遠征メンバーに入りました。

「11月の沖縄合宿までの段階では、彼女本来の、縦横無尽に走り回る体力レベルが見られなかったので、自分で調整してもらうことにしました。彼女に限らず、チームで太陽生命シリーズ、15人制の関東大会があったし、個々で立場も違う。そちらを優先してもらって、コンディションが戻ったらまた参加してもらえばいい。谷山選手は12月の熊谷合宿では見違えるようなパフォーマンスを見せてくれたので、今回またメンバーに入れました」

――12月から1月にかけては15人制の関東・関西大会、全国大会に出ていた選手もいて、セブンズに向けたコンディション調整の難しい選手も多そうです。

「私たちは所属チームから選手をお預かりする立場なので、こちらの方針を押しつけることはできない。選手には各チームでおかれた立場でラグビーに取り組んでもらっています。15人制に出ていた選手はプレータイムが多かったり、小さな負傷を抱えたりしている。そこは集合日にトレーナーにチェックしてもらって、練習の強度も調整したり、慎重にやっています。選手がチームと代表との間で板挟みになるのが最も避けたいところなので、そこは気にせずチームを優先してもらう。その結果、ベストな状態でないときはコンディショニングに専念してもらう。その分、徳島ではトレーニングメンバーとして参加してもらった藤森晶選手、黒田美織選手、尾久土栞選手がいいパフォーマンスをみせてくれて、充実した合宿ができました。別府合宿に追加招集で来てもらった尾久土選手は、遠征メンバーに欠員が出たらいつでも呼べるだけのパフォーマンスを見せてくれました」

尾久土栞

尾久土栞

今回は『分身』をテーマに。

――続いて、シンガポール大会とパース大会でのテーマについて聞かせてください。

「今回は『分身』をテーマに掲げました。これまで『忍者』をテーマにして大会に臨んできましたが、試合をレビューしていて『これって“分身の術”みたいだな』と思うような場面があったんです。相手から見たら、日本の選手は一度消えて、瞬間移動しているように見えるんじゃないか。それは私が想定していたというよりも、選手たちがドバイ、ケープタウンの大会でチャレンジした結果です。


それを、より意図的に作ることはできないか。今までやってきたことを踏まえた上で『ここをこうしてみたらどうなるかな?』『やってみようか』と話し合って、チャレンジしています。うまくいくかどうかは分からないけれど、失敗してもいいからやってみよう。『こういう状況になったらこうしたほうがいいよね』ということがひとつひとつクリアになって、合宿の中でも創意・連動ができてきた。それをシンガポール、パースで体現できれば、次につながるものが見つかるんじゃないかと考えてチャレンジしています」

――新しい戦術にチャレンジするにあたって、選手に考えさせるようにしている姿勢を強く感じます。

「オーケストラでいえば私は指揮者のようなもので、実際に演奏するのは選手です。私の指示を待って動いていたら遅れてしまう。それよりも周りの選手の声を聞く方がいい。私が外から見ていて考えたものと、実際にピッチにいる選手の判断が違うことはあるけれど、そういうときは選手の判断が正しいんです。勝敗はHCである私の責任だけど、個々の局面での判断は選手自身が決めて良い」

「相手チームのスカウティングにしても、選手にグループ分けしてやってもらっています。見ていて『ここはブレているかな』と思ったときは『見方がこんなふうになってない?』とヒントを出すけれど『こうだ』と言い切ることはしません。『こういう傾向がある』という予備知識は必要だけど、相手が同じことをしてくるとは限らない。私が分析して戦術を決めて与えていたら、相手が違うことをしてきたときに対応できない。でも自分たちでその可能性を想定して考えていれば対応できます。私ひとりの脳味噌よりも選手20人の脳味噌をあわせたほうが、優れたアイデアも出てくるはずですから」

オーストラリア、ニュージーランドのどちらかに勝たなければ、1位、2位になれない…

――今季の大学選手権に優勝した明大でも、神鳥監督は選手にミーティングを任せて考えさせたことが良かったと言っていました。通じるところだと思います。今回のシリーズに向けたテーマは『ブレイクスルー:世界2強に勝つ』と掲げましたね。

「ドバイ大会で3位は達成したので、次に目指すのは当然2位以上になるわけですが、世界2強のオーストラリア、ニュージーランドには、私たちは一度も勝ったことがない。このどちらかに勝たなければ、1位、2位にはなれないんです。今回でいえば、プール戦でオーストラリアと当たるので、そこで勝つことを目指します。そのために、前回はどうなってオーストラリアに負けたのか、そうならないためにはどうしたらいいかをチームみんなで突き詰めて考えているところです。

その中で『分身』というテーマをどう使うかも考えてきたし、そのために練習のすべての時間を使っています。S&Cコーチの坂田さんにも、分身の動き、忍者の動きにつながる要素を含んだメニューを組んでもらっています。今大会ではとにかくオーストラリアに勝ちたい。プール戦でオーストラリアに勝って、それ以外は勝てなくて8位になったとしても、オーストラリアに勝ったという歴史的な事実は残る。それが自信につながるのですから」

――2028年LA五輪での金メダルを目標に掲げている以上、それまでに一度でも世界2強に勝っておく必要がある。

「私自身、リオのときも金メダルを目標に掲げていて、信じてはいたけれど、それを支える根拠はなかった。それまで4強にも入ったことはなかったし(上位は)一度も勝ったことのない相手ばかり。何分の一という低い確率の勝利を重ねていかないと到達できない目標でした。そうではなく、勝ったという自信をチームみんなで積み重ねていくことで、五輪の舞台に臨みたい。シリーズのひとつひとつの大会がそのためのチャレンジになるのです」

――その意味で、コアチームに入って、毎大会必ず世界2強のどちらかと対戦できるのは大きいですね。

「本当に大きいです。それだけでなく、コアチームはどこも強くて、楽に勝てる試合なんてひとつもない。どの試合もドキドキしながら戦っていますが、そういう経験を年間9大会にわたって重ねることができる。ありがたいです。だからこそ、各大会には必ず100%の力を出せる選手を連れて行かないといけない。そうじゃないとケガをしてしまう。誰かを主力と位置付けたり、特別な存在にするのではなく、サクラセブンズとして強い相手と対戦し続けて、経験値と自信を高めていきたい」

――そのチャレンジで『分身の術』がどのように発揮されるか、シンガポールとパースの大会がますます楽しみになりました。

「たとえばキックオフひとつ、アタック、ディフェンス、それぞれどのときでも『こうなれば分身と言えるよね』という動きを探して、自分たちの強み、可能性を探りながら練習をして、自分たちの映像を見なおしています。7対7のアタック&ディフェンスでも、私の想像を超えるプレーがいろいろ生まれています」

――戦術を選手の判断に任せる、選択肢も限定しない。一般的にコーチは再現性を好むものですが、兼松さんの考え方は貴重だと思います。

「大事なのは2人目の連動、(ボールキャリアーを)1人にさせないことだと思っています。ラグビーの根幹は『サポートの人がどうするか』。ラグビースクールで、ラグビーを始めたばかりの子供に最初に教える『お友達を助けにいこう』ということと同じだと思う。それが年齢を重ねるにつれて自由度を失っていきがちだけど、そこをサクラセブンズでは大事にしたい。そこがラグビーの一番面白いところだと思うんです」

――ありがとうございます。シンガポールとパースの大会がますます楽しみになりました。『忍者ラグビー』『分身の術』の体現と、世界2強を破るブレイクスルーの実現を期待しております!

大友信彦
(おおとものぶひこ)

1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。ラグビーマガジンなどにも執筆。

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