大分県別府市で合宿中の女子15人制日本代表候補が11日、オンライン会見を行い、SH阿部恵(アルカス熊谷)、WTB安尾琴乃(ブレイブルーヴ)、LO櫻井綾乃(横河武蔵野アルテミ・スターズ)の3人がチームと自身の現状と抱負を語った。
阿部恵(あべ・めぐみ)
愛媛県松山市生まれの阿部は、10歳のとき北条少年RSでラグビーを始め、石見智翠館高では主将として全国高校選抜女子セブンズに優勝。立正大へ進学後はアルカス熊谷でプレーし、大学3年の2019年7月、オーストラリア戦で初キャップを獲得した。2022年ワールドカップでは3試合すべてに先発。現在はキャップ29。

阿部恵
「今は(スペインとの)テストマッチのこともあるけれど、それ以上にワールドカップを見ていて、相手がどうしてくるかよりも自分たちの力を伸ばすことにフォーカスしています。ディフェンスでは前に出ること、アタックではスペースにうまくボールを運ぶことを意識しています」
「前回のワールドカップは、出ることが目標になっていて、結果を出すことができなかった。今回は結果にこだわって、自分が大会に出るだけでなくチームが勝つことを考えています」
サクラXVのSHには、1学年下の津久井萌が高2の2016年に日本代表にデビュー。17年ワールドカップ直前の香港戦からは、若手を抜擢した今年5月のアジア・エミレーツ・チャンピオンシップで妹尾安南(東京山九フェニックス)が先発するまで足かけ8年間、42テストマッチにわたって、津久井と阿部の2人で背番号9を担ってきた(津久井27、阿部15)。
「練習中はバチバチやりあってると思いますけど、合宿の練習では一緒にパスの練習をしたりして、お互いに高めあっていると思います。私が彼女から学んでいるのはディフェンスの部分と、アタックについてはキックと、パスの判断の部分です」
パス、キック、ディフェンスとSHに求められる能力をオールラウンドにこなす津久井に対し、阿部の武器はアタック。とりわけ、PKのクイックスタートはゲームを動かす武器としてサクラXVのチャンスを何度も切り開いてきた。あの仕掛けは誰かに教わったのだろうか?
「誰かに教わったと思うんですが、はっきりとは覚えていません(笑)。ただ、自分が疲れているときは、周りの人はもっと疲れているんだ、ということは教わった記憶があって、自分が多少疲れていても思い切って仕掛けることを意識しています」
安尾琴乃(やすお・ことの)

安尾琴乃
安尾は東京都昭島市出身。小2のとき昭島RSでラグビーを始め、中3のとき東京都中学選抜で全国中学生大会優勝。石神井高時代はブレイブルーヴでプレーし、東洋大3年の2022年5月、オーストラリア戦で初キャップ。初招集時はSO、初キャップは交代SHで、初先発となった23年のカザフスタン戦はWTBとユーティリティーな能力を発揮している。
「今はWTBがメインで、機会があればSHもやっています。自分ではステップも強みにしていて、SOやほかのBKがいないときに声を出して支持する役目を徹することも強みだと思っています」
自ら「強み」と話すステップは「もともと得意だったのですが、高校時代、ブレイブルーヴの奈良秀明監督に細かい技術を教えていただきました」という。
もうひとつ、自身が習得に励んでいるのは「キックと、外でボールをもらったときの1対1。少しでもゲインすることにチャレンジしていきたい」と話す。
エース格の松田凜日とは同学年で、東京都中学選抜やブレイブルーヴのユースチームで一緒にプレーした仲だ。
「凜日はずっとすごい選手で、今も追いかけている存在です。前回のワールドカップのあとセブンズに行って、久々に15人制に戻ってきたら、以前よりもさらに緩急のつけかたがすごくなっていた。スピードに乗るとすごいのはもちろんですが、落としたところから突然スピードを上げてくる。スピードの上げ方が、以前よりもさらに鋭くなった感じです。ディフェンスが難しい」
とはいえ、ライバルの進化を黙ってみているわけにはいかない。
「私自身は膝の怪我があったので、今はステップを切るときもケガをしないように意識しています。その分、今はWTBの位置からキックを使っていけるように取り組んでいます」
レスリーHCは安尾や今釘小町、松村美咲らキックの得意な選手をWTBに起用する傾向がある。ステップに加えてキックという武器に磨きをかけ、前回はバックアップに終わったワールドカップでのメンバー入りサバイバルを目指す。
櫻井綾乃(横河武蔵野アルテミ・スターズ)

櫻井綾乃
群馬県生まれ。女子レフリーの草分けで今も活躍する母・美江さんのもと、3歳の時高崎ラグビークラブでラグビーを始め、高崎女子高時代にはセブンズで日本選抜も経験。日体大1年の2015年、アジア選手権の香港戦でサクラXVにデビュー。大学3年のとき2017年のワールドカップには全試合に先発フル出場し、サクラXVFWの柱として期待されたが、そこからは怪我との戦いが続いた。
「2021年11月のスコットランド戦で左ひざの前十字靭帯を断裂して、そこから復帰して4試合目、2023年9月のフィジー戦で右の前十字靭帯を断裂しました。ラグビーを諦めようかなと思うときもあったけど、外からラグビーを見ている間に、自分の中でラグビーをやる意味がより明確に見えてきて、芯ができた。それまでは自分が楽しいからラグビーをやるという気持ちだったけど、怪我をしてからは、自分を支えてくれる人たちに自分のプレーしている姿を見せたい、桜のジャージーを着ている姿を見せることで恩返しをしたいという気持ちが強くなりました。今回のワールドカップは私のキャリアの節目の大会になると思う。この場所に戻ってこられてうれしいです」
2015年の代表デビューから10年。サクラXVの環境も大きく変わったことを体感している。
「この10年で、特にチームの仲間と一緒に過ごす時間が変わりました。合宿の日数が増えて、チーム力、団結力が以前よりも進化している。セットプレーを合わせる時間も多くなっているので、お互いの強みと弱みを分かり合って、チームの進化につながっていると思います」
プレーの持ち味はロックらしいハードワーク。
「もともと地道なプレーが得意な方だったのですが、怪我やリハビリの経験を通じて忍耐力、心の強さが身についたと思います。『自分はなぜラグビーをするのか』という芯の部分が強くなった分、練習が苦しいときや試合で苦しい状況になったとき、自分を立て直せるようになったと思います。これからの試合でも苦しい場面はあると思うけれど、そういうときに声をかけたり、自分のプレーの小さなひとつひとつの仕事でチームに貢献できるようにしていきたい。チームのトレーニングがハードになって、みんなが苦しくなった時でも『もう一本!』『集中!』と声をかけられるよう、グラウンド以外でも多くの選手とコミュニケーションをとれるよう声掛けをしています」
2022年のワールドカップはリハビリ中で代表を逃した。キャリアの集大成をかけて、8年ぶりの大舞台を目指す。
![]() (おおとものぶひこ) 1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。 プロフィールページへ |