女子ラグビーが新しいステージに足を踏み入れた。2012年は、そんな節目の年として記憶されることになりそうだ。エポックは、8月31日にマレーシアのコタキナバルで開幕した「アジア・パシフィック女子セブンズ」。その初戦で日本代表は、2009年ワールドカップセブンズの女子初代チャンピオンに輝いたオーストラリアを相手に14対10で会心の勝利を挙げたのだ。
相手が若手主体だったとはいえ、勝利の価値が揺らぐことはない。同じような状況は、これまでも何度もあったが、日本のラグビー界は「世界王者」に勝ったことはなかったのだから。
勝利は、理由なく訪れない。
ひとつの要因は、人材の充実だ。
現在の女子ジャパンには、2つの大きな柱がある。ひとつは、ユース強化選手として日本女子ラグビー連盟と日本ラグビー協会が、強化資本を注ぎ込んで育成してきた選手たち。女子ラグビーを長くリードしてきた鈴木彩香(23・立正大大学院)、山口真理恵(22・ラガール7)から、18歳の誕生日を迎えた途端にシニア代表入りした鈴木陽子(19・立正大1年)、大黒田裕芽(18・市立船橋高3年)まで、バラエティ豊かな才能が並ぶ。小学生時代から、中には幼稚園・保育園時代から培ったラグビーのセンス、知識、モチベーションは、女子ラグビーという競技人口が決して多くない種目にあって、大きな武器となっている。
特に、彼女たちの武器となっているのは「男子とともにプレーしてきた」経験だ。一般的に、女子のアスリート(特に格闘技系では男子でも)で一流と呼ばれる選手には、かなり高い確率で「兄」が存在する。レスリングの吉田沙保里や伊調姉妹、柔道の谷亮子や松本薫しかり。自分よりも大きく、強い相手と取っ組み合いのケンカをしたり、力比べをしたり(あるいはもっとタフな種類も含め)という経験が、闘争心とフィジカルな強さを養うというわけだ。各地のラグビースクールでは、女子選手も小学校、中学校では男子と一緒にプレーする。デカくて強い男子を相手にコンタクトプレーを繰り返すのだから、兄弟ゲンカをしているようなもの。必然的にコンタクトスキルや闘争心は鍛えられる(この法則で言えば、家に兄がいればますます強くなる。現在の女子ジャパンでも、ティーンで名を連ねる鈴木陽子、大黒田裕芽はじめこれに当てはまる選手は多い)。もっとも、とても優しく大人しい兄もいるだろうし、すべてに当てはまるわけではないが。