横浜イーグルスの元日本代表SO田村優が、16日の埼玉ワイルドナイツ戦でリーグ戦通算150試合出場を達成した。
田村は国学院栃木から明大を経て2011年にトップリーグ時代のNEC(現・東葛)に入団。17年にキヤノン(現・横浜)に移籍し、司令塔のSOとして活躍してきた。
トップリーグ時代の出場数は99。リーグワンになってからは、昨季までの3シーズンで43試合に出場し、昨季までの通算出場数は142。
今季は開幕から8試合続けて先発SOで出場してきたが、節目の150キャップとなるこの日のワイルドナイツ戦では、背番号10を後輩の武藤ゆらぎに譲り、今季初のベンチスタート。
前半、イーグルスは今季初先発のCTB田畑、新加入で初出場となったFBオーウェンの奮闘、さらに相手の2度にわたるイエローカードもあり、一時は24-22とリードを奪ったが、前半のラストプレーで逆転され24-25で折り返すと、後半4分にはライリーに独走トライを奪われ24-32と8点差をつけられた。田村がピッチに入ったのはその直後。
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後半4分、これが通算150試合目となる田村優が登場(背中22)
48分、イーグルスは相手アタックの落球から切り返し、こちらも今季初先発のWTB松井千士がインゴール右中間にトライ。田村が難しいコンバージョンを決め、31-32と1点差に迫るが、そこから滑川TMOがビデオ確認を要求。ワイルドナイツの落球の際、イーグルスNo8マフィがノーボールタックルしていたことが確認され、トライはキャンセルに。
これで流れが変わり、53分、59分とワイルドナイツが連続トライ。24-44の20点差までリードを広げられたイーグルスだったが、最後まで諦めず、ラスト10分にWTBタカヤワ、FBオーウェンがトライ。試合には36-51で敗れたが、メンバーを大きく替えた中での戦いぶりには今後への期待感も印象づけた。
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横浜も果敢なアタックをみせ71分、78分とトライを返す。コンバージョンを蹴る田村
試合後、この試合で150試合出場を達成した田村優を囲み、両チームのメンバー全員で記念撮影。ミックスゾーンで田村が取材に応じた。
「個人的にどうこうという思いは全くないです」
150試合出場の感想を問われ、田村はあっさりと言った。
「キヤノンに来て、(2022年に)100キャップになって、そこからまた50試合に出たと言うことなので、50週準備して試合をしたんだな。使ってくれたコーチ、体をケアしてくれたメディカルスタッフ、キッチリ準備をしてくれたチームメートに感謝します。うまくいったシーズンも、うまくいかなかったシーズンもあったけど、コンスタントに試合に出場してきたから達成できた数字だと思う」
会見では沢木監督が「200のときは忖度して、どんな状態でも田村を先発で使います」と話していましたよ…そう聞かされると
「200ですか……やりますか!」
と笑顔で言った。
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記念ジャージーを贈呈した沢木監督「200キャップのときは忖度して先発させます」
田村はこの日はベンチスタートだったが、その狙いは理解していた。
「今日はフレッシュな選手をいっぱい使って、(武藤)ゆらぎ、ブレンダン(オーウェン)、(松井)千士……前半は勢いがあったけど、それだけじゃどうにもならないところもあった。ここからはどれだけ手を抜くというか、6-7割の力で余力を残しながら戦って、仕留めるときだけ100%の力を出すような戦い方が必要。ワイルドナイツはそれを見せていた。こっちは、後半になって僕が入ったときにはみんなバテバテだった。でも、そこから攻めようと決めたらすごく良いアタックができたし、それを前半から出していけばいい。すぐに教えられるじゃないけれど、来週からプレーオフに向けて、僕が見せていけばいいかな」
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前半15分、今季初先発のWTB松井千士がトライ
特に、自ら後継者に指名している武藤ゆらぎには大きな期待を寄せていて、それだけに要求レベルも高い。
「ゆらぎとはこの試合に向けて1週間、ずっと一緒に準備しました。本人はそつなくこなした感じだったけど、僕は大爆発するのを楽しみに見ていたから、まだまだ満足できないですね。こんなところで緊張していたら、65000人の前じゃプレーできないでしょう。ゆらぎには何万人の前でプレーするだけのポテンシャルがある。たかだか国内の試合なんだし、ミスを怖れないで思い切ったプレーをしなきゃ。僕は1年目から緊張なんて全然しなくて『もっとボールよこせ』と言ってましたよ」
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SO武藤ゆらぎ
普段の練習から
「毎日一緒に練習していて、彼は毎日、差を感じていると思います。一番は基本プレー。早くセットすること、早くパスすること。本人もそこが足りないことは認識しているんですが、そこは僕がすごく大事にしているところですからね。僕自身も、今は10回中9回できているのを10回にすることを目指しているし、そこが大事だよ、と伝えています」
試合後にはノンメンバーも含めたチーム全員で、さらに対戦相手のワイルドナイツのメンバーも交えてみんなで記念撮影をした。ワイルドナイツの坂手主将は田村の隣に並んで座った。坂手は苦笑して振り返った。
「おめでとうございますと言いに行ったら『ここに座れ』と言われて、座らせて頂きますと言って座りました。『TMO多かったねえ』とか、優さんは『150試合出ていても、こんなにTMOが多かった試合はなかなかないよ…』と言ってましたね」
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試合後は両チーム選手が集まり田村の150試合出場を祝う記念撮影
最後にセレモニーの感想を問われると、これも田村らしい言葉が返ってきた。
「僕よりもファンの方々が喜んでいるのが嬉しかったですね。でもあと何ヶ月か先には、もっと喜んでもらえる試合が来ると思いますから」
見据えるのはもちろんプレーオフだ。過去2シーズン進んだプレーオフはともに準決勝で敗れている。
「僕はプレーオフを見てます。何位で通過しても、そこからは一発勝負ですからね…もういいですか?」
田村はいつものように、自ら取材を切り上げようとした、だがその表情は、いつになく上機嫌に見えた。ほどけるタイミングで「今はプレーしてて楽しい?」と聞いた。帰ってきた答えは
「楽しいです!」だった。
沢木監督と自身が口を揃えた次のターゲットは「200」。田村は「いつまで、ということは何も考えていません」とも言った。
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150試合出場の記念Tシャツを着た田村とデクラーク
リーグワンの今のフォーマットだと年間最大20試合。今季は残り最大12試合だから、最速なら2年後のシーズン終盤には、38歳で「200」に到達することになる。
僕たちは、その日まで、楽しんでいる田村優の姿を楽しめそうだ。
![]() (おおとものぶひこ) 1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。 プロフィールページへ |