サクラセブンズ、ワールドカップセブンズ帰国会見レポート「ベスト8の壁、それは超えられない壁ではないことを感じた」 | ラグビージャパン365

サクラセブンズ、ワールドカップセブンズ帰国会見レポート「ベスト8の壁、それは超えられない壁ではないことを感じた」

2022/09/15

文●大友信彦


9月14日、女子セブンズ日本代表が南アフリカで開催されたワールドカップセブンズを終え帰国。オンラインで会見した。大会を9位で終えたサクラセブンズ。「ベスト8の壁」は高いことも痛感しつつ、それは超えられない壁ではないことも感じた。アジアシリーズ、ワールドシリーズ、そして2024年のパリ五輪へ向け、8強入りを目指す挑戦が再びはじまろうとしている。

オンライン会見は鈴木貴士HCのコメントで始まった。


「チャレンジャーシリーズからワールドカップに向けて短い日数の中で、コンディションの部分や、体と心の切り替えの部分が非常に難しかったと思います。ベスト8を目標に最初のフィジー戦では入りを意識して準備してきましたけども、現段階では、ちょっとベスト8の壁は少し高かったかなっていう部分は感じてます。

すべてをかけて挑んだフィジー戦、完敗だった

すべてをかけて挑んだフィジー戦、完敗だった



ただ、全く手の届かないところにあるわけではなくて、本当に目の前にベスト8があるということをこの大会を通じて感じました。

初戦、フィジーに負けた後に、選手たちが気持ちを切らさずに最後までしっかりと戦い抜いてくれたことを本当に誇りに思いますし、嬉しく思います。今回のこの結果を受けて、次の10月から、アジアシリーズとワールドシーズン向けてまたしっかりと準備をしていきたいと思います」

続いて平野優芽キャプテン


「今回のワールドカップはベスト8を目標にやってきましたが、そこの目標は達成することができずに、そこはすごく選手全員悔しい気持ちはあるんですけれども、その後、9位という結果を残すことができて、チャレンジャーシリーズに続き、勝って終われたことはすごく良かったと思ってます。

平野優芽(フィジー戦)

平野優芽(フィジー戦)



ベスト8というのはまだ私達にとっては少し高い壁かもしれないですが、またこれからワールドシリーズに参加するチャンスも自分たちで獲得できましたし、ワールドシリーズでまたベスト8という大きな壁を乗り越えられるようにみんなで頑張っていきたいなと思っています」

今大会で印象的な活躍を見せたのが34歳のベテラン、プレイングコーチの中村知春だ。ブラジル戦では自陣からのビッグゲインからオフロードパスで平野優芽の逆転トライをアシスト。決勝のポーランド戦ではラインアウトで相手ボールをスチールして原わか花のトライをセットアップ。ワークレートの高さに加え躍動感のあるパフォーマンスが印象的だった。

中村知春

中村知春



「自分的には普段と変わらず一定の感じで、特に好調だったというわけではなかったですけども、しいて言えば。大きな大会が続いたこともあって、言葉だけじゃないコミュニケーションの部分で、例えば、選手がどうやって動くか、こういう場合にどこにパスをくれるかとか選手同士の言葉以外のコミュニケーションの部分がしっくりきたというのが要因かなと思っています。

決勝は、チャレンジャーシリーズでもあたったポーランド相手だったのもあって、セットプレーの部分は桑水流(裕策)コーチや選手も一緒になってスカウティングしていたので、ポーランドの攻め手が読めていたのは大きかったと思います。(リフトで)上げてくれた大竹(風美子)だったり、三枝(千晃)だったりフィジカルのある選手たちが、これくらいなら取れるなという自信をつけてくれたので、そういったところが良かったのかなと思います。

桑水流さんは、今まであまり時間をかけてこなかった実戦的なラインアウトのアタックディフェンスに時間をかけてくださったので。3対3での取り合い、奪い合いといった駆け引きの部分を練習する時間が増えました」

ブラジル戦のビッグゲインについて尋ねると、中村は笑った。

「あれは偶然、目の前が空いたので。私は全力で走っていたつもりですが『早歩きしてた?』と言われました(笑)。平野がきてくれたのを見て、捕まっても大丈夫だなと思いました」

ゲインした中村をしっかりと追走する平野

ゲインした中村をしっかりと追走する平野



現在のチーム状態を、ベテランはどう感じているか?


「今回、今までと違って、「勝ち方の質」がよくなったような気はしています。厳しい時間帯を耐えて勝てるようになった、とか、自分たちの武器になるものが少し見えた勝ち方だったので、そういったところが今までとはまた違った進歩かなと思っています。

あとは、全体的にスピード感っていうのが上がってきていると思いますし、ブレイクされても間に合っているシーンが増えたし、アタックでは独走でトライできるシーンも増えた」

メンタルの切り替えも見事だった。平野優芽主将に、フィジー戦の後、どういう気持の切り替えをしたのかを聞く。

大谷芽生(南ア戦)

大谷芽生(南ア戦)



「フィジー戦に負けた後は、みんなそこにかけていた気持ちがあったので、全く手が届かなった悔しさや、目標にしてたところがおわってしまって気持ちの切り替えは確かに厳しかったですが、もう今の自分たちのベストなんだと、とりあえす仕方ないという切り替えはみんなできていた。ビデオを見返すともっとこうしたらよかったという部分はもちろんありましたが。負けた後も試合が続きますし、この後にどういう結果を残すか、どういう試合をするかというのが大事だったので、みんな気持ちを切り替えて次の試合に挑んでくれました」

フィジー戦では相手のアタックを止めることができなかった

フィジー戦では相手のアタックを止めることができなかった


「ホームの南アフリカだったり、ワールドシリーズを戦っている格上のブラジル、一度勝っているポーランドと、それぞれ勝つのが難しい状況の相手にしっかり勝ち切れたというのはチームの成長だとすごく感じています。前に出るディフェンス、個々の強みを活かして裏にでて、そこからサポートが湧き上がってトライまで持っていくアタックを今大会でも出せたことはすごく自信になりました。これから8強に入るためには、そこの部分をもっと精度をあげて、1on1のタックルだったり、フィジー戦でもありましたが、(相手に)ボールを繋がれない。格上の相手に自分たちがやりたいラグビーがどれだけ精度高くやれるかというのが大事になってくると思っています」

大黒田裕芽

大黒田裕芽


鈴木貴士HCにも「8強の壁」という言葉の真意を聞く。


「平野も言っていましたが、今までやってきた前に出るディフェンス。そこからボールを奪い取る。あとは、1on1で裏に出るという部分が、ベスト8の相手に対してまだできなかった。現段階ではプレッシャーの中でももう少し精度をあげていく必要があるかなと思います」

原わか花(ポーランド戦)

原わか花(ポーランド戦)


一方で、以前のサクラセブンズには見られなかった、長い距離を走りきるようなトライも今回は見られた。それはどんな練習で培われたのか。


「普段の練習から7対7のシチュエーションの中で、抜けた後にわざと止めたりして、あえて全員がサポートするというのを何回か繰り返しやってきた部分が、無意識のうちに誰かが抜けた後に、常にサポートするということが選手に身についてサポートの寄りにつながったと思います。あとは抜かれた後に、全員が戻るという意識の部分もやってきた部分が少しずつ選手たちに染み込んできて実際に試合に出たかなと感じました」

ブラジル戦で決めた中村知春のトライ

ブラジル戦で決めた中村知春のトライ

同じ質問に、トライを量産した原わか花は答えた。


「練習では、7対7で抜けてトライして終わりじゃなく、抜けたあとで笛がなって全員がサポートする、7人が常に走り続けてアタックもディフェンスもするという習慣がみんな染み付いていると思います。それによって、私がブレイクした後も、周りに仲間がいるということの安心感の中で走ることができますし、誰かが抜けた後に1人、2人、と湧き上がってボールを貰うことで、みんなでスピードを持ったアタックができるようになったと感じます」

原わか花はトライを量産

原わか花はトライを量産



「練習の質」について、中村は面白い言い方をした。


「物理的に、7対7の実戦形式練習の比率がすごく上がったなと思っています。練習では序盤はいろんなドリルをやるのですが、感覚的には7対7の練習が7割、ドリルが3割。実戦的な中で、ドリルで身につけたスキルの修正ができるというところが今までとちょっと違うかなと思っています。チーム7対7ありきで、個々のレベルを捉えるという形になってるかな。今までは個々のレベルがありきで7対7をやっていたのが、今は7対7の中で個々の精度をどこまで出せるかという考え方になったのが、大きな違いかなと思います」

ポーランド戦のラインアウトスチールに象徴されるように、セットプレーの充実も光った。


「今までは『ここ』という場面でラインアウトを選択しても、何か1つミスが起きて噛み合わないとか、ここまで高さが上がらないとか、滑ってこけた、とか判断が悪かったとか、小さなズレで失敗することが多かった。そういった単純なミスとかエラーは減ってきたと思います。ここぞというFWでの集中力が上がってというのが大きい。練習の中でも初歩的なミス、コミュニケーションミスがあると、桑水流コーチからご指摘頂いていました

大竹風美子

大竹風美子

リフター役の多かった大竹風美子も「学び」を強調した。


「練習の中で、セットプレーに割く時間はすごく多くなったと思います時間をかけてきたから、ディフェンスもそうですが、セットプレーも自信を持って、自分たちの強みと思って試合に臨めた。桑水流さんは等身大というか、自分たちと同じ目線で接してくれるので、分からないことがあったら何でも聞ける。そこは知春さんがプレイングコーチに入っていたことも大きかった。ラインアウトディフェンスの練習でも、ここでは3枚で張るか、2-1と分けるか……といったことを、シチュエーション別にどう考えるか、密になって話すことができました」

桑水流コーチの存在には鈴木HCも感謝していた。


「セットプレーの安定はもちろん、選手の安心感もあると思います。実際に合宿に来られる日数は限られているんですけども、今回でも中村と連絡を取りながら、セットプレーのレビュー・プレビューをしてもらっているので、チームとしては助かっています」


桑水流裕策スポットコーチを迎えて空中戦の練習

桑水流裕策スポットコーチを迎えて空中戦の練習

安定したボール供給がアタックを支える。トライを量産したのが「新幹線」原わか花だ。

「鈴木HCからはいつも、ハンドオフとかではなく触られずに抜け、自分のスピードが活きる位置でモールをもらえといわれていて、意識しています。フィジカルは自分の課題なので強化してきましたが、フィジカルで真っ向勝負するのではなく、スピードを武器に、今自分が持っているフィジカルの中でどう世界と戦っていくのか、改善していけたかなと思います」

「体重とかスピード感も、以前からそう大きくは変わっていないですが、チームとして戦えているのがいいと思う。私は今もタックルが苦手で、弾き飛ばされることも多いですけど、足りない部分を仲間が助けてくれている。CTBの大谷芽生だったり、SOの(須田)倫代だったり、優芽だったり、内側から来てくれる選手が必ずいるので、信頼して、自分は足の速い選手のコースだけ抑えればいいよと専念させてもらっています。あとは、もし倒されてもすぐ起き上がって次のタックルに行くワークレートも意識しています」

原わか花

原わか花


メンタルの安定感も光った。従来のサクラセブンズは、ターゲットとしていた試合に敗れると、チームを建て直すのに時間がかかることが多かった。しかし今回のサクラセブンズは、初戦のフィジー戦に敗れ、8強の目標が消えた次の試合で、地元の大声援を受けた南アフリカを2点差の接戦で下す素晴らしい切り替えをみせた――ここは元祖・ポジティブリーダーの大竹風美子に振り返ってもらおう。


「優芽も言ってくれたように、もっているものを出して、それが通用しなかったんで次に向けてという気持ちの切り替えは結構すぐできたんじゃないかなと思っています。ありがたいことに初日はフィジー戦1試合だけだったので、その日の夜にみんなで集まって、レビューをして、翌日の南ア戦に向けて密になって、気持ちをひとつにして、切り替えていました。落ち込んだというより、「次、次」という感じにみんななっていたと思います。

優芽が率先してチームを引っ張ってくれることもあって、今のチームは全員が『チームのために』という気持ちが強い。大会が始まる前には、ホテルでみんなで集まって映画『インビクタス』を見て士気を高めたり、チームランチをしたり、ワンチームになれていたと思う」

チームからの信頼も厚い平野優芽

チームからの信頼も厚い平野優芽


平野優芽のキャプテンシーを、同年齢の原わか花はこう表現した。


「本当に同じ年とは思えないほどの落ち着きと、ラグビーの知識量とで、チームの全員から信頼を得ていると思います。以前、一緒に男子の大学の試合を見に行ったことがあるのですが、私は『あの選手速い!強い!』とか言っているのに、優芽は『外にスペースがあった』『ああ動けばトライを取れた』とか、すごく考えて試合を見ていたことに驚きましたし、すごいと思った。同期に目標となる選手というか尊敬できる選手がいるのは自分にとってもプラスになっている。キャプテンを支えられるようにいきたい」

そんなチームの土壌のもとで、18歳の水谷咲良や19歳の須田倫代ら、若い選手がのびのびとプレーした。須田が振り返る。


「私は結構緊張するタイプなんですが、チャレンジャーシリーズは全く緊張せず、試合一つ一つに集中して取り組めました。でもワールドカップでは、最初のフィジー戦で入場したときの会場の広さとか、初めて見るスタジアムの観客の多さとかに圧倒されてしまって、これが世界の舞台やな、ということを身にしみて感じました。次の試合からは楽しもうということを意識して、自分のプレーが出せるようになった。今後世界の舞台で戦っていくにあたりいい経験になったなと感じます。

初めての世界大会に出場したことでさらにパリ五輪への思いを強くさせた須田倫代

初めての世界大会に出場したことでさらにパリ五輪への思いを強くさせた須田倫代


東京オリンピックの時は、まだ合宿とかも参加してなくて、テレビの画面越しで応援するという形だったんですけど、そのときにオリンピックに出たいっていう気持ちが強くなった。今回ワールドカップを通じて世界の舞台を経験して、もっと強いチームと戦ってみたい、ワールドカップとはまた違う、オリンピックという舞台で戦ってみたいという気持ちがより強まりました」

世界の舞台で発揮した力は、国内の大会で培われたものでもあった。

太陽生命ウィメンズセブンズシリーズでは追手門学院VENUSで出場した須田。学生チームとして格上のクラブチームとの戦いの経験が今大会にも生きたと話す。

太陽生命ウィメンズセブンズシリーズでは追手門学院VENUSで出場した須田。学生チームとして格上のクラブチームとの戦いの経験が今大会にも生きたと話す。



「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズも良い経験になっていたと思います。私のいる追手門学院は人数が少ないし、太陽生命の6試合に常にフル出場して、タフに戦わないといけない。チャレンジャーシリーズでもワールドカップでも3日間でたくさんの試合をしないといけないけど、太陽生命での経験が生きたと思います。それに、太陽生命では私たちは学生チームで、外国人選手もいる格上のチームと対戦しないといけない。簡単には勝てない試合ばかりですが、そういう経験を積んできたことは、今回初めて世界のトップ国と戦うにあたり、生きたと思います」

次のターゲットは2024年のパリ五輪。その前年となる来年2023年は、ワールドシリーズに加えて五輪予選も行われるはずだ。


平野主将は言った。


「2024年のパリオリンピックでメダルを獲得するためには今シーズンのワールドシリーズで8強に入ったり、強い相手と戦って勝つというところまで(チームが)いかなくては達成できないと思うので、まずはワールドシリーズでいい結果を残せるように頑張っていきたい。もっと強い相手に勝つためには、個の力がレベルアップしていかないとチームのレベルアップにも繋がっていかないと思う。個々の強みをもっと伸ばして、一人ひとりがワールドクラス、世界と戦える選手になっていくことが大事だと思う」

鈴木HCがこれからの強化プランを明かす。


「昨年の9月からこのチームがスタートして、このワールドカップでちょうど1年ということで、一区切りかなと思っているところです。この後、アジアシリーズ、ワールドシリーズを戦う上で、試合数も増えてくる。それによる選手のコンディション等もありますので。もう少し人数を増やした中でチャレンジしていきたい」

勝って終わったサクラセブンズ。アジアシリーズ、そしてワールドシリーズと世界への挑戦が始まる

勝って終わったサクラセブンズ。アジアシリーズ、そしてワールドシリーズと世界への挑戦が始まる

今後は、10月22日-23日のバンコク大会で始まるアジアシリーズ3大会を経て、12月2-3日のドバイ大会からワールドシリーズが始まる。
サクラセブンズの挑戦はここからが本番なのだ。


今後の大会日程


10/22-23 アジアセブンズシリーズ#1 バンコク大会
11/12-13 アジアセブンズシリーズ#2 韓国大会
11/26-27 アジアセブンズシリーズ#3 UAE大会
12/2-3 HSBCワールドセブンズシリーズ 女子#1 ドバイ大会
12/9-11 HSBCワールドセブンズシリーズ 女子#2 ケープタウン大会
1/21-22 HSBCワールドセブンズシリーズ 女子#3 ハミルトン大会
1/27-29 HSBCワールドセブンズシリーズ 女子#4 シドニー大会
3/3-5 HSBCワールドセブンズシリーズ 女子#5 バンクーバー大会
3/31-4/2 HSBCワールドセブンズシリーズ 女子#6 香港大会
5/12-14 HSBCワールドセブンズシリーズ 女子#7 トゥールーズ大会


大友信彦
(おおとものぶひこ)

1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。

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