すさまじいまでの絨毯爆撃。オールブラックスが、過去何度も煮え湯を飲まされてきた憎きフランスを相手に、ワールドカップの決勝トーナメントでは記録破りの勝利をあげた。
新鋭フィニッシャー・ミルナースカッダーの鮮やかなステップ・サヴェアの圧巻なトライの前半
オールブラックスは前半6分にSOカーターのPGで先制。フランスもFBスペディングが同点PGを返すが、試合はここから激しく動いた。11分、LOレタリックがフランスSOミシャラクのキックをチャージしてそのままトライ。ミシャラクはこのプレーを最後に負傷で交代。
フランスも14分にSHパラがPGを返すが、23分にビッグプレーが出た。NZのSOダン・カーターのDGがチャージされ、ボールはハーフウェー手前まで転々。しかし、こういうアンストラクチャーな状況こそオールブラックスの最も得意とするところ。
素早く戻ったコンラッド・スミスから、マア・ノヌーへ、CTB同士の絶妙なパス回しから右WTBミルナースカッダーにボールが渡ると、新鋭フィニッシャーは激烈ステップで2人のタックラーをまとめて抜き去り、右中間にトライ。
さらに29分には相手陣10m線のラインアウトで相手ボールを奪い、5次攻撃でSOカーターが左に持ち出し、左に余ったWTBサヴェアへ、左腕一本で脇の下から通す絶妙なバックパスで連続トライをアシストだ。
フランスも35分にNo8ピカモールがトライを返し、24-13まで追い上げるが、直後のキックオフからのシリーズで、NZがさらにビッグプレー。自陣22m戦付近からSOカーターが蹴り上げたハイパントを長駆追ったFBベン・スミスが相手FBスペディングと競り合って捕球。そこからNZはすぐに左に展開。再びボールを持ったサヴェアが、今度はタックラー3人を吹き飛ばす豪快トライ。29-13とリードを広げて折り返す。
NO8ピカモールのシンビンでオールブラックスが一気に勝負を決めにいく!
後半もNZは緩みがなかった。立ち上がりはフランスがNZ陣に攻め込み、約6分間にわたって攻撃を継続するが、NZは粘り強く守り、46分にいらだったフランスNo8ピカモールが密集で相手選手を殴ったとしてイエローカード。
ここから流れは一気にNZに傾いた。
49分にFLカイノが左隅に飛び込むと、58分にはハーフウェーのフランスのノックオンからサヴェアが50mを爆走。この試合ハットトリックとなる3本目のトライは、1999年大会でジョナ・ロムー、2007年大会でブライアン・ハバナがあげたワールドカップ1大会最多記録に並ぶ8号トライ。トライ王争いで並んでいたハバナはこの日ノートライだったため、一気に3差をつけ、トライ王に大きく前進、1大会のワールドカップ新記録にも王手をかけた。
NZはそこからさらにNo8キアラン・リード、交代SHのタウエラ・カーバーローがトライ。終了直前にはトライ寸前でCTBノヌが落球してトライし損ねる一幕もあったが、最終スコアは62-13。
これまでワールドカップの決勝ラウンドの最多得点は1987年第1回大会準決勝のNZ49-6ウェールズなので、NZは自国の記録を得点で13点、得点差で6点更新する爆勝で、1999年準決勝と2007年準々決勝で煮え湯を飲まされた宿敵を英国で撃破。
マコウ主将は圧勝の感想を問われても「準決勝を戦うチャンスをもらっただけだ」と素っ気なくコメント。連覇に挑むオールブラックスは、記録破りの圧勝にも緩みをみせなかった。
大友信彦 1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。プロフィールページへ |