PLAYBACK花園・就任即Vを達成した東海大仰星・湯浅大智新監督、キャプテン時代の花園初制覇 | ラグビージャパン365

PLAYBACK花園・就任即Vを達成した東海大仰星・湯浅大智新監督、キャプテン時代の花園初制覇

2014/01/10

文●大友信彦


2014年1月7日、全国高校大会決勝を制し、優勝を決めたのは大阪の東海大仰星だった。東海大仰星の優勝は4回目。過去には世界最多トライ記録を持つ大畑大介さんなどたくさんの日本代表を送り出した名門だが、初の全国制覇は今から14年前の1999年度だった。

そのとき決勝で対戦したのは、現日本代表のホラニ龍コリニアシ(パナソニック)らを擁して初めて決勝に勝ち上がってきた埼工大深谷(現・正智深谷)、そして仰星のキャプテンは、今回監督就任発Vを達成した湯浅大智監督その人だった。

小さな闘将率いる仰星が、20世紀と21世紀をまたいで、花園の伝説に名を刻んだ14年前へ、タイムトラベル!

 

2000年、花園ラグビー場。第79回全国高校ラグビーの話題を席巻していたのは・・・

「反則だよ」と吐き捨てた監督がいた。

「日本人が相手するのは無理。来年も勝てません」というコメントも聞かれた。西暦2000年の花園ラグビー場。第79回全国高校ラグビーの話題を席巻していたのは、埼工大深谷のFWに仁王立ちするトンガ人留学生、NO8マナセ・フォラウとFLコリニアシ・ホラニの2年生コンビ。そして試合終盤にホラニとの交代で投入される1年生カトニ・オツコロという、3人の『黒船』だった。


旋風の第一幕は1月3日の準々決勝。
過去優勝4回の名門・大阪工大高が、24−55で轟沈する。
マナセは185cm 95kgの巨体で突進し、懐の深さでボールを巧みに活かす。187cm 90kgのコリニアシ(愛称コリー)はラインアウトの柱としてボールを確保し、頑健な肉体から激しくコンタクト。試合の終盤にフィールドヘ飛び出すカトニは、185cm 85kgの体を躍らせて消耗した相手DFを突き破り、勝負を決するトライを決めてみせた。


第2幕は5日の準決勝。
今度は優勝5回の国学院久我山を相手に、前半25分に3−21の大差をつけられながら、後半に入るとコリーの連続トライで反撃。最後は久我山ディフェンスがトンガ勢に気を取られた隙を衝いてFB古田丞(すすむ)が逆転トライ。終盤の反撃をかわし、27−26と競り勝ち、ついに決勝進出だ。

そして、議論は噴出した。

留学生の活躍がスポーツ界に議論を巻き起こしたのは初めてではない。高校駅伝の仙台育英。大学ラグビーの大東大。箱根駅伝の山梨学院大——彼らは皆、称賛を上回るほどの冷ややかな視線と疑問の声を浴びてきた。

 

湯浅主将率いる仰星フィフティーンを支えていたのは、反骨心だった

批判の趣旨は「勝利至上主義」という言葉に集約される。能力に優れた外国人選手を連れてきて、手っ取り早く勝とうとしている——留学生を起用するチームには、そんな陰口が浴びせられた。

しかし埼工大深谷の場合は、森喜雄監督の個人的な親交が始まりだった。高校ラグビーの名門・熊谷エで長く指導した森監督は、3年前に三洋電機に進んだ教え子の結婚式に招かれたときに、トンガ出身の元日本代表WTBノフォムリ・タウモエフォラウ氏と同席。

その際「トンガには、日本で勉強やラグビーをやりたいと思っている子供がたくさんいるんです」と聞かされた。それを契機に埼工大深谷はトンガのトゥポウ・カレッジと姉妹校提携を結び、森監督が自らトンガヘ出向いて面接。成績、ラグビーの適性に加え「ホームシックにかからないこと」も重視して選んだ1期生が、花園を席巻したマナセとコリーの2人だったのだ。

コリーは中学時代は吹奏楽部のトロンボーン奏者だったが、ノフォムリ氏の甥であることが、異国では心強いだろうと考慮されて選ばれた。実際、彼らは来日2年で一度も帰国していないという。

「日本の子供たちに刺激を与えられれば」と森監督が期待した効果はすぐに現れた。昨年、マナセとコリーが加入した埼工大深谷は、4回目の花園で初めて3回戦に進出。

これは90年度に熊谷工が全国優勝して以来、埼玉勢としては8年ぶり。殼を破れなかった高校生たちは、留学生を起爆剤としてハードルを飛び越えた。今大会でもSO松本晃はじめ、国産選手の攻撃的なプレーは光った。断じてトンガ勢だけで勝ち上がったのではない。

それでも「トンガ勢を含んだチームで」勝ったことも、動かしようのない事実だ。大工大も久我山も、彼らの激しい当たりに消耗し、気を取られたからこそディフェンスに穴があいた。

卓越した個人の存在が周囲を加速させ、敵をナーバスにさせて攻守の均衡を崩す。それは選手の国籍に関係ない勝負の鉄則——そう考えると、次の問題に気づく。「それは日本人だけのチームだって同じじゃないのか」

優れた身体能力を持つ生徒を集めることは、勝利のためには欠かせない。今回涙を飲んだ大工大も久我山も、国内では図抜けた素材を並べたエリート軍団だ。トンガ勢を除けば目立った選手のいない深谷が、数少ない留学生を起爆剤として巨大な敵を倒した——今大会を、そう総括することもできる。

そして、その構図に埋没しなかったのが、最後に頂点をつかんだ東海大仰星だった。

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