東京山九フェニックスは2月9日に行われた全国女子選手権に優勝して2連覇を飾ると、選手たちは世界挑戦に旅立った。チャレンジャーたちが世界に散ったのだ。
オーストラリアのフォースへ向かったのはPR星野恵と岸本彩華。フランスのペルピニャンに向かったのはPR小坂海歩、HO地蔵堂芽生、LO門脇桃子、FL水谷咲良と増田結の5人。さらにNZへ向かったのはWTB大竹風美子。そして、今夏のワールドカップを目指すサクラxv組は3月上旬からの合宿に備え準備に励んでいた。

フランス遠征組(東京山九フェニックス公式より)
2月下旬、世界挑戦を始めたフェニックス戦士に話を聞くべく、オーストラリアとフランス、そして日本でサクラxv合宿に備える佐藤優奈&古田真菜をつなぐオンライン三角トークが、海を越え、時差を超えて実現した。
――みなさん今日は時差がある中でお集まりいただきありがとうございました。改めて、3連覇おめでとうございます。まずキャプテンのユナさん、3連覇を達成して、チャレンジャーたちをどんな気持ちで送り出しましたか?
佐藤「チームとして、全国選手権の優勝で終わるんじゃなく、オーストラリア、フランスへ行った選手たちが、海外で学んだものをフェニックスに持ち帰ってくれればチームもまたレベルアップできる。実際に行かないと経験できないこと、そこでしか得られないこと、学べないことはあると思うし、ケガをしないで成長して帰ってきてほしいです」
――まず先陣を切って出発したのは星野恵さん、メグさんでしたね。今回のフォース行きはどのように決まったのですか?
星野「私は本当は、この前の全国選手権で引退を決めていたんです。でも12月のはじめくらいに四宮さん(フェニックスCEO)から『フォースがメグに来てほしいと連絡してきたけど、どうする?』と言われて、悩むことなく『行きたいです』と答えました。引退といっても、何をするかを決めていたわけではなく、自分の年齢を考えて、勝手に『限界だな』と決めちゃってただけなんです。周りの選手にも『まだまだ行けるよ~』と言われたりして嬉しかったし、今はフォースが終わってもフェニックスに戻ってまたプレーしたいと思っています」
先陣をきった星野恵―ウェスタン・フォースへ
――もう試合には出たのですか?
星野「今日初めての試合に出たところなんです。プレシーズンマッチだったのですが、3番で60分くらい出ました。スコア的には負けたのですが、自分の中では2週間やってきたスクラム、ラインアウトを試合でできた、すごい大きな選手を相手にスクラムも押されずに耐えられたし、手応えを掴めました」

星野恵
――フォースにはおととし、去年と佐藤優奈さん、柏木那月さんというフェニックス勢が参加していましたね。
星野「着いたらすぐ、チームの仲間から『ユナとナツキは元気?』と聞かれたし、日本の国内の試合の結果も知っていて『優勝おめでとう!』と祝福されました。フェニックス選手のSNSも良く見ていてくれる選手がいっぱいいるんです(笑)」
フランス組は昨年の9月ー「準備は国内の試合が続いていて全然できなかった(苦笑)」門脇桃子
――フランス組はいつ頃話が決まったのですか?
門脇「最初に聞いたのは9月くらいですね。洋平さん(四宮CEO)から『フランスから声がかかってる。まだどうなるか分からないけど、パスポート(の有効期間)を確認しておくように』と言われたんです。そのあと話が進まなくて、流れたのかな…と思っていたら、12月の終わり頃になって『FWが欲しい、やっぱり来て欲しい』となって。
フランスは行ったことがなかったし、海外の選手と一緒にラグビーできるのは楽しいし『行きたいです!』とすぐに決断して、そこから本格的に話が進みました。でも準備は、国内の試合が続いていて全然できなかったです(苦笑)」
増田「決まるまでの流れはだいたい同じです。去年はフェニックスでオーストラリアに行ったけど、個人で海外のチームに参加した経験はなかったので、得られるものが多いだろうと思って決めました。私自身、去年までのBKからFWに移って、1年やってようやくFWを楽しめるようになってきたし、FWプレーの勉強もできると思いました。でも、実際に来てみたら、予想以上に英語が通じない(笑)」

水谷咲良
水谷「私はパリ五輪のちょっと前に洋平さんからお話をいただきました。もともと五輪のあとは15人制にチャレンジしたいと思っていたし、すぐに行きたいとお返事しました。最初は9月からフランスに行く話だったのですが、サクラxvの合宿に呼んでいただいたので、いったんそちらに行ったのですが、今回改めてお声がけいただいたので、今度こそチャレンジしようと思いました」
小坂「私は去年、前十字靱帯を切る大けがをして、オーストラリア遠征に参加できなかったので、今年フランスのお話をいただいたときは『ぜひ!』とお願いしました。全国選手権の間は、ケガをしないかどうかドキドキして試合をしていました。ケガせずにフランスまで来られたので、ケガをせずにすべての試合に出たい気持ちです」
地蔵堂「私も4人と同じような時期にお話をいただきました。海外へ行きたいという気持ちはずっと強く持っていたので、迷わず『行きます』と答えました。全国選手権の準決勝と決勝では試合に出られなかったので、フランスで15人制を続けられることが嬉しい。こちらのシーズンで得たものを来シーズンのフェニックスに繋げたいと思っています」
――ペルピニャンの5人は、ポジションは日本と同じですか?
増田「もともとはFWが足りないということで私たちが呼ばれたのですが、来てみたらBKにケガ人が多く出ているみたいで、私(増田)と水谷はBKに入るかもしれないと言われています」
――古田さんはブランビーズに行かれた経験がありますが、今のお話を聞いていて、いろいろ思い出すのでは?
古田「私の時はプレシーズンの合宿から行ったので、チームビルドのアーミーキャンプから参加して、チームが作られていく過程から参加できたのですが、自分らしさを回りに伝えられるのはやはり試合をするのが一番です。みんな、試合でインパクトを残してチームに貢献してくれると思います」
サクラフィフティーンで世界に挑むー古田真菜「試合中、ウッドマンさんのプレーを見ながら『こうしたらいいのか』と勉強してました」
――先日の全国選手権決勝では、パールズの元NZ代表ウッドマン選手を止め続ける見事なディフェンスぶりでした。
古田「ホントに、こんな貴重な機会を日本でいただけるなんて、ホントにラッキーでした。試合中、ウッドマンさんのプレーを見ながら『こうしたらいいのか…』と勉強してました。『こうしたらいいのかあ』と(笑)」

古田真菜
――たとえばどんな場面ですか?
古田「私のタックルが弾かれた場面なんですが、ウッドマンさんはボールをキャッチしてから強いポジションに移るのが速いんです。加速しながらタックルを弾きに行ける。手を使って足を動かすといえばいいのかな。私としては『行ける』と思って行ったんですが、まんまとやられました。本当に、ワールドクラスのボディコントロールを見せていただきました」
――佐藤優奈さんは2年前にフォースへ行きましたね。
佐藤「私は最初の試合が始まってすぐケガをしてしまったんですが、シーズンの間はずっとチームに帯同して、オーストラリアではどんなことをしているのかな…と勉強していました。当時のフォースは女子チームができたばかりで『日本の方がレベル高いな…』と思う部分もけっこうあったのですが、疲れていてもゴール前に行ったら取り切るんだというメンタルの強さ、モメンタムは日本の選手とは違う迫力があった。そういう部分を見ることも勉強になったし楽しかったですね。
あと、日本だと一日中ラグビーに向き合うのが当然みたいな感じがあるけど、オーストラリアの選手たちはラグビーが生活の一部になっていて、遊ぶときはビーチでとことん遊んで、グラウンドに出たらラグビーに全力で取り組んで、そのあとはカフェでおしゃべりを楽しんで…」

佐藤優奈
星野「まさに今、私がその状況にいます。練習は夕方に始まることが多いんですが、それまでビーチで遊んで、泳いで、テニスをして、ひと眠りしてからラグビー(笑)。ハードな試合をやった次の日も朝から『遊びに行こ!』という調子で、え? と驚くくらい。でも、それが体だけでなく心のリカバリーにもなる、癒やされる感じです。ビーチで遊んだ方が、ラグビーでもより集中力が高まると感じてます」
佐藤「私が行ったときも、インターナショナルの選手たちはフルタイム選手で、積極的に遊ぶ人が多かったですね。でも仕事をしている選手もまだたくさんいました。フランスではどうですか?」
増田「ほとんどの選手は学校や仕事に行ってますね。だから練習が始まるのも遅めで、だいたい夜の7時半から。練習も長めで、終わるのがだいたい9時半くらい。それから帰って食事して…という生活です。ウエイトは、昼間、ジムに来られる人だけという感じです」
――練習で何か違いを感じる部分はありますか?
門脇「スクラムが高いですね。練習でも、日本で組み慣れている高さで組もうとすると『もっと肩を上げて』と直されました」
増田「ラグビーのスキルレベルや戦術の理解度では正直、フェニックスの方が上だと思います。サインもそんなに多くない。ラグビー自体が、選手のその場でのオプションチョイスで進んでいくことがほとんどで、何フェイズまで決まっているというようなサイン、ストラクチャーはない。その分、コミュニケーションが大事ですね」
――となると、みなさん、フランス語の習得も大事ですね。
水谷「週に1-2回、フランス語のレッスンを入れていただいているのですが、アルファベットの発音からして違いますもんね。スクラムのコールも違う。バインドが『リア-』で、セットが『ジュ!』(笑)」
増田「ラインアウトのコールも難しい。動き自体はシンプルなんだけど、コールが聞き取れなくて混乱します。しかも私はコーラーを任されることも多くて、自分の発音が聞き取れるのかな? と心配になる。でもフランス語自体は、日本でジオリンゴというアプリを使ってフランス語を勉強してきたので、それが意外と役に立っています」
地蔵堂芽生「自分の殻を破るところから。アグレッシブさを身につけていきたい」
門脇「私の場合は去年おととしと続けて前十字靱帯を切って、試合に復帰できたのも今シーズンの途中から。試合をする機会も少なかったので、フランスで15人制をやれること自体がうれしいし、学びになっています。15人制の感覚を取り戻して、レベルアップして、チームに持ち帰りたい」
小坂「私も、これまでは試合に出られたとしても最後の20分とかだったので、こちらに来てスタートで試合に出してもらえるのが嬉しいです。今までできなかった長い時間をプレーして、大きい選手にも負けないタフな心と体を身につけて、たくさん吸収してフェニックスに帰りたいです。ポジションも、日本では主に3番だったけど、こちらでは『1番2番3番、全部できます』と伝えています(笑)」
地蔵堂「私は2番がメインですが、機会があったら8番もやってみたい。今のラグビーでは2番と8番は同じように動くので、エイトもやることでタフなフッカーになれるかなと。父がラグビーをしていて、今回フランスに来るときに『自分の殻を破るところからガンバレ』と言われたし、アグレッシブさを身につけていきたいです」
水谷「私も、メインはFLだけど、ケガ人の関係でCTBもやることになりそうだし、FLのスキルを磨くことに加えてCTBの判断力や周囲を見る力を、細かい技術を身につけて日本に帰りたいです」
増田結「フランスでラグビーをしている女性は、みんなタフだな」
増田「あと、私がフランスに来て感じているのは、フランスでラグビーをしている女性はみんなタフだな、ということです。日本では会社やスポンサー企業の理解が多くて、ラグビーに集中できる環境が整っているし、試合会場も近いけど、フランスでは試合をするにも片道4時間とか6時間とか平気でバスに乗っていく。練習グラウンドもその日によって違ったり、照明も暗かったり、練習が終わると泥だらけになってたり。想像していたよりも過酷な環境です。その分、自分自身と向き合ってラグビーをする必要があるなと感じています。あと、けっこう荒っぽい選手もいるみたいで、次にやるチームの試合を見に行ったとき乱闘があってびっくりしました」
――男子では海外へ行った選手からけっこう聞く話ですが、フェニックスのみなさんは?
佐藤「私は殴り合いは見たことないですね、代表の試合でもなかったはずです。スクラムを組むときにフロントローは何か言い合いになっていたりするくらいかな」
古田「私も直接そういう場面を見たことはないですね、でも昔、ラックの中で松田凜日が殴られそうになって逃げたってことがありました。あと、長田いろはが試合中に『手を噛まれた』と言ってたことがありました」
ヒートアップして乱闘も…「ラグビーそのものについては真逆というか、すごくシステマティック」(星野)
星野「乱闘はないけど、今日の試合ではスクラムをセットするときにすごい言い合いになりました。細かい言葉は聞き取れなかったけど、雰囲気で言うと向こうが『おめえが早すぎんだよ!』、私が『違えよ!』と怒鳴り合って、レフリーが『待て待て、落ち着け』となだめて(笑)。結構ヒートアップしてました。
でもラグビーそのものについては真逆というか、すごくシステマティックにやっています。シェイプがキッチリしていて、このゾーンではこうするというのが決まっている。ウエートもみんな集まって全員でやる。レビューも全員集まって『こういうときはこうしよう』ということをコーチが話す。決まり事はフェニックスよりも多いです」
古田「私がブランビーズに行ったときは、そこまでキッチリはしていなかったな…ホント、メグさんやフランス組のみんなのお土産話をたくさん聞くのが今から楽しみです。フェニックスではこうして個人として海外にチャレンジする機会があって、選手には目標になるし、ラグビーでもラグビー以外でも人生を豊かにできるのが良いと思います。みんな、楽しんで、ケガなく帰ってきてください」
佐藤「フェニックスは今シーズン、監督に教わるだけじゃなく選手自身が戦術も考えてやってきたし、来シーズンもその方針は続くと思うので、選手の経験値がチームを成長させるきっかけになると思う。みんながいろいろな経験を積んで帰ってきて、次のフェニックスのラグビーがどうなっていくか、また楽しみです」
佐藤優奈「半年くらいはそれぞれの場所で頑張る。フェニックスで集まった時にはみんなで頑張ろう!」
――優奈さんと真菜さんはサクラ15で臨む8月のワールドカップがターゲットですね。
佐藤「みんな、いろいろなところでシーズンが始まっているし、私たちも3月から合宿が始まるし、半年くらいはそれぞれの場所で頑張ることになります。みんな、それぞれのところで頑張ってレベルアップして、またフェニックスで集まったときにみんなで頑張りましょう!」
古田「私も同じです。それぞれのところでレベルアップして、シーズンに集まったときにまたチームとしてレベルアップできたらいいな。あと、みんなの日常を見るのが楽しいので、SNSを使ってたくさん見せてくださいね」
星野「今日フェニックスのみんなと話してみてホッとしたし、フランス組は仲間がいっぱいいていいなあと思っちゃいました(笑)。みんなが頑張っているから私も頑張れます!」
地蔵堂「チームメートがいろいろなところに行って、いろいろな相手と試合をして、次のフェニックスに良い影響を与えると思うし、私も成長して帰れるよう頑張ります」
小坂「私もメグさんと同じで、フェニックスの仲間といっぱい話すことができて嬉しかったです。日本が恋しくなっていたけど、まずフランスで頑張って、それを日本に帰って活かすのが楽しみです!」
水谷「私もケガなく帰国できるように頑張ります!」
増田「世界に飛び出したみんながそれぞれのところで活躍してることをSNSで見て私も力をもらっているし、刺激し合って成長していきたいです」
門脇「私もケガをしないで頑張って、帰ったときにまた『フェニックスはこんなに強くて楽しいチームなんだ』とみんなに見せられるのを楽しみにしています!」
――みなさんの世界各地での活躍と、帰国してからのフェニックスでの活躍を楽しみにしています。今日はありがとうございました!

世界を経験して再びフェニックスとして一つのチームになった時、どんなラグビーを見せてくれるのか。日本女子ラグビーを牽引していくことは間違いない。
![]() (おおとものぶひこ) 1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。 プロフィールページへ |