東京山九フェニックス―全国女子選手権3連覇はこうして達成された!ウッドマンを止めきり、接戦を勝ちきったチームの成長とは | ラグビージャパン365

東京山九フェニックス―全国女子選手権3連覇はこうして達成された!ウッドマンを止めきり、接戦を勝ちきったチームの成長とは

2025/02/07

文●大友信彦


80分はあっという間にに過ぎた。
2月2日の秩父宮ラグビー場。第11回全国女子ラグビー選手権決勝、東京山九フェニックス vs 三重パールズは、女子ラグビーの到達点を示してくれる熱戦だった。

大会3連覇を目指すチャンピオン、東京山九フェニックスに対し、4年ぶりの王座奪回を目指す三重パールズには世界最強ラグビー女子と異名を取るポーシャ・ウッドマンウィクリフが加入。


ウッドマンが爆発するか?フェニックスが止めきるか?――最大の見どころはそこだった。
前半、試合はパールズ陣で進んだ。風上に立ったフェニックスがキックを使ってパールズ陣に入るのに対し、パールズはなかなか自陣を脱出できない。

「フェニックスにはFBに松田凜日というロングキッカーがいるので、キッキングゲームに持ち込みたくはなかったし、私たちには良いランナーもそろっているので、ポゼッションで自陣を脱出しようと思った。ただ、雨上がりでボールが滑って、ファンブルが多くて自分たちのやりたいラグビーができなかった」(パールズ・齊藤聖奈主将)

奥野わか花

奥野わか花


12分、敵陣で試合を進めたフェニックスが先制トライを奪う。相手ハンドリングエラーで得た22m線中央スクラムから右にCTB古田真菜、No8ボッドマン。左をLO佐藤優奈が突いた後の4次攻撃で、PR小牧日菜多―CTB古田真菜―CTB石田茉央―FB松田凜日と軽快にパスが回り、WTB奥野わか花が左隅にフィニッシュ。

「天気予報が雨だったので、堅いゲームプランも準備していたのですが、思ったより早く雨があがったので、パスで攻められるね、と思ってチャレンジしました」とフェニックスの佐藤優奈主将は振り返った。

フェニックスの攻勢はその後も続いた。自陣のディフェンスで相手ノックオンを誘い、SO西亜利沙のキックでパールズ陣に入ると、CTB古田真菜が相手エースのウッドマンにタックル。オフロードパスのノックオンオフサイドを誘い、ゴール前でPKを獲得。

西亜利沙

西亜利沙


フェニックスはショットを選択し、SO西亜利沙にボールを預ける。西はプレースキックではなく、セブンズで蹴り慣れたドロップキックでPGを狙うが、正面10mのイージーなキックを外してしまう。

「キックティーを使ってプレースキックを蹴る練習もしたのですが、もうひとつフィットしなかった。それよりも、蹴り慣れたドロップキックの方が自信があると思ったのですが…雨でボールも芝も濡れていて、ボールの跳ね方がちょっと合わなかった」

松田凛日

松田凛日


だが、転んでもただでは起きないのがフェニックス=不死鳥だ。直後、パールズのドロップアウトをそのSO西亜利沙が捕球すると、思い切ってカウンターアタック。相手DFを次々と抜き去り、ゴール前まで進むとサポートに走り込んだFB松田凜日へ完璧なタイミングでパス。連続トライを決めるのだ。

「PGは自信があったけど入らなくて、ミスを取り返そうと思っていたらちょうどキックが来て、目の前が空いたのが見えたので走りました」(西)

「メインキッカーがいないので、キックが外れても仕方ない、その分はトライで返そうと、チームみんなで話していました。トライで返せて良かったです」(松田)

フェニックスはこの試合、準決勝までメインキッカーを務めてきたCTB黒川碧をリザーブに下げ、CTBに今季初先発の石田茉央を13番に抜擢。サクラXVの古田真菜を前節までの13番から12に移し、新たなCTBペアで決勝に臨んだ。世界最強ランナー、ウッドマン対策だ。


「今週はずっとディフェンスにフォーカスして練習してきました」と古田は明かした。

「石田茉央は走力があって、(ウッドマンに)外に振られてもついていける。12番は体を当てる場面が多くてハードだったけど、横(石田)と後ろ(松田)がしっかりしているから、そこを信頼してタックルしました。練習では岡元涼葉が『ちびウッドマン』になって、エリアごとにウッドマンがやってきそうなプレーをしてくれて対策を立てられたので、試合ではおちついてできました」

古田真菜

古田真菜

岡元涼葉は前週までサクラセブンズでワールドシリーズのパース大会に参加し、史上最高順位となる5位に貢献する大活躍。さすがに帰国即の決勝出場は首脳陣の判断で見送られたが、練習で自ら『ちびウッドマンやります』と立候補。選手たち自身で分析したウッドマンのプレーを真似て、練習で「仮想ウッドマン」をやりきったのだという。

ウッドマンに対してダブルタックル

ウッドマンに対してダブルタックル


実際、この日の決勝でも、ウッドマンの激しいコンタクトはフェニックスのタックラーを次々と吹っ飛ばし、観衆をどよめかせたが、古田と石田の両CTBを中心にフェニックスDF陣は粘り強く対応。絶対的エースにトライだけでなく、ビッグゲインも許さなかった。CTB同士の地上戦対決においてはフェニックス・ディフェンス陣の完勝といっていいだろう。


「実際に対戦したウッドマンはスゴかったですけど、ちびウッドマンにも違うスゴさがありましたから(笑)。やっといてよかったなと思いました」(古田)

パールズもやられっぱなしではなかった。前半は2トライをあげたフェニックスだったが、コンバージョンはいずれも外れ、リードは10点。そして後半、風上に回ったパールズはSH山中美緒、SO西村蒼空のキックも織り交ぜながら相手陣に侵入。

細川恭子

細川恭子


エリアマネジメントで優位に立つと、PRメレ・タヴァケ、北野和子、HO永田虹歩のフロントロートリオ、LO甲斐早智子、FL細川恭子らがコンタクトの強さで遮二無二前進。48分には右ゴール前ラインアウトからPRメレが前進し、ゴール前ラックからNo8齊藤聖奈が右中間にねじ込んだ。5-10。

ここからの25分間、試合はワンチャンスで逆転可能な5点差で進んだ。フェニックスが敵陣深く攻め込めばパールズが耐えてジャッカルし、パールズが攻め込めばフェニックスが粘り強くタックルを繰り返して相手エラーを誘う。拮抗した展開が続く。両チームがベンチからインパクトメンバーを次々に繰り出す。

黒川碧

黒川碧


69分、フェニックスがSO西亜利沙に替えて、黒川碧をピッチに投入する。その7分後だった。自陣ゴール前のディフェンスで奮戦を続けていたパールズだったが痛恨のオフサイド。フェニックスが相手ゴールから約25mの地点でPKを得る。

後半からピッチに入ったSH中島涼香が「狙おう」とゴールポストを指さし、LO佐藤優奈主将が池田韻レフリーに「ショットします」と伝える。黒川の右足から放たれたキックは左ポストをかすめてクロスバーの向こうに落ちた。

黒川碧

黒川碧


キックによる得点を稼げないリスクを承知の上で、古田と石田の両CTBで地上戦を封じ、接戦に持ち込み、勝負の後半にインパクトで正確なキッカー黒川を投入するという、決勝に向けたゲームプランは選手全員が理解していた。


「今年は選手自身がすごく考えたシーズンでした」

佐藤優奈主将はそう話す。昨夏のセブンズシーズン終了後、長くフェニックスを指揮したケン・ドブソンHCが退任。神戸OBの吉田永昊新HCが就任した。

「ケンはすごくステマティックにゲームプランを作って選手の能力を引き出したけれど、選手は与えられることに慣れてしまった面があった。永昊には、教えることよりも選手の主体性を引き出すことをお願いしました」と四宮洋平GMは話す。

四宮GMは桐蔭学園から関東学院大に進み、旧社会人大会~トップリーグ時代のヤマハ発動機、ワールド、近鉄、NZや南アフリカ、フランス、イタリアなど多彩な環境でプレーした経験から、選手の主体性なくして強いチームは生まれないことを体感していた。

四宮洋平GM

四宮洋平GM

加えて、母校・桐蔭学園の藤原秀之監督からも助言を得ていた。

「連覇を狙うんだったらゼロからやれ」

前年と同じことをやっても連覇はできない、創造的破壊の先にしか連覇はない。
昨季のチームを率いていたのは鈴木実沙紀主将だった。難しいゴールキックを次々に決め、自在にゲームを作ってMVPに輝いたのは大黒田裕芽だった。ケン・ドブソンHCも含め、昨季の優勝の主役はみなチームを離れていた。

だが、それこそが連覇の勝因だった。

佐藤優奈キャプテン

佐藤優奈キャプテン

「今シーズン、最も成長したのはキャプテンの佐藤優奈とバイスの古田真菜です。2人とも顔つきが変わった。特に佐藤優奈はストイックで、どこまでやっても満足しない。少しでも納得できない部分があれば『もっとやろう』と完璧を追い求めるんです」(四宮GM)

古田真菜バイスキャプテン

古田真菜バイスキャプテン


サクラXVの中軸でもある主将の佐藤優奈と副将の古田真菜のストイックな向上心がチームの背骨となり、15人制の経験豊富なPR小牧日菜多、柏木那月、髙木恵、岸本彩華、野原みなみ、黒川碧、岡田はるな、門脇桃子、若きリーダーの中島涼香、増田結、塩谷結がサポート。そこにパリ五輪を終えて合流した西亜利沙、松田凜日、奥野わか花、水谷咲良、大谷風美子、NZ生まれで抜群の身体能力を持つサバナ・ボッドマンがチームにプラスアルファの霊感をもたらし、3連覇は達成された。

2014年度に第1回が開催された「全国女子選手権」はこれが11回目。過去の優勝は日体大が4度、あとは横河武蔵野アルテミ・スターズが2度(引き分け両者優勝1を含む)、RKUグレースが1度(引き分け両者優勝)、パールズが1度あり、そしてフェニックスが今回で3度。しかも3連覇は史上初の快挙だった。

(東京山九フェニックスのクラブストーリーについてはcoming soon)

大友信彦
(おおとものぶひこ)

1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。

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