世界のトップ8へ―ジャパンラグビーがエリートになるまでの80分を振り返る | ラグビージャパン365

世界のトップ8へ―ジャパンラグビーがエリートになるまでの80分を振り返る

2019/10/14

文●編集部


2019年10月13日、日本ラグビーに新たな歴史が刻み込まれた。ラグビーワールドカップ2019・プールA、日本代表は目標であるベスト8入りをかけてスコットランドと対戦。過去1勝しかしていないシックスネーションズの1つを相手に、序盤からフルスロットルでアタックを仕掛けるジャパンが優勢に試合を進めた。

前半25分には、見事なオフロードのつなぎからPR稲垣啓太が代表初トライを決めた。

前半25分には、見事なオフロードのつなぎからPR稲垣啓太が代表初トライを決めた。

「ディフェンスも一つのアタックだと考えている」(ジョセフHC)というジャパンは、前半6分にSOラッセルにトライを許すものの、一切動じず自分たちのラグビーを展開。ラインスピードをあげ、ディフェンスで相手よりも足をかき押し込んだ。そして、この試合でキャプテンに戻ったFLリーチ マイケルの献身的なディフェンスからアタックへの素早いトランジションからゲイン。前半だけで3つのトライを奪い21―7とリードして後半を迎える。

後半42分、ラファエレのタックルから福岡がボールをもぎ取り一気にゴール中央へ!

後半42分、ラファエレのタックルから福岡がボールをもぎ取り一気にゴール中央へ!

ワールドカップ直前の南アフリカとのテストマッチで負傷したWTB福岡堅樹が今大会初先発。前半の松島幸太朗への絶妙なオフロードパスでトライを演出。さらに前半終了間際には、敵陣22mでCTBティモシー ラファエレのグラバーキックに対し反応。一気にギアをあげ加速。片手で転がるボールを手にするとそのままFBスチュワート・ホッグを抜き去りトライ。3トライ中2トライに絡む活躍。さらに後半開始早々の42分、センターライン付近でジャパンのディフェンスが前に出るプレッシャーでボールキャリアが余裕のない状況が生まれる。ラファエレがCTBジョンソンにプレッシャー。ジョンソンからボールを受けたCTBハリスに左からラファエレ、右から福岡がプレッシャー。福岡がハリスからボールをもぎ取ると一気に加速。ゴール中央にトライを決め28-7と大きくリード。

ラン、キック、タックル 全てのプレーが切れ味よく最高のパフォーマンスでチームに貢献したラファエレ

ラン、キック、タックル 全てのプレーが切れ味よく最高のパフォーマンスでチームに貢献したラファエレ

その後、スコットランドの反撃が開始。49分PRネルがトライを決めると51分にはリザーブ6人を投入。フレッシュレッグスがジャパンディフェンスのスペースをついて前進。53分にはファーガソンがトライを決め21-28と1トライ1ゴールに迫った。劣勢にたつジャパン。67分、スコットランド陣内10m付近のスコットランドボール。スクラム。レイドローに代わりピッチに入ったホーンはショートサイドへ展開。CTBハリスが態勢を崩しながらダウンボールしたところへ姫野が絡む。得意のジャッカルが決まり、スタジアムが大きな歓声に包まれた。

直後のマイボールラインアウトでボールを奪われ再びスコットランドのアタック。7フェイズ目、ハーフウェイ付近でNO8姫野とPR中島イシレリがダブルタックル、さらにブレイクダウンでの集結が早かったジャパンが押し込み再びボールを取り返しフェイズを重ねる。

チームが苦しいときにも精度高いプレーでボールをキャリー、ラピース

チームが苦しいときにも精度高いプレーでボールをキャリー、ラピース

スコットランドも負けてはいない。ジャパンの9フェイズ目、カウンターラックでボールを奪い再びアタック。ジャパンはノットロールアウェイのペナルティー。スコットランドはジャパン陣内深くでラインアウトのチャンスを迎える。ジャパンはリーチに代わりツイヘンドリック、堀江翔太に代わり、坂手淳史を投入。もう一度チームに活力を入れる。

直後のラインアウトモール、ジャパンはしっかり対応。スコットランドの前進を許さない。スコットランドも決死のアタック。フレッシュレッグスのツイがしっかりと機能。さらにBK陣もディフェンスのスペースを与えない。我慢比べはスコットランドがノックオンでジャパンの勝利。74分、ジャパンは自陣10m付近でマイボールスクラムとなる。

38歳、この試合でもハードワーク、トンプソン

38歳、この試合でもハードワーク、トンプソン

残り5分少々。勝利が近づいてきたかと思われたが、スコットランドの執念が再びジャパンに襲いかかる。スコットランドがペナルティーを獲得する。残り4分、同点では決勝トーナメントへ進出できないスコットランドはトライを狙う。76分、ジャパン陣内22m内側、HOマキナリーのスローイングが入る。スコットランドはモールを作る。この試合、モールディフェンスが機能していたジャパンはガッチリ受け止め前進させない。

ジャパンが歴史を変えた瞬間。山中亮平がボールを蹴り出し、試合終了

ジャパンが歴史を変えた瞬間。山中亮平がボールを蹴り出し、試合終了

ホーンが左サイドへ展開。投入されたばかりの松田力也が低くタックルに入る。少しをリズムを止められたスコットランドは深くボールを展開。クリスのオフロードパスを受けたホッグがターンをしながらボールをキャリー。ゴールまで15m。スコットランドは裏スペースにボールを転がす。松島幸太朗がボールをおさえキャリーバック。77分、ジャパン陣内の5mスクラム。スコットランドは最後のアタック。ジャパンの集中力は切れなかった。5フェイズ目、SOラッセルに対し、ラファエレがタックル。さらに福岡がカバー。次々とジャパンのプレーヤーがボールに集結。見事ボールを乗り越えターンオーバー。78分50秒。落ち着いてボールを捌く田中史朗。もどかしい1分。ジャパンがボールキープ。80分、試合終了を告げるドラの音がなる。山中亮平がボールをタッチに蹴り出し試合終了。

プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれた福岡堅樹。プレゼンターはプロテニスプレーヤーの大阪なおみさん

プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれた福岡堅樹。プレゼンターはプロテニスプレーヤーの大阪なおみさん

28-21。真っ向勝負の80分、勝ちきったジャパン。プールAを4戦全勝で首位通過。悲願のベスト8、決勝トーナメント進出を決めた。日本ラグビーが最高に輝いた瞬間。横浜国際競技場に訪れた約67,000人が大きな歓声を挙げた。

この試合のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたのはWTB福岡堅樹。世界にそのパフォーマンスを見せつけた。勝利したジャパンは20日、同じ横浜で南アフリカと対戦。9月6日、熊谷で完敗した時から一皮も二皮も剥けたジャパンがリベンジを挑む。

「来週も勝つ気でいく。負けるつもりはない」ジェイミー・ジョセフHC

ジョセフHC 本当に、今回私たちの日本が台風で甚大な被害がありました。多くの方が亡くなられたと聞きました。試合前にそのことについて私たちはチームとして話しました。今日の試合でタフな時間帯にこういったひどい状況にあることを考えました。もちろん今日は自分たちの勝利を喜びましたが、非常に多くの方のおかげで今日の試合が開催されたと思います。

スコットランドは、試合開始から真っ向勝負してきました。拮抗する場面が多かった。その中で、最後まであきらめない気持ちをもって試合の正念場で力を出し切ることができました。そして何とかのりきることができました。国はこのように大変な状況の中ですが、ホームのワールドカップが戦えたこと、いろいろな方のサポートは私たちのモチベーションにつながりました。

試合前の国歌斉唱。ノンメンバーも肩を組んで。ONETEAMだ。

試合前の国歌斉唱。ノンメンバーも肩を組んで。ONETEAMだ。

――素晴らしいアタッキングラグビーでした。今日はどのようなゲームプランだったのか、それがどのように勝因に結びついていったか。


ジョセフHC アタックについて、普通、ボールをもっているときだと思われますが、私たちはディフェンスも攻撃の一つだと思っています。今日、私たちが決めたトライがどこから生まれたか。それはディフェンスラインからチャンスがうまれてトライにつながりました。今日の戦術は、できる限りボールをキープをするということ、スピードをコントロールするということ。エリアをとっていく。さらに相手の裏をかくということ。そして相手にプレッシャーをかけ、相手にトラブルを与えるということです。

スタジアムからの大きな声援が選手たちの背中を押した。

スタジアムからの大きな声援が選手たちの背中を押した。

スコットランドも先にトライをとり、私たちにトラブルを与えてきました。しかしあきらめず、自分たちのプレーを信じ、お互いを信じあうということ。選手たちはそれを守り実行できたということは本当に誇りに思います。負けたくない試合で後半最後の2、3分を乗り切れたのはヘルプしてくれた皆さんのサポートのおかげです。


――おめでとうございます。アジアラグビー協会としてプール戦から決勝トーナメントに進出できたこと本当に素晴らしかった。2016年から2019に向けてスーパーラグビーに参戦したことはプラスに働きましたか。来年以降サンウルブズはスーパーラグビーから脱退しなければなりません。それはギャップになりますか。


ジョセフHC この3年間いろいろなことがありました。スーパーラグビーに入ったことで、今、ワールドカップに出場している、インタナショナルレベルの選手達と戦えるチャンスがもらえました。最初は苦戦を強いられました。移動も多く、プロの選手達と戦うことは本当に大変でした。今年はスーパーラグビーをコントロールして自分たちにとって有益になるように使うことができました。

「勝利できた一番の理由は『信じること』」リーチマイケルキャプテン

この試合が代表最後となるSHレイドロー。FBホッグが健闘をたたえた

この試合が代表最後となるSHレイドロー。FBホッグが健闘をたたえた

――スコットランドに後半反撃を許してしまいましたが、途中交代でフィールドの外から試合をみているときどんな思いでしたか?


リーチ うちのチームにはとにかく勢いがありました。相手を止めることもできましたし、プラン通りに試合をすすめることもできていましたし、ボールを奪うことができましたし、そこから自分たちの勢いをさらに強めました。ここが重要だったと思います。

――クウォーターファイナル進出することができました。どこまでいけると思われますか。


ジョセフHC 準々決勝に進出したことは、日本ラグビーにとって素晴らしいことですしティア2ラグビーにとっても、アジアラグビー界にとっても素晴らしいことだと思います。次はどのような相手になるか分かりませんが、来週から戦いの準備を始めていきます。今回私達の勝機は準備だったと思います。毎回、同じメッセージを発しそれをやりきることができました。来週も勝つ気持ちでいきます。負けるつもりは全くありません。


――日本ラグビーの新しい歴史を作りました。そのことに対する思いとなぜ実現できたのか。


リーチ 一番の理由は、信じること(ビリーフ)だと思います。2011年からふりかえってみると、対戦する相手のレベルが上がってきてティア1と対戦する機会が増えて、スーパーラグビーでの経験もすごく大きかった。そしてコーチがどんどん良くなってきています。今回ジェイミーの下でやってきましたが、勝つことができたのはジェイミーの指導とコーチ陣だと思います。

藤井雄一郎強化委員長(左)と長谷川慎スクラムコーチ(右)。コーチ陣の成長もチームの勝利を支えた

藤井雄一郎強化委員長(左)と長谷川慎スクラムコーチ(右)。コーチ陣の成長もチームの勝利を支えた

――今、マイケルがいったことに通じるのですが、コーチ陣のことについて教えて下さい。前半のスキルそして、後半のフィットネスも信じる力も素晴らしかったと思います。コーチとしてどんなことを選手たちに伝えていたのでしょうか。


ジョセフHC まず、チームは一夜で作り上げることはできません。本当にこれまでタフな試合をくぐり抜けてきました。私が個人的に一番難しかったことは、自分たちに与えられた時間の中でどうやってチームをつくっていくかということに苦戦しました。それが、どのような方向へ進めばいいかある程度わかってきました。
コーチ陣については疑いもないです。特にトニー・ブラウンは優秀なアタックコーチです。皆さんのご存知のとおり素晴らしいコーチです。チームとしてもお互いのことを褒め合うことができるような環境をつくることができました。また、選手たちにはある程度、自分たち自身で責任をもってやれるよう促しました。そして彼らを信じて、リードを与えるということをしてきました。

今日の堀江翔太のプレーにも強い信念を感じました。これまで痛みを感じながらやらなければならない年もありましたし、そういう時期があったからこそこの結果につながったと思います。トニー・ブラウンもそうですが、スクラムコーチである長谷川慎もすばらしい。他にもいろいろなコーチがいます。コーチのことは、なかなか日の目を見ることはないのですが本当に素晴らしいと思います。

私達は最初、ティア2と試合をしていました。そこではスクラムとラインアウトそしてモールディフェンスにフォーカスして相手にプレッシャーをかけていきました。ワールドカップ前の最後4試合、5試合でその部分がさらにうまくいくようになったことで、我々のやりたいラグビーができるようになり、彼らコーチの努力が日の目をみるようになってきました。ですから、非常にセットピースでは世界のトップチームと拮抗できる状況をつくりあげることができました。

――マイケル、ジェイミーが台風について話をしました。選手としてはどう感じていましたか。またチームにはどう伝えていましたか。


リーチ 試合の前にジェイミーがその話をしました。選手たちはこの試合は私たちだけの試合ではない、台風で犠牲になったり、被害にあって苦しんでくれる人のための試合だとも思いました。この試合をするために、床の水をスポンジで吸い出したりして、そういった努力をたくさんの方がしていたことも知っていました。こういう時に日本代表として試合ができたことを本当に感謝します。こういう試合をすることが、日本の方に役に立つとも思っていました。


「ヴィクトリーロード」を歌う、日本代表。

「ヴィクトリーロード」を歌う、日本代表。

――歴史的な勝利だったわけですが、以前ジョセフHCは日本代表の課題として、メンタル面のことを言われていました。日本の選手達はメンタル面の成長をどう評価しますか。決勝トーナメントにむけてどんなメンタリティーが必要になりますでしょうか。 


ジョセフHC 日本の選手のメンタリティはかわったと思います。私のメンタリティーの定義は、日頃から何をするのか、それはラグビーだけでなく。朝起きてからいい人格者であることが重要だと思っています。私たちはそういう心をもってやってきましたし、体現してきたと思います。そして、よいメンタリティをもつことで自分たちのベストを引き出すことができる。いいラグビー選手になることは日々、それを実行するということですし、私たちの選手たちはそれをやってきていると思います。このようなチームの環境の中で、私がやっていることは選手に対して言い続けることです。マイケル(リーチ)も一緒です。メンタリティがいい状況であるのかどうかをお互いに言い合えることです。

次は南アフリカが相手ですから、そのメンタリティーを引き続き持って準備をしていきたいです。

 

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