その瞬間、秩父宮ラグビー場は不思議な空気に包まれた。
明大vs慶大の試合は80分を過ぎていた。
場内アナウンスは「ロスタイムは2分です」と繰り返し告げていた。

点差は明大24-22慶大。
2点を追う慶大は自陣ゴールライン上で明大の渾身のアタックを25フェイズにわたって止め続け、ダメ押しトライを阻止。
トライラインドロップアウトでピンチを脱出すると、逆転を目指してアタック。
じわじわと陣地を進め、明大陣内に攻め込んでいた。

自陣ゴール前で守りきった慶應

ラストアタックでジワジワ前進
そして83分55秒だった。
明大陣22m線付近でパスを受けた慶大CTB今野椋平主将はバックスタンド側タッチラインへ大きくボールを蹴り出したのだ。
負けている側の慶大が、自ら試合を終わらせる謎のプレー選択。
一呼吸を置いて、加納レフリーがノーサイドの笛を吹いた。
アドバンテージがあったわけでもない。試合は明大が勝った。



	