太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ第3戦・熊谷大会のトライ&得点ランキングと、恒例の本誌選出ドリームセブンをお届けする。
今大会はサクラセブンズ候補で中軸を固めたチャレンジチームが東京大会に続き優勝。しかし大会オフィシャルのMVPは準優勝ながとブルーエンジェルスのファタシンプキンズ・カタリナが受賞した。正直、優勝したチャレンジでチームのピンチを救うトライを挙げ続け、ディフェンスにも奮闘した原わか花が受賞しなかったのは意外だった。
とはいえ、カタリナの活躍も素晴らしかった。トライをあげ、キックを決め、得点をあげただけではない。相手の意図を先読みしたディフェンスでの働き、ブレイクダウンの働き。わずか10人、途中からは実質9人で決勝まで勝ち進んだながとの快進撃はみごとなもので、カタリナの働きはその原動力だった。
優勝以外のチームからMVPが選ばれたケースは過去にもある。2015年保土ケ谷大会(優勝=アルカス熊谷)での堤ほの花(チャレンジ)、同年東京大会(優勝=東京フェニックス)での平野優芽(ラガールセブン)がそれだ。今回は6年ぶりに、優勝チーム以外からMVPが選ばれたわけだ。
そもそも、誰がどう選んでも「なぜ誰を選ばなかったか?」の疑問はついて回るものだ。
かくいう当欄も、表彰式も商品もない立場ながら「なぜこの人を選ばなかったの?」という声なき声を想像しながら「ドリームセブン」を選出している。今回は、熊谷大会で抜群の存在感をみせた選手たちをドリームセブンとして、近未来の女子セブンズシーンで主役の座に登ってきそうな輝きを見せた選手たちをネクストセブンとして、あわせて14人を発表するが、無論、ここに選ばなかった選手にも素晴らしい活躍をみせた選手はたくさんいたことを、当たり前だが付記しておく。選手のみなさん、コーチのみなさん、素晴らしいプレーの数々、試合の数々をありがとうございました。
熊谷大会トライランキング
1 原わか花(チャレンジ)13T
2 鹿尾みなみ(東京山九フェニックス)6T
2 角川穂乃花(横浜TKM)6T
4 増田 結(東京山九フェニックス)5T
5 磯貝美加紗(ながとブルーエンジェルス)4T
5 ファタシンプキンズ・カタリナ(ながとブルーエンジェルス)4T
5 三谷咲月(三重パールズ)4T
5 ポーリレン・ケイラマリタ(東京山九フェニックス)4T
5 ンドカ・ジェニファ(RKUグレース)4T
5 コロニアフェイスハコ・ヘイブレム(アルカス熊谷)4T
5 村田彩乃(追手門VENUS)4T
5 永井彩乃(横浜TKM)4T
得点王に輝いたのは原わか花(チャレンジ)。当初は出場予定メンバーに入っていなかったが、SDSメンバーの松村美咲(関東学院六浦2年)のコンディション不良により急遽登録されると、大会開幕戦となった横浜TKM戦で試合開始のキックオフからノーホイッスルの90m独走トライ。そこから6試合で13トライ。それも6試合すべてでトライ。2戦目からは5試合連続で複数トライを決めるという量産ぶりだった。
原の太陽生命シリーズトライ王獲得は石見智翠館高3年だった2017年東京大会(10t)以来4年ぶり。通算トライは59となり、堤ほの花(65)、上運天あかり(62)、磯貝美加紗(62)に次ぐ歴代4位に浮上した。
2位の鹿尾みなみは今季3大会で14トライ。角川穂乃花は同じく3大会で10トライ。シーズンランキングのトップは今大会5位の磯貝美加紗で3大会で15トライをあげている。
熊谷大会得点ランキング
1 原わか花(チャレンジ)65=13T
2 大黒田裕芽(チャレンジ)39=1T17C
3 ファタシンプキンズ・カタリナ(ながとブルーエンジェルス)33=4T5C1P
4 鹿尾みなみ(東京山九フェニックス)30=6T
4 角川穂乃花(横浜TKM)30=6T
6 三谷咲月(三重パールズ)26=4T3C
7 増田 結(東京山九フェニックス)25=5T
8 村田彩乃(追手門VENUS)24=4T
9 磯貝美加紗(ながとブルーエンジェルス)20=4T
9 ポーリレン・ケイラマリタ(東京山九フェニックス)20=4T
9 ンドカ・ジェニファ(RKUグレース)20=4T
9 コロニアフェイスハコ・ヘイブレム(アルカス熊谷)20=4T
9 永井彩乃(横浜TKM)20=4T
13トライでトライ王の原わか花が65得点で得点王にも輝いた。原の得点王獲得は、これも石見智翠館高3年だった2017年東京大会以来2度目。6試合すべてに先発し、4試合にはフル出場。5試合目となった準決勝の追手門戦ではGPS測定で自己新となる最高速度時速31キロを記録。タフな環境で力を出せることを実証した。得点ランク2位の大黒田はチャレンジの司令塔としてやはり6試合すべてに先発。原を越える5試合にフル出場を果たした。
ドリームセブン:原わか花(チャレンジ)(石見智翠館-慶大4年)

常にレッドゾーンで走り続けてトライを取りまくる
オートバイのスロットルを全開、レッドゾーンで高速コーナーを走り抜けるような疾走感。遠心力に負けないよう体を傾けて走るランニングフォームからは高回転のエンジン音が聞こえてきそうだ。
自らを「新幹線」と重ね合わせるスプリンター。新幹線に憧れたのは郷里・新潟へ帰省するとき上越新幹線に乗ったのがきっかけだが、自信が理想とするのは東北新幹線はやぶさに使用されるE2系。「新幹線の美しさ、速さを体現できるような走りを五輪で見せたい」
ドリームセブン:磯貝美加紗(ながとブルーエンジェルス)25歳(追手門学院大-北海道ディアナ-ヤマネ鉄工)

登録人数こそ12人いたが、実働わずか10人で決勝まで勝ち抜いたながとの勝利を支えたトライゲッター。走り出したらトライを取りきり、DFでも粘って粘って追いつく。シリーズデビューは2014年横浜YCAC大会。NZ留学、北海道バーバリアンズディアナでのプレーを経てながとへ。太陽生命シリーズの歴史を代表する選手のひとりだ。
ドリームセブン:ファタシンプキンズ・カタリナ(ながとブルーエンジェルス)30歳(NZ-ながとスポーツ財団)

プール戦と決勝、優勝したチャレンジチームを2度にわたって追い詰めた ながと の頼れる司令塔。アタックでは長い手足でスペースを切り裂いてボールを運び、ディフェンスではしつこく相手に絡みつく。決勝の前半ロスタイムにはセブンズでは珍しいPGを狙い成功(大会史上初か? と思い調べたら、大会が産声をあげた2014年龍ケ崎大会でアルカスの大黒田裕芽がグレース戦で1PGを決めていた)。大会前日に30歳になったばかりのアラサー戦士は大会MVPを受賞した。
ドリームセブン:三谷咲月(三重パールズ)21歳 四日市メリノール高-明星大3年

パールズのFWがブレイクダウンで相手ボールをターンオーバーしたとき、常に真っ先に反応して走り出す。トランジションの素早さと視野の広さ、加速力が光った。26得点(4T3C)は大会6位。中学時代は陸上競技の中距離を走っていたが、中3のときパールズの練習に参加してラグビーへ。当初は鈴鹿高専に進学したが、よりラグビーに専念できる環境を求めて四日市メリノール学院高へ転校。現在は明星大の3年生で、将来は指導者になるべく教師を目指している。
ドリームセブン:須田倫代(追手門VENUS)18歳 京都成章-追手門学院大1年

豪快なステップで相手DFを置き去りにする。走りで試合の流れを変えるゲームチェンジャー。一瞬動きを止めて相手を止めるや、次の瞬間には抜群のバネでロケットスタート。猛加速でDFを置き去りにするステップ&ダッシュは、男子セブンズの石田吉平(明大)を思い出させる切れ味だ。本誌選出、今季の新人賞候補筆頭だ!
ドリームセブン:村田彩乃(追手門VENUS)19歳 追手門学院高-追手門学院大2年

スペースを見つけてはランで仕掛け、そこからデンジャラスゾーンへ正確なキック。走って良し蹴って良し、オプションの多さはNO1のゲームコントロールで、静岡大会ではチャレンジトロフィーに沈んだチームを4強まで引き上げた司令塔。追手門高校時代から大学生とともに練習を重ねており「私が何を考えているかみんなが分かってくれているからやりやすいです」。父・大典(だいすけ)さんはHOとして江の川-中大-JR西日本でプレー。吹田RSのコーチとして娘を優秀なラグビーウーマンに育てた。
ドリームセブン:鹿尾みなみ(東京山九フェニックス)23歳 筑紫丘高-筑波大/RKUグレース-クボタ

トレードマークは真っ赤なヘッドキャップ。ボールを持てば、アタックラインの内でも外でもスペースに勝負。軽快なステップとコンタクトの強さでDFを突破してゴールラインを攻略。トライを取ればMCが「バンビ!」とニックネームを叫んでくれる!
太陽生命シリーズには筑紫丘高3年の2015年東京大会にチャレンジチームでデビュー。今回の6Tでシリーズ通算トライは58となり、原わか花に次ぐ歴代5位に浮上した。
ネクストセブン:高橋李実(東京山九フェニックス)19歳 石見智翠館-法大2年

突破してゲーム作ってトライも取り切るセンスが光るモモミは千葉県から石見智翠館高へ進学。高校時代は主要大会ではなかなか活躍できなかったが、法大入学を機に東京山九フェニックスに加わり才能が開花。天性のスペース感覚で前へ仕掛けながらボールを動かし、トライに絡む。
ネクストセブン:角川穂乃花(横浜TKM)19歳 群馬・大泉高-戸塚共立ゆかりの里

東京大会の1T、静岡大会の3Tから今大会は6Tと大ブレイクしたツノカワ。最前線でハードワークを重ね、ボールを持てば滑らかな加速でタックラーを紙一重でかわしトライを取り切る。山口真理恵や原わか花のような疾走感、谷口令子や保井沙予のようなパワフル感とも違う、いつのまにかトライラインを攻略しているランニングセンスはTKMの先輩・平野恵里子を彷彿とさせる切れ味。今後注目のフィニッシャーだ。
ネクストセブン:芳山彩未(東京山九フェニックス)18歳 石見智翠館高-法大1年

ボールを持てば外のスペースで果敢に勝負。ラインアウトでは抜群のバネで相手ボールにもチャレンジしてボールを奪取。アミはセットプレーでもアンストラクチャーでも活躍するトータルフットボーラーだ。昨年11月にはサクラフィフティーンのチャレンジマッチにも追加招集され代表組の洗礼を浴びたが、その経験を糧に半年後にはシニアの大会で大活躍。伸びしろは大!
ネクストセブン:ンドカ・ジェニファ(グレース)20歳 昌平高-流経大3年

静岡大会の4位から一転、今大会はチャレンジトロフィーに回ったグレース。4年生が教育実習でごっそり抜けた苦しい編成での戦いにあって、ジェニファの細かいステップからの重量感ある突進はチームを救った。今大会はPTS戦の3Tなど4Tをスコア。
小学2年から高校3年間まで打ち込んだバスケットボールではウインターカップ出場。静止状態からの急加速はバスケ仕込みで、倒れない強さは抜群だ。珍しい姓ンドカはナイジェリア出身の父から。「意味は…分かりません。今度聞いてきます(笑)」
ネクストセブン:中村沙弥(四国大)

身長177センチは大会最長身。早くから才能は期待され、太陽生命シリーズには石見智翠館高2年の2018年にデビューしたが、高2、高3で相次いで両膝の前十字靱帯断裂の大けが。大学1年のシーズンはコロナ禍で大会がなくなり、今季はようやく巡ってきたシニアデビューのシーズン。東京、静岡に続き今大会もトライをあげた。「得意なプレーはボールキャリーとハンドオフ。オフロードパスをもっと有効に使えるようになりたい」「試合中、うまくいかないことがあるとブルーになりそうになるけど、頭の中をポジティブにするように努めています」
ネクストセブン:矢崎桜子(チャレンジ)17歳 関東学院六浦高3年

チャレンジチームにSDSメンバーとして参加。出場時間は長くなかったが、東京五輪を目指すシニアメンバーに負けない意欲的なプレーをみせた。ながととの決勝、7-8の劣勢でなかなか得点できずに膠着していた後半6分、交代で入った最初のプレーで左タッチライン添いをダイナミックにゲイン。倒れかけても前進し、原わか花の逆転トライをセットアップした激走はチャレンジチーム優勝への重要なピースだった。東京五輪を目指すサクラセブンズに続き、2024年パリを目指す新世代の存在をアピールした!
ネクストセブン:杉本七海(アルカス熊谷)20歳 石見智翠館-立正大3年

東京山九フェニックスとの5位決定戦、キックオフ直後に自陣22m線手前からセンセーショナルな80m独走の先制トライ&ゴール。DAY1のフェニックス戦でも先制された直後にチーム初得点となるトライを左サイド70m独走で決めた。伸びやかなランとクールな状況判断。地元・熊谷で初めて太陽生命シリーズ開催を迎えたアルカスで、地元サポーターを最も沸かせた一人だった。
![]() (おおとものぶひこ) 1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。 プロフィールページへ |