サイモンジャパン、ポジティブ・アグレッシヴに始動! | ラグビージャパン365

サイモンジャパン、ポジティブ・アグレッシヴに始動!

2022/11/10

文●大友信彦


男子セブンズが元気になってきた。

11月4-6日に行われたHSBCセブンズワールドシリーズ2022-2023第1戦香港大会、男子日本はプール戦でフィジーに12-59、アメリカに22-35、スペインに19-33、3戦全敗に終わったものの、スリリングでエキサイティングなアタックでトライを連発。これから始まるセブンズの国際シーズンへ期待を抱かせる内容をみせた。
長く闇夜を彷徨していた男子セブンズにようやく訪れた復活の足音。

RJ365では、去る10月18日、サイモン・エイモー新HCの就任後、初めて公開された男子セブンズ日本代表チームの熊谷合宿の練習レポートをお届けする。

指示をするサイモン・エイモーHC

指示をするサイモン・エイモーHC


サイモン新HC就任後、最初の合宿は9月30日から10月6日まで沖縄で実施。今回の合宿は14日に集合、16日に国立競技場で行われた東京オリパラ1周年記念イベントでフィジー代表とスペシャルマッチを行い、その日のうちに熊谷へ戻り、22-23日のアジアシリーズ第1戦・タイ大会に向けて練習を再開していた。

スペシャルマッチ・吉澤太一

スペシャルマッチ・吉澤太一

練習開始の円陣

練習開始の円陣


2020年度早大主将の丸尾。英国でのプレーから帰国し、セブンズにチャレンジしている

2020年度早大主将の丸尾。英国でのプレーから帰国し、セブンズにチャレンジしている


公開された午後の練習は正味1時間強。印象的だったのはやはり、サイモン新HCの動きだ。

選手にドリルを与えながら、プレーの最中に何度も選手に質問を浴びせる。不用意なパスをインターセプトされたり、50/50のオフロードパスが通らなかったり……そういう場面があるとプレーを止めて「なぜそうなったの?」「なぜインターセプトされたの?」など、選手に具体的な問いを投げかけるのだ。

気になることには大きなアクションですぐ指摘と質問

気になることには大きなアクションですぐ指摘と質問


ゴムを引っ張る側も本気で。加納と津岡

ゴムを引っ張る側も本気で。加納と津岡

ボールを取り合うメニューを説明しながら「コンペティションだ」と強調

ボールを取り合うメニューを説明しながら「コンペティションだ」と強調


また、ドリルの一つ一つに競争の要素を強調。2対1でタックルとジャッカルの練習をするときは「全部コンペティションです。アタックはボールを取られないように本気でファイト。ディフェンスは本気で地面に倒すつもりで」という激しいリクエストが飛んでいた。

グラウンドから伝わってきたのは明るさでありポジティブな空気だ。
2020年のコロナ禍到来以降、男子セブンズの練習は断片的にしか公開されず、東京五輪以降はほぼ公開ナシ。比較するのは難しいが、選手たちの表情からも前向きなエネルギーが伝わってきた。
東京五輪では12カ国中11位と惨敗。今年のW杯のアジア予選では韓国にも敗れW杯全大会連続出場もストップ。そのまま突入したワールドシリーズでは1大会も8強に入れずコアチーム最下位……。

アップが終わり、サイモンメニューがスタート。グラウンドにサイモンの声が響き渡る

アップが終わり、サイモンメニューがスタート。グラウンドにサイモンの声が響き渡る

まるで光の見えない時間を過ごしてきた男子セブンズだが、この9月末、IRB(現WR)セブンズプレイヤー・オブ・ザ・イヤーにも選ばれ、イングランド代表を率いてリオ五輪では銀メダルを獲得。選手とコーチの両方で世界最高の舞台を知る名将が着任。
ポジティブな空気に包まれた熊谷合宿の練習からは、男子セブンズの夜明けの気配が感じられた。

練習後、サイモンHCとベテラン3選手がメディアの取材に応じた。


サイモン・エイモーHC

サイモン・エイモーHC

サイモン・エイモーHC


「最初の沖縄合宿では、ゲームをどう運ぶかについてのイメージを合わせる作業をしました。今は日本のセブンズのアイデンティティを作っていく段階。日本ラグビーのカルチャーと、日本の選手が持っているスキルを組み合わせて、アイデンティティをどう作っていくかということをやりました。あわせて、フィットネスの改善も図りました。今週末にはすぐアジアシリーズが始まるし、フィットネスをあげていかないと大会に勝っていくのは難しいです」

――チームのスローガン、テーマは決めましたか。


「はい。『FAST&BRAVE』という言葉を掲げました。速く、勇敢に、ということです。もうひとつ大事にしたいのはマインドセット。チャレンジすればミスが出るかもしれないけれど、これから3カ月間は、そこから勉強していけばいい。この期間はミスから学ぶことが大事です」


――練習中、選手に問いかける場面が多かったのが印象的でした。


「ちょっとでもベターになるためには、選手が話すこと、選手同士で話し合うことが大切です。なぜミスしたのか、その理由を選手同士が話し合うことが重要。いつも話し合うことを求めています」

選手の動きに目を光らせる

選手の動きに目を光らせる

――選手の姿勢にはどんな印象を持っていますか。また、今後はスコッドの追加や見直しはいつ頃に考えていますか。


「素晴らしい努力を見せてくれています。プロフェッショナルな姿勢で臨んでくれている。今はミステイクを恐れずに、努力を重ねて学んでいく時期です。

そのあとの2ヵ月は、選手をシャッフルして、アイデンティティをより明確に作り上げる時期に入っていくことになるでしょう。

スケジュールはかなり忙しいですね。今週末のタイ大会でアジアシリーズが始まり、11月4-6日はワールドシリーズの香港セブンズ。そのあとまたアジアシリーズに戻って12―13日は韓国、26―27日はドバイ。次はワールドシリーズのドバイ、ケープタウンと続きます。たくさん大会がある。その中で、多くの選手に機会を与えることが大切です。ワールドシリーズにはたくさんのチームがやってきて、たくさんの試合をする。世界中に、若い選手もたくさんいる。そういうチーム、選手たちと対戦を重ねる中で、自分が成長することに対してハングリーになってほしい」

――新戦力のトレーニングメンバーにはセブンズ経験のあまりない丸尾崇将(23、神奈川タマリバ=2020年度早大主将)も入っています。期待と評価を聞かせて下さい。


「丸尾だけでなく、薬師寺晃(23、横浜キヤノンイーグルス)、古賀由教(24、リコーブラックラムズ東京)、栗原優(24、サムライセブン)……一番若い杉野太陽(20、九州共立大)はまだ20歳で、ブロンコテストで4分10秒という記録を出しました。スゴいよ! 見たことのない数字です。このように、楽しみな選手がまだまだたくさんいると思っています」

ブロンコテストで驚異のタイムを出した杉野太陽(右)

ブロンコテストで驚異のタイムを出した杉野太陽(右)


練習の締めは全員参加のDGコンペティション。林大成

練習の締めは全員参加のDGコンペティション。林大成


――練習の最後は全員でチーム対抗ドロップゴールコンペティション、普段キックを蹴らない選手にもチャレンジさせて、負けチームには罰ゲームでした。


「ドロップゴールはセブンズでは大切なスキルだからね。みんなに上手になってもらわなきゃ(笑)」


負けチームはスタージャンプ!

負けチームはスタージャンプ!

加納遼大(30、明治安田生命ホーリーズ)

サイモンジャパンのWS初陣となる初戦、フィジー戦に入場

サイモンジャパンのWS初陣となる初戦、フィジー戦に入場



――サイモンHCになってどんな変化を感じていますか


「戦い方も変わったし、マインドセットも変わった。すべて違いますね。中でも大きく代わったのはマインドセットです。練習で、たとえば50%の強度でやるメニューであっても、サイモンは本番のように熱くなることを好むんですね。なれ合いじゃなく、激しくやれと言ってくる。

加納遼大

加納遼大


東京五輪の前にも『Bee Rugby』という言葉を作って、蜂のように休まず走り続けようとしていましたが、走る量自体はそれと同じくらいあって、かつひとつひとつに激しさが求められる。練習の合間にも、サイモンから『それ、BRAVEじゃないよね?』といったチェックが入ります」


――サイモンの口癖は『BRAVE』ですか?


「あと『コンペティション』もよく言いますね。コンタクトの練習でも相手に優しくするとチェックされる。『全部コンペティション』と言われます」




――アジアシリーズの開幕が迫っています。


「この前、サイモンになって初めての試合(東京五輪オリパラ1周年記念イベントのフィジー戦)をしましたが、手応えがありました。試合には負けたけれど、ディフェンスもアタックもしつこくいけたし、ひとつひとつの接点でファイトできた。こちらのチームも始めたばかりだったけど、やりたいことがある程度通用した。これならワールドシリーズでもコンスタントにベスト8に入れるな、と手応えを感じました。今はサイモンも、結果がどうということよりも自分たちのやるべきことを確率させることを優先しているけれど、今取り組んでいることを出せれば、今回のアジアシリーズも絶対に優勝できると思います」

野口宜裕(27、セコムラガッツ)

野口宜裕(ワールドシリーズ・英国戦)

野口宜裕(ワールドシリーズ・英国戦)


――サイモンHCになってどんな変化を感じていますか。


「一番はマインドセットです。『日本人は外国相手に戦うとき、マインドセットの段階で負けている、だからいいものを持っているのに自分たちの良さを発揮できないんだ』と。『負け癖をなくせ』とも言われます。ディフェンスでも、抜かれたらあっさりと追いかけるのをやめるときが多いとか、『やっぱりダメか…と簡単に決めつけるな』と、映像も見せながら強く何度も言われました。

あとは、常に競争することですね。小さいことにも勝負の要素を取り入れる。ウォームアップのメニューひとつひとつ、スタートダッシュの一歩目とか、コンタクトの練習とかから。そういう積み重ねがゲームに生きるんだと。小さいことから勝ち癖をつけていくんだと。それをいつも言われてると、どんなことでも負けたくないと思いますね」


――昨シーズンは結果が出ず、厳しいシーズンでした。そこからの変化の手応えはいかがですか。


「みんな、ホントに頑張ってたと思います。でも結果が出ない。何でだろう……の繰り返しで、辛いシーズンでした。でも今は手応えを感じています。感じているし、自分たちも変わらないと勝てない。まずマインドの部分から変わらないと。オリンピックも次は出られる保証はないですから」

香港セブンズ2022・英国戦

香港セブンズ2022・英国戦

――サイモンの指導ぶりをどう感じていますか。


「常に選手をポジティブにさせてくれます。怒ることはまずないですね。良いプレーを見つけては『ナイス、ナイス』と言ってくれる。ミスがあっても、チャレンジしてるならミスは良いこと、と言ってくれる。人柄なんでしょうね、本当に人をポジティブにしてくれるコーチだと思います」


吉澤太一(31、NTTドコモレッドハリケーンズ大阪)

――サイモンHCの印象を聞かせて下さい。


吉澤太一

吉澤太一


「すごくアグレッシブですね。前のHCと比べて、アグレッシブなプレーを求めている。アタックでもディフェンスでも前へ前へと行く姿勢を求められていると感じます。前のHC(代行)は、ミスなく、精度高くプレーしろ、と要求しているところがあった。今はミスしてもいいから前に出ろということを選手に意識させている。ミスがあっても、前に出ていたならサイモンは褒めてくれます」


――練習中、選手に問いかける場面が多い印象を受けました。


「選手に考えさせるコーチですね。プレーするのは選手なんだし、自分が答えを言うんじゃなく、選手自身が答えを出すように向けてくるなと感じます。
プレー中もコミュニケーションをすごく大事にしますね。パスする相手を見ないでオフロードパスを放ったりするとその都度注意されますね。『もっと(パスする)相手を見よう』と」

――選手にも変化は起きていますか。


「選手も前向きで、今はやる気が満ち満ちていると思います。自分も、新しい選手に負けないようにしなきゃ、という気持ちがあります。
個人としても、この2年はいろいろあった。コカ・コーラのチームがなくなって、ドコモに拾っていただいて。コーラへも恩返しをしたいし、セブンズで活躍すれば、ドコモのチームにも貢献できると思うし、今は日本のセブンズの価値を高めることに力を尽くしたいと思っています」

タックルされながら前に出る吉澤

タックルされながら前に出る吉澤


船出は厳しかった。アジアシリーズ初戦のタイ大会は決勝で香港に敗れ2位発進。続くワールドシリーズ第1戦の香港セブンズも、プール戦は良い戦いを見せたものの3戦全敗。最終日の9位以下トーナメントは、初戦でサイモンHCの母国英国に0-29で大敗。13位以下トーナメント準決勝では、アジアシリーズ第1戦で敗れた香港を24-17で破り、サイモン体制で初のワールドシリーズ勝利をあげたものの、最後の13位決定戦ではチャレンジャーシリーズ優勝でコアチームに昇格してきたウルグアイ(ワールドカップ10位)に10-33で敗れた。
新戦力を得た新生ジャパンは確実にチーム力を向上させているが、良いパフォーマンスを3日間続けるセブンズのタフさを身につけるのはまだこれからだ。

香港セブンズ・ギャラリー

初代表の丸尾

初代表の丸尾


初代表の薬師寺

初代表の薬師寺


初代表の栗原

初代表の栗原


1月のマラガ大会以来のワールドシリーズとなった林

1月のマラガ大会以来のワールドシリーズとなった林


鮮烈な90m独走トライを決めた薬師寺

鮮烈な90m独走トライを決めた薬師寺


スペイン戦、初代表で60m独走トライを決めた栗原

スペイン戦、初代表で60m独走トライを決めた栗原


アジアセブンズシリーズは12-13日に韓国、26-27日にUAE大会、そして12月2-3日にはワールドシリーズ第2戦となるドバイ大会、翌週9-11日には第3戦のケープタウン大会とタフな日程が続く。まずはアジアシリーズ残り2戦でアジア王座を奪還し、成長した姿で、再開するワールドシリーズに乗り込みたい。
※10日、アジアシリーズ第2戦・韓国大会(12-13日)に向けた韓国遠征メンバーが発表された。
WS香港大会からの連続参加は中川、盛田、吉澤、丸尾、朝長、宮上、古賀の7人。新たに昨季のWSで主力だった石井勇輝、石田大河、ティモ・スフィア、6月のSDS合宿から参加してきたトゥマワナ・タファイ、そして10月からトレーニングメンバーとして合宿に参加してきた杉野太陽が初めて遠征メンバー入りした。
なお、この遠征では、10月25ー30日の熊谷合宿からスポットコーチとして加わっているパウロ・ナワル氏が指揮を執る。今季はワールドシリーズとアジアシリーズが並行して行われるなど大会が多く、大人数のスコッドを強化しながら戦っていくことになる。そのため、長年セブンズ日本代表のHCやスポットコーチを務めてきたナワル氏が、サイモンHCをサポートすることになったそうだ。

大友信彦
(おおとものぶひこ)

1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。

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