風とどうつきあうか。
1月2日の大学選手権準決勝は、それを深く考えさせられる試合だった。
この日、関東一円を襲ったのは、強い南風だった。
南風なら普通は気温が上がる。実際、この日の東京の最高気温は14度を超えたが、最大風速は16mを超えた。風速1mにつき体感温度は1度下がるから、体感温度は氷点下並だった。実際、同じ日に行われた箱根駅伝では、低体温症でリタイアするチームが2校も出た。あらゆる気象条件に対応できるよう準備しているはずの駅伝伝統校でさえ対応できなかったほど、セオリー破りの強風だった。
第1試合の帝京大は、試合前のトスに勝つと、あえて風下を選択した。
「正直、早稲田に対して後半最後の20分間は、完全に崩していける自信があった。問題は、前半をどう戦うか。私たちは、試合の30分前に、全員でフィールドに出て確認しました。風だけじゃなく、太陽もまともに目に入る。だけど、あえて風下を選択して、ガマンして戦う。それも、守りのガマンじゃなく、攻撃的なガマン。受けに回らないこと」(岩出監督)
正面に太陽を見て、まともに強風を受ける。帝京大は前半、相手キックを見失っては攻め込まれ、チャンスのPKをタッチに蹴れば風で押し戻されてノータッチに。完全に負のスパイラルにはまっていたように見えた。
風上の早大は前半16分までに10-0とリードする。
しかし、リードされた帝京大に、焦る様子は見えなかった。
「前半はガマンしていく。それを全員が分かっていましたから。自分たちのラグビーさえしていれば、チャンスはくると思っていた」とSO中村亮土は言った。
――あの風なら、20点差以内ならOKって感じかな?
そう聞くと、中村は答えた。
「点数はまったく意識していませんでした。それよりも、焦らず、自分たちのラグビーをしていればチャンスはくる。もしも点差をつけられたとしても、後半に自分たちのラグビーをすれば大丈夫」
その言葉通り、落ち着いて試合を進めた帝京大は、前半20分過ぎからリズムを取り戻し、早大陣に進入。30分に相手ゴール前スクラムで相手ボールを奪い、LO小瀧がトライを返す。SO中村がゴールを決め、10-7。風上の早大が次に帝京大ゴール前に入ったのは39分。ラインアウトのボールを帝京大FWが確保すると同時に、場内にはハーフタイムのホーンが鳴った。
「風上の前半に、もう1本か2本、トライを取って折り返さないといけなかった。そこがすべて」
早大の後藤監督が嘆いた通り、ハーフタイムで試合の帰趨は見えていた。
後半、風上からキックオフした帝京大は、そのまま攻め続け、2分にFLイラウアが逆転トライ。
9分に中村がPGを加えると、15分にNo8李、22分にWTB小野と、着実にトライで加点し、31-10。後半26分には、ラインアウトのこぼれ球を拾ったイラウアが再びトライ。
35分には、インゴールに入った帝京FB竹田のグラウンディングを早大WTB荻野が身体をねじ込んで阻止するなど、最後まで早大は試合を捨てなかった。しかし、結果は残酷だった。
38-10のままフルタイムのホーンが鳴ったとき、スタンドからは、ため息も歓声も、さしてあがらなかった。