1月13日、大学ラグビー日本一を決める、第60回全国大学ラグビー選手権決勝が国立競技場で行われた。決勝に駒を進めたのは、3連覇を目指す帝京大学(関東対抗戦1位)と創部100周年で5大会ぶり14回目の優勝を目指す明治大学(関東対抗戦2位)。
帝京は、江良颯キャプテン、奥井章仁バイスキャプテンは大阪桐蔭2年時に初優勝の立役者の二人。高校でも果たした日本一を大学でも果たせるか。明治は廣瀬雄也キャプテンが準決勝からチームに戻ってきて、京産大との準決勝に快勝し、いい流れで決勝に進んできた。明治FWがどこまで帝京FWと対峙し、得点力があるBKにボールを供給できるか注目された。
前半3分、WTB高本とむのトライで帝京が先制すると、セットプレーで帝京が優位に試合を進め、前半26分、敵陣のラインアウトからモールを組むとHO江良颯がボールを持ち出しトライ。14-0とリードを広げた。しかし、ここで雷雨のため試合が55分間にわたって中断を余儀なくされてしまう。
この中断で悪い流れを断ち切った明治は、35分にCTB秋濱悠太がトライを決めると、前半終了間際の39分にはWTB海老澤琥珀がトライを決め14-12と2点差にして前半を終えた。
後半、気温が下がり雨がみぞれ、雪に変わり厳しいコンディションとなる。明治は自陣でのミスとペナルティーを犯し、帝京・FB山口秦輝にPGを2本決められてしまう。
59分、帝京はWTB小村真也が敵陣10m付近で相手ボールが乱れたところキックスキルを見せて前方にキック。必死に明治も戻るもボールが手につかず、帝京が敵陣ゴール前5m付近でボールをキープ。帝京SH李錦寿がすぐさまBKに展開。CTB戒田慶都がトライを決め、大きな追加点が帝京に入った。
試合も終盤に入り明治は反撃に転ずるも、セットプレー、スクラムでペナルティを取られてなかなか自陣から脱出することができない。74分、明治は自陣22m内側のスクラムでペナルティー。帝京はゴール前ラインアウトのチャンス。FL青木恵斗がボールをキャッチしモールを組む帝京。先制トライを決めた江良がここでもボールを持ち出し勝負を決めるトライ。結局、このまま試合終了。34-15で帝京大学が勝利し、3大会連続12回目の優勝を果たした。
帝京大学 相馬朋和監督
雷の中断もあり、雪も降る中、本当に明治さんの厳しいプレッシャーを受けながらも、いつもとは違うプレッシャーを受けた学生たちを見ながら、ただやってきたことを信じて1秒1秒を積み重ねていく、本当にその姿を誇らしく、楽しく、嬉しく試合を見させてもらいました。
明治大学さんにはジュニア選手権でやられ本当に勝ったり負けたりしながら1年間かけて、最後こうやってかつことができて本当に嬉しく思います。江良キャプテンが率いたこのチームは本当に素晴らしいチームだと思います。
――攻められている時に笑みを浮かべる表情が見られたのは
ピンチになればなるほど、江良や奥井が楽しそうにプレーするので、プレーの質も変わるし、周りの選手が疲れれば疲れるほど、彼らは生き生きとする本当に頼もしい選手たちだなと、そんな気持ちが顔に出たんではないかなと。
――中断の時間をどう過ごすように指示をしたか
実は私は以前、雷でキックオフが遅れた経験がありました。雷雲がどういう位置なのか、30分以内に(試合を)するかしないかという判断もします。試合再開の前にウォーミングアップの時間が取られることもわかっていましたし、判断が二転三転するということも把握していたので、そういうことを事前に選手たちに伝えて、今こうなっているけど、変わるかもしれないからそのつもりで準備しようと。まずはいつもと違う環境に置くことが大事だと思っていました。
ロッカールームではなくて室内練習場に少し広いスペースがあったので、そこに椅子を並べて、そこからもう1回リセットし直して、気持ちを切ることが一番不安だったし、難しいかなと思ったんですけど、そこは岩出先生にお任せして、1回リラックスして、ジャージを脱げる子は脱いで、ウォーミングアップではないするのか、とか天気の状況とか、気温の状況とか、最初は外に出て10分間ウォーミングアップする予定だったのを全部中で済ませて外にとか。他のスタッフの皆さんと力を合わせて、温かい飲み物を準備したいとか、そんなできることをして、再開後、すぐトライをとってのでうまくいったと思ったんですけど、その後2つ取られて、ん、という感じでしたけど。
帝京大学 江良颯キャプテン
本当に帝京の真紅のジャージを着ているメンバーが常に仲間のために体を張り続けよう、走り続けようというのが80分間言葉に出続けた試合でした。本当に自分自身もいろんな思いというか、感謝というのがすごく大きくて、僕たち1年間、「ワン・ハート」という目標を掲げ、やってきたんですけど、本当に最後全員が観客席から降りて下で喜んでいる姿を見ると、1年間積み上げてきたものは間違いないんだなという実感がすごく湧いて、自分の中で涙が出てきたのがすごく印象的で本当に嬉しかったです。
――中断について
僕も初めての経験でどうチームをもう1回ギアをあげようかなというのをすごく考えながらやっていたんですけど、岩出先生が、時間が伸びたということをもう1回自分たちのものにして、本来なら80分で終わるところを、100分とか伸びたというのが、自分たちにとって嬉しいことだということを伝えていただいて、そう考えてみればみんな大丈夫になるんだなという、言葉の重みをというか、すごく感じて、もう1回この仲間とできる喜びを噛み締めながらラグビー出来たかなと思います。
――ハーフタイム
ゲームの運び方であったり、相馬さんや岩出先生が上から見る中でどうなっているのかというのをまず教えていただいて、最後には本当にあと40分しかない最高の舞台で、仲間の思いを背負って戦い続けるようという話でまとめられました。詳しく全部がこう、と説明するというより、大きな事ですね。基本的には今まで1年間やってきたことをやろうと基本に戻れたので、そのような言葉を僕からも伝えました。
――接点で明治を上回れたのは
僕たちも本当にセットプレー、フィジカルというのを土台として帝京のラグビーを作り上げてきているので、そこをまず逃げずに戦い続けようという話をして、それが前任、同じように入れて、明治さんに圧力かけたのかと思います。
――後半、ペナルティーでPGを選択したのは
ファイナルでは、簡単にトライを取れるというのは思っていませんし、スコアできるところはスコアするというのはあって、山口(秦輝)がすごくいいキッカーなので敵陣に入ればどこでもきれいに決めれるような選手なので自信をもってPGを選択しました。
――後半のトライについて
ここで取れば、試合が決まると思っていたので取った時はすごく嬉しかったですし、みんなでモールを押し続けて、空いたスペースに僕が飛び込んだだけですけど、みんなで喜んでいる姿を見るとやっぱり嬉しかったです。でも自分は足がつってしまって、痛すぎて喜びっていうのは正直感じれなかった。両足つっていました。モールから飛び込んだときにはもうつっていて、やばいと思ったんですけど、もうやるしかないと思っていました。
――試合が終わった瞬間の気持ち
1年間仲間とともに歩んできたプロセスというのは間違いじゃなかったというのが、すごく本当に嬉しくでみんなで作り上げてきたものだったんで、本当に幸せだなという実感が湧いてきました。今までに味わったこと無いような気持ちでした。本当に仲間に感謝しかないと思いました。
――コロナに直面した世代
コロナという環境の中で、僕自身もそうですけど、多分帝京大学ラグビー部もラグビーができることの幸せというのを全然感じずにラグビーをしていたので、本当に当たり前のことが当たり前じゃないんだということに気付かされました。そして、もう一度ラグビーに向ける時間というのも多くなりましたし、本当に1日1日大事にしないといけないという自覚が芽生えました。
コロナによって練習の時間なども分けなければなりませんでした。それはABCDの中で、CDの子がコロナ出てしまうとABも練習ができなくなってしまうような状況だったからです。そうやって練習の時間を綺麗にわけることで、仲間意識がすごく薄くなってしまったのがコロナによる悪影響の一つだったと思います。
4年生の中で話して、仲間意識を高めるために、僕たちは1年間「one heart」ということを目標に掲げて活動してきたので、仲間の意識が増えて、それが帝京大学の強みになったかなと思います。
――試合ではハンドリングエラーなども多かったが
みんなの顔とか、行動をいつもと比べるんですけど、緊張かなというのが一番大きくて、練習でも、前日であったり、今週1週間通して本当にリラックスしていつもやればいいところを緊張がすごく目立って、いつもの指先の感覚であったり、(ボールを)落としてしまうことがこの1週間すごく多かったんでs、いつもと比べると緊張かなと思います。
(決勝は)大学生だと憧れの舞台ですし、僕自身もあんまり緊張するプレイヤーじゃないんですけど、昨日のよるからあまり寝れませんでした。朝は緊張しているな、久しぶりな感覚やなというのがすごくあっがんで、僕自身緊張しているということは、みんなはもっと緊張しているなとおもっていたんでそこは大きいと思います。
明治大学 神鳥裕之監督
いろんなことがあった中でも、最後まで試合ができてみなさんに感謝したい。帝京大3連覇おめでとうございます。やはり強かったです。なんとか超えたいという思いでやってきましたが勝つことができなかった。
監督としても責任を感じていますし、勝たせてあげることができず申し訳ない気持ちでいっぱいです。
100周年という大きなプレッシャーの中で、廣瀬キャプテンを中心に、ここまで戦ってきたことを誇りに思います。彼らの次のチャレンジを心から応援したい。3年生以下の選手は、4年生の姿を見て、必ずまた成長してくれると思いますし、リベンジを果たせるような強いチームを作っていきたい。
――中断中はどういうことをしていた?
再開する時間を確認しながら、それは刻々と変化していく中で難しかったんですが、前半20分の戦い方を整理したり、ロッカー横に人工芝の身体を動かす場所があるので、SCコーチのリードがあったりして、なんとか上手く時間を作って行くやり方をしていた。
――やり残したことは
選手権において、準々決勝からスタートして、準決勝で廣瀬キャプテンが戻ってきて いい形で決勝に向かって、1戦1戦成長していく姿を見ていましたし、今持っている力を十分に発揮できたと思いますし、戦った選手は胸を張ってほしい。
ただ勝てなかったという事実に関しては、残ったメンバーが来年以降に持っていってほしい。今年野選手たちは持っている力を全部出したと信じたい。
――スクラムでプレッシャーを受けた?
相手の強みだが、我々もこだわっていたこところでもありました。当然、圧倒できる力関係ではないと思っていました。最後の最後、少しやられた印象はあると思うが、我々はスクラムに関してはしっかりやりきれたという思いもありましたので、後半変わったメンバーたちの思いも含めて次につなげていきたい。
明治大学 CTB廣瀬雄也キャプテン
この前の地震も今日の天気もそうですが、最後まで明治でラグビーができたこと、決勝という素晴らしい舞台で、最後までラグビーができたことを幸せですし、帝京大には敵わなかったですが、100周年という節目で、今のメンバーに出会えて嬉しいし、まったく悔いは無いです。後輩たちはこの悔しさをバネに、もう100年続くように明治の伝統を継承してほしいなと思います。
――大学選手権で雷の影響で初めて中断したが
雪が降って試合をしたことは、この4年間なくて、明治の中のグラウンドはリラックスしていたし、雪を見て、雪の早明戦じゃないですけど、そういうのを思い出しながら、今、この瞬間、ラグビーできることをみんな楽しんでいました。
55分、間が空いているときは、明治としてはあまり流れよくなかったのでそこを断ち切れた。そこをポジティブに捉えながら、また、お互いに難しい中、入りは大事になってくるし一気に波に乗れるんじゃないかなと話していたので、ネガティブじゃなかった。(中断中は)身体を動かしていた。
――前半、PG狙わずタッチに蹴った
(山本)嶺二郎を中心に、モールを組みたい、押せる自信がある(と話していた)。3点刻む戦い方もありだが、明治のプライド、重戦車のところは、嶺二郎がFWを4年間ひっぱってくれていて、自信を持っていたので、BKの僕としては嶺二郎が持っている言葉を信じた。
(後半は)15点差だったので2トライ1ゴール差にするために、ショットを狙った。明治のプライドにこだわるところと戦うところと冷静に判断できた。
――点差が広がった終盤はどういうマインドだった
点差を気にせず、自分たちがやってきたこと、準備してきたことを出せば前半2トライ取れたようにしっかり通用することがわかっていた。ただ帝京さんのプレッシャーに圧力がかかってあまりうまくいくことはなかったが、最後まで焦ることなく紫紺を着るものとしてプライドを持って戦おうという話をしていた。
――並んでいたときに泣いていたがどういう感情でした
やっぱりスタンドを見たときに、4年間、ファンの人は、もっと(長い間)明治を変わらず応援していただいて、(自分が)明治に入る前からずっと応援してくれていてメッセージもくれていた。
ファンの顔を見たときに、100周年という節目で優勝した姿を見せられなかった悔しさと申し訳なさがこみ上がってきた。その上の4階席を見ると、同期含めて部員たちがいて、すごく手を振ってくれていたし、最後は自分の名前をコールしてくれて、本当に、このチームで主将をやらせていただいて、この明治大を選んでよかったなという思いが湧いてきて涙が出た。
――前半はいい流れだったが、後半は相手のペースになってしまった
ずっと自陣でラグビーをしてしまった。やっぱりペナルティーの数が増えてしまうと、相手に精度の高いキッカーもいて、3点を刻まれて、精神的にも点数的にも少しずつ勢いに乗って、ちょっとずつ下がっているつもりはないが、点差が開いてくるとマインドも変わってくるし、後半の入りのところで帝京さんに流れをつかまれたかなと思います。