リーグワン・プレーオフ展望―ワイルドナイツ、ブレイブルーパス、サンゴリアス、イーグルス、今年の戦いからチームの特性をあぶり出す! | ラグビージャパン365

リーグワン・プレーオフ展望―ワイルドナイツ、ブレイブルーパス、サンゴリアス、イーグルス、今年の戦いからチームの特性をあぶり出す!

2024/05/17

解説●後藤翔太 構成●大友信彦


こんにちは、翔太です。
リーグワンは総当たり戦が終了。ここからはプレーオフと入替戦というポストシーズンの戦いが始まります。
ポストシーズンの戦いを展望する前に、すでにシーズンを終えたチームについて少し触れたいと思います。
僕にとって感慨深かったのは、矢富勇毅選手の引退と、ヤンブーこと山下裕史選手のトップリーグ/リーグワン最多試合出場記録更新です。

矢富勇毅の引退と山下裕史の最多出場記録更新

矢富選手の引退は僕にとって寝耳に水というか青天の霹靂というか、驚きました。まだまだやれるし、本人も「40歳までプレーする」と言っていたし、当然プレーを続けてくれると思っていました。


僕にとっては大学時代から、本当に嫌な存在でした(褒め言葉ですよ)。矢富は僕の2学年下、大学3年になって、田原耕太郎さんが卒業して、やっとSHのレギュラーを取れるぞ、と思っていた矢先に入ってきた。ポジションを取られるんじゃないかと必死でした。矢富は僕にない身体能力、アタックセンスを持っていたし、本当にタフなライバルでした。

矢富勇毅

矢富勇毅



今振り返っても、大学時代は日常の会話をした覚えはありません。覚えているのはお互いに会話せず、相手より少しでも長く練習してやろうと真っ暗になった上井草でずっと練習していたことです。ホント、SHなんかやらないで他のポジションで出てくれよ~と思ったものです。もちろん卒業したあとは仲良いですよ(笑)。そんな時代をともに過ごした選手が、これだけ進化したラグビーの第一線でプレーし続けてくれたことは本当に嬉しい。39歳になっても衰えないパフォーマンス、判断力……自分も一緒に肯定されているような気持ちになります。引退という決断は残念ですが、ここまでの努力に心から敬意をお伝えするとともに、次のステージでの活躍に期待したいと思います。

山下裕史

山下裕史



そしてヤンブーこと山下裕史選手の最多出場記録更新です。これはもう、手放しで称賛したい。大拍手を贈りたい。これは本欄で何度か紹介していることですが、僕は「やんぶー」の命名者なんです。僕が勤務していた神戸製鋼の資材部に、V7時代のPR山下さん、初代ヤンブーさんがいらして「今度PRに山下という選手が入ってきました」と紹介すると「じゃあお前もヤンブーだ」となり、それを僕が広めたのです。これは僕の神戸というチームへ残した貢献のひとつだと思っています。

それにしても、2008年から16シーズン、負荷の大きなPRというポジションで試合に出続けたことは本当にスゴいことです。今回「178」という試合数が紹介されましたが、トップリーグ時代のプレーオフやワイルドカードトーナメント、日本選手権、日本代表やスーパーラグビーのチーフス、サンウルブズで出場した試合数はカウントされていません。全部合わせたらどんな数字になるのか、想像もつきません。



ヤンブーのスゴいところは身体の強さ、力の使い方、PRとしてのスキルはもちろんですが、僕はメンタルの安定感をあげたい。感情の起伏がないんです。僕がよく覚えているのは、去年の東葛戦の試合前に話したとき『いやあ、今日負けたら入替戦、緊張しますわ~』と、あっけらかんと話していたことです。不安を見せないとか、自分を大きく見せようとか、そういう自己演出が一切ない。いつも淡々としている。僕は一喜一憂してしまう方なので余計にヤンブーのその安定感がスゴいなあと思ってしまう。

トップリーグ/リーグワンの最多出場ランキングは1位がヤンブーで、2位が久富雄一さん、3位が山村亮さん、3人ともPRなんですね。これも嬉しい。ヤンブーは来季も現役を続行すると表明してくれているので、もう誰にも抜かれないくらいのところまで記録を更新していってほしいですね。お疲れ様でした、そしてこれからもガンバってくださいとお伝えしたいです。

ワイルドナイツ―トライ数、ディフェンス突破数、オフロードパス数がすべて1位

さて、ここから戦いはプレーオフに入ります。今回は、プレーオフに進んだ4強の特徴、注目点について触れたいと思います。




まずワイルドナイツ。今季のリーグ戦でのパフォーマンスは本当に素晴らしいものでした。数字で見ても、あらゆる項目で他を圧倒している。ワイルドナイツは昨季もリーグ戦では圧倒的に強く、ブルーレヴズに1敗しただけの15勝1敗でリーグ戦を首位通過しましたが、数字で見るとトライ数は12チーム中5位、ディフェンス突破数は4位、オフロードパス数は6位でした。ところが今季はそれらの項目もすべて1位になっています。

顕著なのは得点の時間帯です。昨季までは前半は無理に攻めず、PGで得点を刻んでいって、後半に一気にトライを畳みかけるという戦い方でしたが、今季は試合の最初から全開で攻めている。試合時間を20分ずつ4分割してみると、最初の20分のトライ比率が昨季は18.4%だったのが今季は25%(ちょうど4分の1!)に増えている。試合時間の80分間、ずっと同じように相手にプレッシャーをかけ続けて、トライもあげ続けているんですね。もちろん、プレーオフで同じ戦い方をするかどうかは分かりません。前半の早い時間帯に、相手陣でPKを得たときにショットを狙うのかトライを狙って攻めるのか、どんな判断を下すかにまずは注目します。

大西樹

大西樹



戦術的な面では、攻撃に切れ目がないことがすごいと思います。表現が難しいのですが、アタックのフェーズに切れ目がない。通常、ボールキャリアーがタックルを受けてブレイクダウンが発生すると、ブレイクダウンを支配するためのセカンドマンレースと、次のフェーズのアタック/ディフェンスに備えるメークラインの競争が同時に生じます。しかしワイルドナイツの場合、セカンドマンレースに移ったと思ったらまたキャリアーが前進していたりする。NO8大西樹選手がよく見せるプレーですが、終わったと思ったフェイズが実は続いていたりする。

山沢京平

山沢京平



それによって、セカンドマンとしてブレイクダウンに寄ってきた選手が、有効と判断すればそのままSH役になってパスアウトしたりする。スピアーズ戦で山沢京平選手がラックから直接拾い上げて山沢拓也選手にラストパスを送った場面や、コロインベテ選手がラックから直接ピックして走る場面が象徴的です。僕はこのアタックを切れ目=継ぎ目がないという意味で「シームレスアタック」と呼んでいます。この呼び方が一般に定着するかどうかは別ですが、ワイルドナイツの特色として、切れ目のないアタックに注目してもらえると、試合を楽しめると思います。

イーグルスの得点源は実は・・・

ではワイルドナイツに挑むイーグルスはどんなチームでしょう。スタッツを見ると「普通のチーム」です。トライ数は6位、ラインブレイク数は8位、ディフェンス突破は7位、オフロードは10位。タックル成功率も7位。何か突出した強みがあるわけではない。そんな中で、1位になっている項目もあります。

モールを押し込むイーグルス

モールを押し込むイーグルス



それはテリトリーとポゼッション。地域獲得とボール支配の両項目では1位になっている。つまり、得点を狙える射程圏に進むことがうまい、かつボールを支配して得点チャンスを得ているということです。トライであれPGであれ得点して、相手キックオフを蹴られたところから効果的に陣地を戻し、かつ敵陣で再びボールを取り戻すことが効率的にできている。

沢木敬介監督

沢木敬介監督


もうひとつの特徴は、全トライ数の起点を調べると、トライの65%がラインアウトから生まれている。しかもその半数にあたる33%は1次攻撃から。この多くはラインアウトモールによるトライと解釈できます。イーグルスのアタックというと、沢木敬介監督が考案するトリックプレーのイメージが強いですが、実はラインアウトモールが大きな得点源なのです。


ただし、準決勝で対戦するワイルドナイツはラインアウトモールへのディフェンスがものすごく上手いんです。たとえば、ラインアウトに並ぶときに前方(タッチ寄り)を薄く、後方(15mライン寄り)を厚くして、前で捕らせて、相手が着地すると同時にプッシュしてタッチに押し出してしまう。そういう駆け引きがものすごく上手い。この辺はゲームの中でも虚々実々の駆け引きが行われるでしょう。準決勝の見どころのひとつです。


サンゴリアス―相手によって戦術を大きく変えることができる



次にサンゴリアスを見てみましょう。サンゴリアスの看板は「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」です。ボールをキープしてポゼッションアタックを仕掛け続けるイメージがありますが、田中澄憲監督が就任した昨季からはキックを重視。1試合平均のキック数は昨季の22―23回から今季は約28回に増えています。

ただ、サンゴリアスの特徴は試合によってキックの使い方が全然違うところです。最も多かったのは相模原戦の38回、最少は静岡戦の15、キック数には約2.5倍もの開きがありました。準決勝で対戦するブレイブルーパスとの対戦でも、第2節はキックを31回蹴ったのに対し、第15節は18回と少なかった。同じ相手にも戦術を大きく変えることができるのがサンゴリアスの特徴です。

尾崎秦雅

尾崎秦雅



もうひとつの特徴はトライまでのフェイズ数が分散していることです。起点についてはラインアウトが52%と半分を超えていますが、ラインアウトから1stフェイズでのトライは12%止まり。逆に5フェイズを重ねたトライが7%、11以上のフェイズを重ねてあげたものも4%ある。起点をラインアウト以外にも広げ、トライ総数で見ると、11以上のフェイズを重ねてあげたトライが11%に上ります。

フェイズを重ねたところでも統制の取れたアタックを続けることができるのがサンゴリアスの強み。それがよく現れているのは、フェイズを重ねたときのオプションの多さ。SHがパスを出すとき、パスを捕れる位置に走り込む選手が常に複数いて、DFのターゲットを絞らせない。これを繰り返すことによって、どこかで決定的なブレイクが生まれる。たとえばスピアーズ戦の後半最初の尾崎泰雅のトライでは、ゴール前の6次攻撃のラックから齋藤直人がボールを出したとき、パスを捕れる位置にLOホッキングス、PR中野幹、CTB尾崎泰雅、後方にSO髙本という4人が走り込んでオプションを作っていた。これは守りづらいです。

言い換えると、決定的なブレイク=トライが生まれるまで勤勉にボールをリサイクルし続けるブレイクダウンのハードワーク、ハーフ団の判断力を含めたスキルの正確さ、ポジションを問わない戦術理解力の高さがポイントになります。

紙一重のプレーを減らしたブレイブルーパス。クルセイダーズのカルチャーに通じるものかもしれない

そしてブレイブルーパス。今季はNZ代表SOモウンガ、FLフリゼルの加入が大きなインパクトを与えている印象が強いと思います。ではスタッツ的にはどんな変化があるでしょう。僕が注目しているのはオフロード数の変化です。ブレイブルーパスは昨年のオフロード数(1試合平均)は14.63でリーグ1位でした。それが今季は9.25に減少してリーグ4位と順位を落としている。率で言えば40%近く減少している。

トッド・ブラッカダーHC

トッド・ブラッカダーHC



オフロードパスは、ブレイクダウンを作らず、前に出るモメンタムを維持したままボールを繋いで一気にトライを取りきるプレーですが、一方で相手のタックルを受けた状態でパスを出すため、コントロールが乱れやすいというリスクがあります。パスの捕り手も、オフサイドラインのない状態で相手DFと併走しながらパスを捕るためカットされるリスクもある。紙一重のプレーでもあります。

今季のブレイブルーパスは、そういう紙一重のプレーを減らした。「このチャンスに一気にトライまで取りきろう」と逸るのではなく「取り急がず、丁寧に攻めよう」という意思の表れだと思います。実際、リーグ戦16試合の総得点は、昨季の558から今季は554へと減っています。リーグ全体の総得点は5,558から5,976に7.5%増えているので、ブレイブルーパスの得点の減少ぶりはより際立ちます。

モウンガとハーフ団を組むSH杉山優平

モウンガとハーフ団を組むSH杉山優平



スタッツを見ると、際だった特徴が見えないのがブレイブルーパスの特徴です。それはモウンガやブラックアダーHCが育ってきたクルセイダーズのカルチャーに通じるものかもしれません。観る者の目を奪うダイナミックなプレーよりも、当たり前の基本プレーを徹底して反復する。トライを取り急がず、50/50のプレーに走らず、実直なプレーを反復するスタイル。それが今季のブレイブルーパスの特徴だと思います。

以上、プレーオフを戦う4チームの特徴を俯瞰して見ました。ラグビーは面白いもので、同じルール、同じ人数で戦うにもかかわらずチームによって独自のスタイルがある。現代はテクノロジーが進化し、分析ソフトが進化してきて、戦術は均質化が進んでいるのですが、やはりチームカラーは残っている。もちろん、プレーオフになって戦術を変えるチームが現れる可能性もあるでしょう。それも含めた分析、準備がどうなされているかも注目点になると思います。HCの試合中の采配も含めて、見どころの多い、観る者にとっては楽しみの多いプレーオフ。どうぞ、一緒に楽しみましょう!

後藤翔太
(ごとう・しょうた)

1983年1月7日、大分県生まれ。小学2年のとき、大分ラグビースクールでラグビーを始める。桐蔭学園で主将を務め全国高校大会ベスト8。俊敏で勝ち気なSHとして活躍。早大に進み、U19日本代表。大学選手権に2度優勝。神戸製鋼で2005年度トップリーグ新人賞、2005年度、2006年度ベストフィフティーン受賞。2005年の南米遠征で日本代表入りし、ウルグアイ戦で初キャップ。日本代表キャップ8。2011年現役を引退。日本協会リソースコーチを経て、2018年日野レッドドルフィンズのテクニカルコーチを務める。2019年早稲田大学のコーチを務めた。現在はJスポーツでの解説をはじめ、講演会など幅広い活動をしている。


 

記事検索

バックナンバー

メールアドレス
パスワード
ページのトップへ