12月8日、OTOWAカップ 第35回 関東女子ラグビーフットボール大会 第6週の2試合が府中朝日フットボールパークで行われた。
OTOWAカップは前週まで東京山九フェニックスが3戦全勝勝ち点17で首位に立ち、横浜TKMと日体大が2勝1敗、RKUグレースと立正大アルカスが1勝1敗で続いていた。この日は日体大女子とRKUグレース、横浜TKMと立正大アルカスが、優勝争いそして全国大会出場への2枠をかけて戦うサバイバル戦という位置づけだった。
日体大 5‐17 RKUグレース
第1試合は日体大とグレース。大学生チームとして対戦を重ねてきたライバルチームの対戦だ。
試合は開始4分、日体大SO大内田夏月の突破から右サイドでパスを受けたWTB高橋夢来がグレースのゴールに迫るが、バッキングに戻ったグレースFL大坂咲来が猛タックルでノックオンさせるトライセービングタックル。このタックルを号令に、試合は互いのディフェンスが相手アタックを上回るタフなディフェンス戦になった。
序盤はグレースがスクラムで優位に立ちアタック。12分にはグレースCTB木田まこがビッグゲインするが、日体大SO大内田夏月が好タックルで阻む。21分にはグレースが日体大ゴールラインに肉薄してピック&ゴーを繰り返すが、日体大は必死のディフェンスでゴールラインを守り抜きゴールラインドロップアウト。
31分には日体大がスクラムで反則を奪い、相手ゴール前に攻め込みモールを押すがグレースFL冨岡日和がボールを強奪。日体大はさらに35分過ぎ、約20フェイズにわたって攻撃を継続するが、グレースは粘り強く守り抜き、前半は0-0で折り返した。
ゲームは後半に入って動いた。グレースはキックオフから日体大陣に入り、6分、右ラインアウトからFWが次々とフェイズを重ねたところでボールを持ったCTB木田がゴールポスト下に走り込んでポスト下にねじ込みトライ。CTB高井優花がコンバージョンも決めグレースが7点を先制する。
リードされた日体大も反撃に出るが、相手ゴール前まで攻め込んでもグレースDFの最終ラインを破れない。逆にグレースは27分、SO麻田瑞月の50:22キックで相手ゴール前に攻め込むと、No8城遥花、LO藤原海心の連続突破からCTB高井優花がトライ。自らコンバージョンも決め14-0とリードを広げる。
日体大は残り時間も僅かな37分、WTB江尻栞那が左隅にトライを返すが、SO大内田のコンバージョンは外れ14-5。日体大は逆転が難しくなってもボーナスポイントを求め、次のキックオフから反撃を試みるが、グレースは猛然とプレッシャーをかけ、逆にPKを奪う。残り時間なし、グレースは高井がPGを狙い、成功と同時にノーサイドのホイッスル。グレースが17-5で日体大に勝利した。
スターオブザマッチには先制トライとビッグゲインを繰り返したグレースCTB木田まこが、モストインプレッシブプレーヤーには攻守両面でアグレッシブなプレーを繰り返した日体大SO大内田夏月が選ばれた。
スターオブザマッチの木田まこ
「前半はトライを取りきれなかったけれど、私たちらしいラグビーをやりきろうと声を掛け合って後半に臨んで、トライを取り切れた。日体大には私たちが1年生のときに勝って以来ずっと負けていたけれど、今年はチームで『reborn』を掲げてやってきて、練習でもコンタクト、ブレイクダウンから徹底的に見直してきました」
木田はチームでは、リザーブのPR/No8/SO小林ちひろとともに数少ない社会人選手だが、年齢は安井ノエル主将らの4年生と同じだ。我孫子高時代にサクラxv候補を経験した木田だが、大学を2年時に中退していた。
「ケガが続いて、もうラグビーはやめることにして大学もやめました。でも、同期でグレースに入った仲間たちが今年4年生になって、彼女たちの力になりたい、同期の仲間と一緒に勝ちたいと思ってチームに戻りました。今は学生の選手が授業に出ている時間にアルバイトをして、練習に通っています」
バイト先は柏市内の某商業施設のファーストフードチェーン。「流経大からはちょっと遠いけど、たまにチームメートも来てくれたりします(笑)」
「日体大は同じ学生主体のチームなので、負けられない気持ちが強かった。このあとフェニックス、TKM、アルテミ・スターズとの試合が残っている。相手はFWも強いしBKのランも強い。外国人選手もいて強化しているけれど、ここから負けなしで勝っていかないと全国大会には行けませんからね」
グレース 安井ノエル主将
「日体大に勝ったのは私たちが1年のとき以来です。前半は0-0だったけど、コリジョンの部分で相手と戦っていなかった。今日の試合では『ウィン・ザ・コリジョン』というテーマを掲げていたけどそれができていなかった。後半は自分たちがやるべきことをできました。今年は『reborn』を掲げて、生まれ変わろうと練習の量も質も上げて取り組んできました。全国大会に行けるように、次からの試合も1つ1つ戦っていきます」
立正大アルカス 19‐43 YOKOHAMA TKM
試合はスクラムで優位に立ったTKMが序盤から攻勢に出た。5分、相手ゴール前に迫るとPR藤殊華が密集の中を突き抜けて先制トライ。TKMは9分にもアルカスのゴールに迫るが、ここはアルカスのDFが粘ってPKを獲得。アルカスはそこから攻め返すと、15分にWTB松井渓南が左隅にトライを返し、7-5とする。
しかし、時間が進むにつれ、TKMFWのスクラムの重圧が効き始める。
24分、TKMはスクラムでPKを奪うと相手ゴール前のラインアウトに持ち込みHO小島晴菜がトライ。29分には同じ展開からFL永岡萌がトライ。新加入のサモア代表SOキャシー・シアタガがコンバージョンをキッチリと決め、21-5とリードを広げる。
前半38分、立正大アルカスはPR伊藤仁那が反則の繰り返しでシンビン処分を受けるが、1人少なくなったことからアルカスは発奮。39分、自陣ラインアウトからFL長田いろはがビッグゲイン。さらにSO大塚朱紗のキックで相手ゴール前に攻め込み、47分にラインアウトからLO大久保芽衣がトライ。FB今釘小町のコンバージョンも決まり。アルカスが12-21と追い上げて前半を終える。
だが後半に入ると再びTKMが主導権を握る。体重75kgの左PR吉田菜美、84kgのHO小島晴菜、78kgの右PR藤殊華の第1列トリオがスクラムをグイグイ押し込み、PKを獲得しては相手ゴール前に陣地を進め、ラインアウトからアタック。3分にWTBアカニシ・ソコイワサ、8分にHO小島晴菜がトライ。31-12までリードを広げる。
スクラム戦で劣勢を強いられたアルカスだったが、ボールを獲得すればSH阿部恵、SO大塚朱紗というサクラ15のハーフ団を軸に多彩なアタックでTKM防御にプレッシャーをかける。大塚朱紗の50:22キックで相手ゴール前に攻め込み、19分にCTB小出深冬がトライ、今釘のコンバージョンも決まり、19-31と追い上げる。
しかし反撃もここまでだった。23分、TKMはWTB堀川侑愛が右隅にトライ。44分にはゴール前ラインアウトモールを押して途中出場のNo8ロエラ・ラディニヤブニがトライ。FB山本実がコンバージョンを決め、43-19とリードを広げて試合を終えた。
スターオブザマッチにはスクラムを押しまくり、先制トライも決めた藤殊華が、モストインプレッシブプレイヤーにはアルカスの果敢なアタックをリードした阿部恵が選ばれた。
TKMは3勝1敗で勝ち点を19に伸ばし、試合のなかった東京山九フェニックスを上回り暫定1位に浮上した。
スター・オブ・ザ・マッチを受賞した藤殊華
「1週間準備してきたことを出し切れて勝つことができて嬉しいです。やっぱり、スクラムを押せたのが一番うれしい」
藤は立正大出身。この日は古巣との対戦とあって、一緒に練習した元チームメートが並んでいた。それだけに「いつも以上に燃えました」。それがスクラムでの圧勝の原動力となった。
藤の父親は明大―神戸製鋼で活躍した元日本代表HO藤高之さん。追手門学院高1年のときに太陽生命シリーズにデビューし、裾野大会では3トライをあげ、機動力あふれる大型BKとして期待された。だが高1の冬に左膝の前十字靱帯を負傷。以来、肩や右膝などの負傷が続き、8度にわたって手術。心が折れそうになる時期もあったが「家族の支えが一番大きかった」と話す。ポジションもロックからPR1番へ移り、今年からはPR3番へ。
「両親からは『ケガに気をつけてガンバレ』と言われているだけです」
父・高之さんからは、「ラグビーのアドバイスは何も言われていません」と言う。だが、言われなくても目標は、父も到達した日本代表だ。
「目標の日本代表にまだなれていない。達成するまではやめられませんから」
そのためにも残る2戦に勝ち、全国大会に進み、日本代表へアピールを続ける覚悟だ。
大友信彦 (おおとものぶひこ) 1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。’87年からは東京中日スポーツのラグビー記事も担当し、ラグビーマガジンなどにも執筆。 プロフィールページへ |