ラグビー日本代表が世界の列強と連戦するリポビタンDツアー2025の最終戦・ジョージア戦が22日、トビリシのミヘイル・メスキ・スタジアムで行われ、日本がラストプレーでSO李が逆転PGを決め25-23で勝った。日本は今遠征初勝利。
日本はこの試合に先立ち、アイルランド戦のあとでベン・ガンターとリーチマイケル、ウエールズ戦のあとでファウルア・マキシとFW第3列勢が次々とチームを離脱。CTB廣瀬、FB矢崎も離脱し、厳しい状況でツアー最終戦を迎えた。


国歌斉唱_ワーナー・ディアンズ_小林賢太_竹内柊平_下川甲嗣_タイラー・ポール
試合は4分にジョージアがPGで先制、日本も7分にPGを返し、3-3で迎えた10分、日本ゴール前に攻め込んだジョージアがモールを押し、BKへ出したところで落球。これを日本CTBローレンスがキック。チェイスしたCTBライリーがドリブルしてチェイス、日本は一瞬のカウンターでトライを奪い、李のコンバージョンも決まり10-3と逆転。その後は互いにPGを決めあい、日本が16-6とリードして折り返した。

ディラン・ライリー

前半10分ディラン・ライリーのトライ

後半も互いにPGを決めあい、19-9で迎えた50分だ。日本が敵陣10m線付近に攻め込んだアタックでWTB植田とCTBライリーのパス交換でファンブルしたところでジョージアWTBタプツァゼがインターセプト。そのまま独走トライを決めそうな場面だったが、ここで戻ったのが日本のNo8コーネルセン。必死に戻ってゴール寸前で右手を伸ばし、タプツァゼのかかとをアンクルタップ。
これでバランスを崩したタプツァゼはトライラインまであと1mで落球。リーチ、ガンター、マキシと大黒柱級のバックローが次々と離脱する8番を託された日本最強のユーティリティーFWが見せたビッグプレーだった。

ジャック・コーネルセン

エピネリ・ウルイヴァイティのラインアウト
ゲームの流れを変えるビッグプレー。ジョージアはアタックの呼吸が乱れがちになり、キックも精度が低下。だが日本はSO李が鮮やかな50:22キックを決めるなど、敵陣に攻め込んでのラインアウトを3度にわたって得るが、チャンスの攻撃が精度を欠き、追加点を奪えない。中押しすべき時間帯に露呈した得点力不足が、最後に冷や汗の場面を招いてしまう。

初先発の植田和磨
65分、ジョージアは自陣22m線に攻め込まれた密集でスティールを決めPKを得ると、キックで日本陣10m線まで陣地を進め、ラインアウトから再びPK。日本ゴール前のラインアウトはいったんワーナーのスティールでピンチを脱出したかに見えたが、SH齋藤のキッククリアは伸びず。ジョージアは次の左ラインアウトからFWの連続攻撃を15フェイズまで重ねた末に左WTBタプラゼがトライ。SOアブダンジャゼのコンバージョンも決まり19-16の3点差に迫る。

小林賢太
それでも日本は次のキックオフを深く蹴り込むと、相手SHのEXITキックをワーナー主将が得意のチャージして敵陣ステイ。次のラインアウトからのアタックでジョージアが反則を犯し、日本はショットを選択。李がPGを決め、PGでは追いつかれない6点差に広げた。残りは6分。

齋藤直人
だがジョージアは諦めない。次のキックオフ直後に日本のペナルティーにより日本陣深くのラインアウトチャンスを得ると、ラインアウトから再びフェイズアタック。日本ゴール前であくまでフィジカルに体をぶつけ続け、77分、CTBカホイゼがゴールポスト右にトライ。これで1点差に迫ると、プレッシャーがかかる中でSOアブダンジャゼがコンバージョンを成功。22-23とついにジョージアが逆転する。日本にとっては、最後の最後に逆転負けした前週のウエールズ戦を思い出してしまう悪夢の展開。スコアも前週の23-24と瓜二つだ。

池田悠希
だが、前週とは違い、まだ時間は残っていた。78分09秒のキックオフ。ジョージアはキープしたが、交代で入ったSHが自陣を脱出しようとしたキックがダイレクトタッチとなり、残り1分を切って日本ボールのラインアウト。ここから3フェーズを重ねたところでラックでジョージア21ママムタヴリシュヴィリが密集の中で露骨なハンド。正面右約28mの位置で得たPKで日本は迷わずショットを選択。時計は81分、李が慎重にPGを沈めると同時にフルタイムの笛が鳴った。

李承信

ワーナー・ディアンズと李承信

李承信
ファイナルスコアは25-23。奇しくも昨年の仙台での試合とまったく同じスコアで勝敗が入れ替わった(それどころか、2012年は25-22、2015年は13-10、2016年は28-22と、過去13年間で7度対戦したうち5度が7点差以内の僅差で決着している)。世界ランキングもポイントも接近しているように、スタイルこそ違えど総合力は互角の勝負だったが、前回の対戦と、そして前週までとの違いはディシプリン。オーストラリア戦からの4試合で8枚と多発した(前週のウェールズ戦では3枚!)イエローカードがこの日はゼロ。ラスト15分で2トライを献上したのは課題ではあるが、そのディフェンスでもしもカードを出されていたら、最後の場面でPKを奪い返すのは難しかったかもしれない。対するジョージアは最後の場面で勝ちを意識しすぎたのか、絶対に反則してはいけないエリアと時間に露骨な反則を犯してしまった。最後の勝負を分けたのは間違いなくディシプリンの差だった。

わずか1トライに終わった決定力不足も課題だが、エディー・ジョーンズHCは「ラグビーには2つの要素がある。ひとつは15人対15人で戦うこと、これについては最近は実現しないことが増えているけれど、もうひとつの要素である、点数で1点でも上回った方が勝ちということは変わっていない」と言い切った。確かにテストマッチは勝利が最優先。しかもこの日の戦いは、来年のワールドカップの組み分けに向け、上位国との対戦が減るバンド2にあがるためにも、来年始まる世界12カ国によるネイションズチャンピオンシップに胸を張って参加するためにも勝たなければいけない、特別な試合だった。現実を見据えれば、見栄えを気にしていられるような位置づけの試合ではなかった。
その意味で、この日の日本代表は現実的な戦術を選択してギリギリの勝利を掴んだといえる。日本は前半、10-3とリードした後、20分までに、相手陣で2度にわたってPKを得てラインアウトを選択。トライを狙いに行ったが、一度はハンドリングエラーで、もう一度はフェイズを重ねたところで相手にスティールを許し、得点を奪えずじまい。だがこの日の日本はそこからトライ狙いに固執しなかった。以後の60分間、敵陣で得た5度のPKはすべて迷わずにショットを選択。李承信が最初の2本を含めて7度のキックをすべて決め、その結果が2点差の勝利だった。
その選択について尋ねると、李承信ははっきりと顔をあげて答えた。

李承信
「前半の最初にタッチに蹴ったのは、ワーナーと、相手の3番がシンビンでいなくなっていたので、トライを取りに行こうと話して決めました。でも2回せめてトライが取れなかった。このツアーを振り返っても、相手の22に入ってもスコアできないゲームが続いていたけれど、逆にそれをポジティブに判断できた。若いチームだけど、テストマッチの戦い方を学んで、タフなゲームを勝ち切れたと思う」
この秋を通じての課題である決定力不足が改善されていないことは露呈した。だがテストマッチで最も重要なのは勝利であり、特にこのジョージア戦でそれだけが必要だった。その意味では2点差での勝利は、この日のミッションコンプリートと言っていいだろう。
ただし、この勝利でツアーのすべて、今年の代表キャンペーンすべてに合格点が与えられるかと言えばそれは別だろう。秋のシリーズに露呈した前述の決定力不足。コンディション不良による離脱者の続出。セレクションにおける経験の浅い選手への偏りは昨年に続いてのもので、多くの若手を抜擢しながら定着率の低さも気になる。選手がそれぞれ経験値を高めたことは間違いないが、2025年の11試合で得なければならない経験の量、成長の量に対する達成率は、エディーHCが、あるいは日本協会の首脳が思い描いたものよりも低いのではないか。
1年間の最終戦におけるミッションは完遂した。だがそれだけで1年間のプロセスが全面的に称賛されるわけではないだろう。ワールドカップを勝ち抜くには30人以上の、本番で計算できる、経験値を備えた戦力が必要だ。2027年10月までの2年間、ファンの信頼を得て強化を進めるには、これまでの2年間のようなポテンシャルありきではない、よりシビアなロードマップの掲示が必要になる。
大友信彦(おおとものぶひこ) 1962年宮城県気仙沼市生まれ。気仙沼高校から早稲田大学第二文学部卒業。1985年からフリーランスのスポーツライターとして『Sports Graphic Number』(文藝春秋)で活動。ラグビーマガジンなどにも執筆。 プロフィールページへ |

大友信彦